南都経済研究所が発行する『ナント経済月報』(2025年3月号)の「研究員の視点」欄に、〈ナイトタイムエコノミーのポテンシャル〉という記事が掲載されていた。執筆されたのは、上席研究員の秋山利隆さんだった。「ナイトタイムエコノミー(夜間観光)」というと何だか仰々しいが、要は夜の時間(日没~日の出)を使った観光ということだ。
※トップ写真は、なら燈花会で撮影(2012.8.8)
かつて私は京都市内の営業所に勤務しているとき、「夜の定期観光バス」に乗車したことがある(業界の親睦会)。アフター5に、京都文化博物館(旧日銀京都支店)の見学、神社の舞台での芸舞妓さんの踊り、「包丁式」の見学、そのあと夜の庭園を眺めながら京料理、というコースで、京都の文化をよく知ることができた。
「こういう定期観光バスのコースが奈良にもあれば、泊まってもらえるのになぁ」と思ったが、当時の奈良にはなかったし、今も(常設は)ないようだ。若草山・高円山からの夜景、お坊さんの出張法話、LAMP BAR などの一流のバーめぐりなど、できることは数多いのだが。今の時期なら、東大寺二月堂の「修二会」を組み込むこともできる。
何より奈良は清酒の発祥地なので、定期観光バスでなくても、地酒の飲み比べなどのイベントも楽しいし、お酒を飲めば泊まりたくなる。
早朝のイベントなら、社寺への朝拝(朝参り)という手もある。早朝のすがすがしい境内の雰囲気を味わうことができる。朝食に、名物「大和の茶粥」を味わうのも、良いだろう。夜や朝なら、昼間のオーバーツーリズムを避けることもできるので、良いことずくめだ。いかがだろうか。では、秋山さんの記事を以下に紹介する。
ナイトタイムエコノミーのポテンシャル
大阪・関西万博の開催は、関西全体の存在感を世界的に高め経済・産業の新たな飛躍のきっかけとなることから、経済産業省近畿経済産業局は「拡張万博」と称し、近畿2府4県と福井県で万博活用戦略を展開している。また、各自治体では地域特性を踏まえた施策が実施されており、豊富な観光資源を有する奈良県は、大阪観光局との連携協定などを通じて、万博を契機とした広域観光推進に取り組んでいる。
上記の連携協定事項の1つに「ナイトタイムエコノミー(夜の観光)の推進に関すること」がある。ナイトタイムエコノミーは、日没から日の出までの消費行動や社会活動への参加を指す。欧米ではロンドンやニューヨークで経済効果や雇用者数が試算されており数字の裏付けが示されている他、アムステルダムなどの先進都市では、いわゆる夜の街と行政の橋渡し役を担うナイトメイヤー(夜の市長)制度により、騒音問題など住民側の意向を踏まえた上で、ステークホルダー間の信頼関係を構築する仕組みが形作られている。
一方、東京都が2022年に実施した調査では、ナイトタイム観光に関する外国人観光客の行動は、食や買い物に関する行動と比べて下位に低迷しており、裏を返せば今後の伸びしろが大きいと言える。ナイトタイムの活用は観光消費額の拡大の他、時間帯の分散を通じたオーバーツーリズムの緩和にもつながることから、わが国の成長戦略と社会問題解決の両面から注目されている。
ここまでナイトタイムエコノミーに係る取組みを紹介してきたが、そのいずれもが世界的な大都市に関する内容である。これらに共通して存在するのは、ナイトタイムエコノミーの重要な要素である飲食店・宿泊施設の集積と、経済活動を恒常的に支えるビジネス需要である。
この2要素が大都市に比べて少ない地方都市は、ナイトタイムエコノミーの推進にどのように取り組んでいくのがよいだろうか。ここでは奈良県内での施策展開を踏まえ、3つの視点から考察する。
1点目は「昼の賑わいを夜に再現すること」である。文化観光が中心の奈良県では、昼間の観光地の賑わいと夜間の静寂の差が大きい。それが奈良県の良さであり地元民の誇りの一つでもあるが、経済面では弱みとなり、日帰り観光が多い一因ともなっている。
なら燈花会や社寺の特別拝観などの夜間イベントが期間限定で実施されているが、観光消費に対するインパクトは限定的である。奈良県は飲食店や娯楽施設が大都市に比べて少なく、当該イベントを目的とした宿泊需要を除くと、その経済効果はどうしても小さくなる。
2点目は「その地域にしかない夜のコンテンツの発掘」である。奈良県では奈良時代からの神社仏閣や奈良公園(鹿)が思い浮かぶ。関係者の協力が前提となるが、実証事業などで地域資源の新たな可能性を発掘していくことが重要だろう。
3点目は「日の出前後の時間の活用」である。早朝のイベント参加は、大阪方面への終電時間に間に合う夜間イベントよりも宿泊需要が高まる。夜の奈良を効率的に楽しんでもらい、早朝に奈良県にしかないコンテンツを体験してもらうことで、観光客の満足度も高まるのではないだろうか。
外国人観光客の消費行動は、体験型観光などの「コト消費」のウェイトが高まっている。地方都市のナイトタイムエコノミーは未開拓な部分も多くポテンシャルは大きいと言えるが、公共施設の夜間利用に係る財政負担や夜間・早朝の移動手段の確保、人手不足の問題についてもあわせて精査・検討していく必要があるだろう。
