tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

「スーパー能・世阿弥」(梅原猛作)、今日から前売り開始!(産経新聞「なら再発見」第35回)

2013年06月30日 | なら再発見(産経新聞)
昨年催された「ちびっ子桧垣本座卒業発表会」=大淀町

産経新聞奈良版・三重版などに好評連載中の「なら再発見」、35回目の今回(6/29付)は「大淀町・桧垣本 熱い志が支える猿楽発祥の地」。執筆されたのはNPO法人「奈良まほろばソムリエの会」の藤村清彦さんである。以下、全文を紹介する。

 県南部の大淀町桧垣本(ひがいもと)で長年にわたり、この地の歴史的な文化遺産を蘇らせ継承する活動が、関係者の熱い志に支えられて続いている。
今年2月9日、同町文化会館「あらかしホール」で、一噌(いっそう)・森田・藤田流の「笛三流儀秘曲の会」が催された。わずか40センチの能管(のうかん)一本でこれほどしなやかでバネのある音が出せるのか、と観客の多くは圧倒されたのではなかろうか。
 続く3月23日には、同館で「大和猿楽子どもフェスティバル~ちびっ子桧垣本座卒業発表会」が催され、県内外の小学校からの出演もあり、大いに盛り上がった。



 世帯数7千戸弱の大淀町が、なぜ1年間にわたり、地元の小学生に笛や小鼓などの能楽のお囃子(はやし)や謡曲を教える活動を継続しているのか。それはここが能楽に発展した桧垣本猿楽発祥の地であるからだ。
 桧垣本座という歴史的な文化財産を現代に蘇らせ継承する企画で、大阪の小鼓方大倉流宗家大倉源次郎師、名古屋の能楽笛方藤田流宗家藤田六郎兵衛師をはじめ、多くの能楽関係者の支援を得ている。
 特に桧垣本が能楽師にとってとても大切な場所とのことから、能楽振興のために一流の能楽師が流派を超えて立ち上げた「能楽座」にいたっては、大淀町での公演が12回となる。大倉源次郎師が監修する「ちびっ子桧垣本座」の卒業発表会は11回を数えるまでになった。
 大淀町は、自国の伝統文化を理解することが異文化理解の基盤につながると主張する。ともすれば教育にまで利益や採算性の尺度を持ち出す現代の風潮の中で、伝統芸能を継承する活動は大変なことだろう。



桧垣本座の説明板が設けられている桧垣本八幡神社=大淀町

 桧垣本座の歴史についての詳しい説明板は、ホール南側にある桧垣本八幡神社に設けられている。近鉄下市口駅北側の高台に立地する美しい神社だ。 
 今は視界が木々に遮られているが、かつては眼下にこの地の舟運(しゅううん)を担った吉野川、東を向けば伊勢と大和の国境にそびえる高見山の秀峰を望むことができた。ここに立てば、古代から近世まで、この地が占めた地の利を実感することができる。
 「なぜ、この地で猿楽が起こったのか」という疑問に対し、大淀は吉野・熊野・高野という神仏の聖地への入口であり、大和と紀州・伊勢を結ぶ文化の回廊が交差する所であったのがヒントになる。
 同町教育委員会学芸員の松田度(わたる)さんは「南大和の高地から見ると、国中(くんなか)(大和盆地)から見る大和の歴史とは違ったものが見えてきて、面白いですよ」と謎かけする。
 9月7日には、第13回能楽座大淀町公演で梅原猛原作の「スーパー能・世阿弥」の公演が予定されている。東京国立能楽堂に続いての公演で、一流の出演者ばかりだ。能楽が初めての人でも親しめる現代日本語での公演となるだろう。
 今年は世阿弥生誕650年記念の年。9月7日には、1人でも多くの方が会場のあらかしホールへ足を運び、熱い志に支えられた一流の芸に触れていただきたい。(NPO法人奈良まほろばソムリエの会 藤村清彦)


9月7日の「スーパー能・世阿弥」(第13回能楽座大淀町公演)のチケットは、今日(6/30)が発売開始日である。こちらのHPから、ぜひお申し込みいただきたい。奈良交通は、このツアーの観覧を組み込んだ鑑賞バスツアーも企画している。

桧垣本座猿楽については、大淀町のHPに詳しい情報が出ている。町を挙げて伝統芸能を継承しようという取り組みは、素晴らしいことである。この活動は、ぜひ末永く継承していただきたいものである。藤村さん、貴重な情報を有難うございました!

