tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

暮らしにプラス柿の葉すし/柿の葉すし本舗たなか 代表取締役 田中妙子さん

2017年12月25日 | 奈良にこだわる
本年(2017年)11月に発行された南都銀行の社内報『なんと』の巻頭言に、株式会社柿の葉すし本舗たなか代表取締役・田中妙子さんのエッセイが紹介されていた。素直なとてもいい文章で、これは社内だけにとどめておくのは、もったいない。ご本人の承諾をいただいたので、以下に全文を紹介させていただく。

株式会社柿の葉すし本舗たなか 代表取締役 田中妙子さん
身近にあるものの魅力

先日、あるイベントで「人生を変えた本」についてお話させていただく機会がありました。大げさなタイトルなのでどうしようかと頭を抱えたのですが、今までの人生を振り返る良い機会だと思ってお引き受けしました。その時に改めて認識した自分の気持ちの変化について今回ご紹介させていただきます。

私の先祖は大工で、職人を抱える傍ら、明治36年頃から今のJR五条駅前で食堂を営んでいました。そこで好評だった柿の葉すしが弊社の柿の葉すしの始まりで、父を早くに亡くした祖父が昭和48年に柿の葉すし専門店として法人化しました。

私が生まれたのは昭和52年ですので、母である現会長は苦労して私と会社を同時に育ててくれました。そのため私は幼い頃から家業に慣れ親しみ、一人娘ということもあって、周囲からは常に跡取りという目で見られていたことを記憶しています。

ただ、私自身は身近で働く母を見過ぎたせいか、物心つく頃から漠然と勤め人になりたいと考えるようになり、母からも自分のしたいようにしなさいと言われていたため、大学進学を機に五條を離れました。

当時は都会への憧れと、とにかく柿の葉すしと縁遠い所へ行きたいという気持ちが強く、大学卒業後も実家には戻らず、建築業界を志し住宅メーカーに就職しました。その後も、家業を継がないのにこの先親を頼るわけにもいかないと、資格を取って専門職として働いていました。

五條を離れていた約15年の間、大学のある西宮、職場のある京都、どちらも予想通り柿の葉すしの認知は低く、次第に地元や家業とも縁遠い日々を送るようになり、柿の葉すしを食べる機会も少なくなっていきました。そうなると不思議なもので、時々無性に柿の葉すしが食べたくなり、おかしな話ですが、わざわざ自社の店舗に買いに行って、周囲の人にも柿の葉すしを勧めるようになっている自分がいました。

馴染みのない人にいかに柿の葉すしを好きになってもらおうかと、お花見やアウトドア、ホームパーティや残業時の夜食、お祝いの席など、日常生活で思いつく限り柿の葉すしを差し入れしたものです。その甲斐あって会社を退職する頃には周囲の人はすっかり柿の葉すしのファンとなり、今でもイベント毎に私が柿の葉すしを持参することが恒例となっています。

柿の葉すし同様、目新しいものは何も無いと思っていた五條や奈良についても、他県の友人を案内するうちに、昔ながらの素朴さや温かさ、四季折々の自然、歴史文化など、今までとは違った見方ができるようになり、自分にとって懐かしく居心地の良い場所となりました。

こうして私は、幼い頃から当たり前だった環境から離れて初めて、柿の葉すしと地元の魅力に気づき、今までにない愛着と誇りを持てるようになったのです。

後に母との話し合いを経て、自分の意思で家業に戻り今日があるわけですが、現在においても、この時の経験と気持ちは私の基本軸であり、とても大切にしています。そして、健全な会社経営はもちろん、地元の伝統的な食文化である柿の葉すしと、柿の葉すしが生まれた奈良・五條の魅力をより多くの方に知っていただくことが私たちの会社の使命であり、そうすることで少しでも地元に貢献できればと思っています。

最近の新しい取り組みで、いろいろな世代の方に柿の葉すしを身近に感じてもらおうと「暮らしにプラス柿の葉すし」という提案を行っています。それはまさに、私自身が柿の葉すしと縁遠い環境で考え実践していた、柿の葉すしが活躍するシーン、柿の葉すしと一緒に組み合わせて美味しいもの、オススメの食べ方など、奈良名物・奈良土産だけではない柿の葉すしの魅力を一層引き立てる内容を中心に企画したものです。

これからも私たちは、200年以上前から地元の人々に愛されている郷土食、柿の葉すしのように、この地に根付き地元に愛される企業を目指していきたいと考えています。

田中妙子さん プロフィール
田中妙子(たなかたえこ)1977年生まれ。奈良県五條市出身。柿の葉すし店の一人娘として幼少期より家業に慣れ親しむ。高校卒業までを地元で過ごし、大学進学を機に兵庫県西宮市へ。関西学院大学社会学部卒業。趣味はスキー・スノーボード。

大学卒業後はミサワホーム近畿株式会社に就職。9年の在籍期間中にインテリアコーディネーターと二級建築士の資格を取得し京都市内で約100棟の家づくりに携わる。2010年五條に戻り柿の葉すし本舗たなかへ入社。約5年間の専務取締役を経て、2015年、同社代表取締役に就任。

祖父、母からバトンを受け継いだ3代目として「伝統と革新」をコンセプトに、奈良の伝統的な食文化である柿の葉すしを大切に守るだけではなく、現代の新しい 感覚をプラスしたブランディングに取り組んでいる。目標は200年先も柿の葉すし が人々に愛されていること。これからも奈良発企業として、全国・世界に向けて柿 の葉すしと奈良・五條の魅力を発信していきたい。


妙子さんは、よく観光シーズンには「なら本店」(奈良市・東向商店街)の店先に立ち、明るい声で柿の葉ずしを売っておられる。観光客は彼女が代表取締役とはつゆ知らず、足を止めて商品に見入っている。

柿の葉すしはもともと、吉野川・紀の川流域(奈良県五條市・吉野郡、和歌山県橋本市・伊都郡周辺)の行事食・伝統食で、家で手作りしていたものだ。今や、いつでも買えて食べられる身近な食品となった。これは妙子さんのおじいさま・田中修司さん(柿の葉すし本舗たなか創業者)のご尽力によるものだ(詳しくは、こちら)。

柿の葉すし本舗たなかでは、季節限定商品に力を入れている。ちょうど今は「お年賀すし」(お正月用ギフト商品)を取扱中である。「暮らしにプラス柿の葉すし」とは、良いコンセプトだ。ぜひ全国に広めていただきたいものである。妙子さん、これからも頑張ってください!

コメント
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