【参考文献】齋藤貴弘著「ルールメイキング ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論」(学芸出版社)
※トップ写真は、なら燈花会で撮影(2012.8.8)
かつて私は京都市内の営業所に勤務しているとき、「夜の定期観光バス」に乗車したことがある(業界の親睦会)。アフター5に、京都文化博物館(旧日銀京都支店)の見学、神社の舞台での芸舞妓さんの踊り、「包丁式」の見学、そのあと夜の庭園を眺めながら京料理、というコースで、京都の文化をよく知ることができた。
「こういう定期観光バスのコースが奈良にもあれば、泊まってもらえるのになぁ」と思ったが、当時の奈良にはなかったし、今も(常設は)ないようだ。若草山・高円山からの夜景、お坊さんの出張法話、LAMP BAR などの一流のバーめぐりなど、できることは数多いのだが。今の時期なら、東大寺二月堂の「修二会」を組み込むこともできる。
何より奈良は清酒の発祥地なので、定期観光バスでなくても、地酒の飲み比べなどのイベントも楽しいし、お酒を飲めば泊まりたくなる。
早朝のイベントなら、社寺への朝拝(朝参り)という手もある。早朝のすがすがしい境内の雰囲気を味わうことができる。朝食に、名物「大和の茶粥」を味わうのも、良いだろう。夜や朝なら、昼間のオーバーツーリズムを避けることもできるので、良いことずくめだ。いかがだろうか。では、秋山さんの記事を以下に紹介する。
ナイトタイムエコノミーのポテンシャル
大阪・関西万博の開催は、関西全体の存在感を世界的に高め経済・産業の新たな飛躍のきっかけとなることから、経済産業省近畿経済産業局は「拡張万博」と称し、近畿2府4県と福井県で万博活用戦略を展開している。また、各自治体では地域特性を踏まえた施策が実施されており、豊富な観光資源を有する奈良県は、大阪観光局との連携協定などを通じて、万博を契機とした広域観光推進に取り組んでいる。
上記の連携協定事項の1つに「ナイトタイムエコノミー(夜の観光)の推進に関すること」がある。ナイトタイムエコノミーは、日没から日の出までの消費行動や社会活動への参加を指す。欧米ではロンドンやニューヨークで経済効果や雇用者数が試算されており数字の裏付けが示されている他、アムステルダムなどの先進都市では、いわゆる夜の街と行政の橋渡し役を担うナイトメイヤー(夜の市長)制度により、騒音問題など住民側の意向を踏まえた上で、ステークホルダー間の信頼関係を構築する仕組みが形作られている。
一方、東京都が2022年に実施した調査では、ナイトタイム観光に関する外国人観光客の行動は、食や買い物に関する行動と比べて下位に低迷しており、裏を返せば今後の伸びしろが大きいと言える。ナイトタイムの活用は観光消費額の拡大の他、時間帯の分散を通じたオーバーツーリズムの緩和にもつながることから、わが国の成長戦略と社会問題解決の両面から注目されている。
ここまでナイトタイムエコノミーに係る取組みを紹介してきたが、そのいずれもが世界的な大都市に関する内容である。これらに共通して存在するのは、ナイトタイムエコノミーの重要な要素である飲食店・宿泊施設の集積と、経済活動を恒常的に支えるビジネス需要である。
この2要素が大都市に比べて少ない地方都市は、ナイトタイムエコノミーの推進にどのように取り組んでいくのがよいだろうか。ここでは奈良県内での施策展開を踏まえ、3つの視点から考察する。
1点目は「昼の賑わいを夜に再現すること」である。文化観光が中心の奈良県では、昼間の観光地の賑わいと夜間の静寂の差が大きい。それが奈良県の良さであり地元民の誇りの一つでもあるが、経済面では弱みとなり、日帰り観光が多い一因ともなっている。
なら燈花会や社寺の特別拝観などの夜間イベントが期間限定で実施されているが、観光消費に対するインパクトは限定的である。奈良県は飲食店や娯楽施設が大都市に比べて少なく、当該イベントを目的とした宿泊需要を除くと、その経済効果はどうしても小さくなる。
2点目は「その地域にしかない夜のコンテンツの発掘」である。奈良県では奈良時代からの神社仏閣や奈良公園(鹿)が思い浮かぶ。関係者の協力が前提となるが、実証事業などで地域資源の新たな可能性を発掘していくことが重要だろう。
3点目は「日の出前後の時間の活用」である。早朝のイベント参加は、大阪方面への終電時間に間に合う夜間イベントよりも宿泊需要が高まる。夜の奈良を効率的に楽しんでもらい、早朝に奈良県にしかないコンテンツを体験してもらうことで、観光客の満足度も高まるのではないだろうか。
外国人観光客の消費行動は、体験型観光などの「コト消費」のウェイトが高まっている。地方都市のナイトタイムエコノミーは未開拓な部分も多くポテンシャルは大きいと言えるが、公共施設の夜間利用に係る財政負担や夜間・早朝の移動手段の確保、人手不足の問題についてもあわせて精査・検討していく必要があるだろう。
【参考文献】齋藤貴弘著「ルールメイキング ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論」(学芸出版社)