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旬の駅ならやま(野菜直売所)がオープン。五島の新鮮魚介も販売!(2013Topic)

2013年06月29日 | お知らせ
今朝(6/29)の産経新聞奈良版に《野菜直売所「ならやま」きょうオープン》という記事が出ていた。

地元農家が栽培した新鮮な野菜や果物などを販売する直売所「旬の駅ならやま」が29日、奈良市奈良阪町にオープンする。売り場面積は約600平方メートル。市内の奈良阪地区や山間部の柳生地区で収穫したナスやタマネギ、ジャガイモなどを取りそろえる。

大和郡山市内や御所市内の地卵、奈良市大柳生町の大和肉鶏、長崎県の五島列島から届くアジのすり身などの海産物、サツマイモを使った「かんころもち」なども販売する。

神田和樹店長(30)は「野菜の直売所が少ない地域だったので、気軽に来て新鮮な野菜を楽しんでほしい」と話している。営業時間は午前9時~午後6時。年始のみ休業。問い合わせは、旬の駅ならやま(℡0742-22-2930)




(6/30追記)ブログ「鹿鳴人のつぶやき」に旬の駅・ならやまへという記事が出ていた。
オープン初日の29日にいってきました。かつてのミドリ園という花や苗などを販売されていた跡です。店内で、さっそく旧知の山本浩扶臣(ひろふみ)さんに出会いました。経営陣のひとりだということでした。車と人で盛況でした。野菜、卵、かきもち、豆腐、こんにゃく、お茶、お米、植村牧場の乳製品、九州の五島列島からの魚など。オープンして2時間しか経たない11時というのに、野菜など売り切れ近しの平台もありました。わたしもいろいろ買い物をしました。中でも海の幸、五島列島のあじの一夜干し3枚、300円でした。オープンして29日と30日は1500円以上お買い上げで、ジャガイモ1キロプレゼントということで、ジャガイモをもらいました。ご繁盛を祈念したいと思います。
なお、食器はぜひ器まつもりでお買い求めいただきたい。


向かって左から勝本吉伸さん(直売所マイスター)、山本浩扶臣さん(事業主)、神田和樹さん(店長)

「旬の駅ならやま」は、売り場面積は600㎡(約240坪)、駐車スペースは約100台という巨大な直売所である。全国最大級の売り場面積を誇る「まほろばキッチン」(橿原市常盤町)の約半分の規模だが、もちろん奈良市内では最大である。

この話は、魚佐の金田充史さんからお聞きしていた(写真も、金田さんからいただいた)。柳生や奈良阪の野菜や果物、また大柳生のお米も販売されるという。五島列島の海産物も、魅力である。五島を夕方に出発する物流便に載せると、翌朝、奈良に届くのだそうである。「奈良は海がないから新鮮な魚介類が味わえない」など大昔の話で、今はすっかり解消されているのである。ぜひ、お訪ねください!
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奈良の「感動の瞬間」との出合いを(by JTB) 観光地奈良の勝ち残り戦略(72)

2013年06月28日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
6月25日(火)に開催された「第1回 奈良の活性化に向けた魅力ある観光地域づくりセミナー」(主催=JTB)の続きを紹介する。このセミナーは
※トップ写真は、野迫川村の雲海。ホテルのせ川のホームページより

第1部 観光地域づくりセミナー
 1.魅力ある観光地域づくりに向けて

 株式会社JTB西日本奈良支店 支店長 森真也 氏
 2.地域の活性化に向けた魅力ある観光地域づくり
 株式会社JTB旅行事業本部 観光戦略室 観光立国推進担当マネージャー 山下真輝 氏
第2部 観光地域づくりワークショップ( 山下真輝氏のコーディネートによる)
第3部 意見交換会・懇親会

というもので、6/26にはⅡ.地域の活性化に向けた魅力ある観光地域づくりについて、詳しく紹介した。今日は森支店長の「Ⅰ.魅力ある観光地域づくりに向けて」の番である。いただいた資料には8ページ分のPowwer Point資料がついていたので「30分ほどお話いただけるのかな」と思っていたら、なんと、お話はわずか10分だった。しかし内容の濃いお話だったので、資料に沿って以下に詳しく紹介する。なお太字は私がつけた。

1.奈良の観光における課題として思うこと
(1)歴史・神社仏閣・世界遺産等様々な観光素材が豊富に存在する一方で(特別拝観・展示等の取組等により価値を提供しているが)、単なる「モノの羅列」に終わっており、十分に活用できていない。

(2)歴史や伝統を守りありのままを楽しむことも重要であるが、お客様目線で考えた場合、可能なものは工夫・加工することも必要である。

(3)「日本人のお客様が楽しむ観点」「外国人のお客様が楽しむ観点」「地元のお客様が楽しむ観点」で整理した上で、奈良を訪れるお客様だけではなく地元のお客様にも、奈良の観光地に行ってみたい、と思っていただく必要がある。

(4)旅行において重要な要素である「食」について、大和牛・ヤマトポーク・大和肉鶏・大和野菜等豊富に存在する一方で、その美味しさ・良さがお客様に十分伝わっていない。

(5)行政・民間を含めて多数の方が奈良への強い愛着を持って観光振興に様々な形で取り組んでおられるが、その情報が点在しており、お客様や旅行会社に十分伝わっていない。

(6)様々な企画の決定時期と旅行会社の商品造成時期とが合っていないことがあり、商品に反映される企画が限られている。他にもあると思いますが…

2.解決策(こんなことをしたらという仮説)
(1)心の豊かさに繋がる奈良に行く意味・価値(他との違い)を作る
・奈良に行けば心が静まると思っていただく
奈良県の「祈りの回廊」は奈良をイメージできる素晴らしいネーミング。単なる特別拝観に終わってはもったいない。心を落ち着かせる法話や風景などを整理して、悩んだ時、疲れた時に奈良に行こうと思っていただけるイメージを作る。奈良の木材を使って、ホッとできる空間を作ることも関連付けができる。

・リタイア後は奈良に住みたいと思っていただく
奈良県は健康長寿日本一を目指している。奈良に行けば心が静まるイメージ、福祉医療の整備、大規模災害の少なさをアピールして、リタイア後は「国のはじまり 奈良」に原点回帰して住もう、と思っていただける流れを作る。

・旅行に行くことを不安に思っている方に、奈良なら行けると思っていただく
ユニパーサルツーリズムの観点から、バリアフリーの整備のみならず、大きな
投資をしなくてもできる範囲のおもてなしの体制を奈良の観光関係者や奈良市民に醸成する。結果、高齢で歩くことに不安を感じる方や病気が心配な方など、旅行に行くことを躊躇されている方の不安を解消し、奈良で元気になる流れを作る。

・奈良に行けばおいしいものが発見できる、と思っていただく
奈良の食材を使ったメニューを様々な料理人の方に考えていただき、それを集める。また、自宅でも作れるよう一部そのレシピを公開する。結果、飲食店の販売に留まらず、奈良県産の食材の売上拡大に繋がる。
              
・奈良に行って、平和を祈ろうと思っていただく
日本に2つしかない歴史的に有名な大仏は、奈良の大きなアピールポイント。大仏は天平時代に天変地異が相次ぐ不安定な世の中で世界平和を祈るために造られ、多くの方が参拝した。単なる見物ではなくその意味を伝え、大仏詣でを復活させる。

(2)豊富な素材をデザインして、奈良を楽しむ企画を作る
・夜景・星座鑑賞で夜の楽しみを作る
生駒の夜景、新日本三大夜景の若草山、星空がきれいな場所を選定するなど、奈良で宿泊するお客様が参加できるオプションを作る。函館山昼神温泉等のイメージ)



・朝の拝観で平和を祈る
奈良に来て心を休める、平和を願うことを念頭に朝の拝観が可能なところを整理する。

・朝のエクササイズで健康を作る
早朝奈良公園に行けばインストラクターがいて、皆でエクササイズができる環境を整備する。結果、健康を作る。その後の朝食がおいしくなる(中国の太極拳のイメージで、地元の方も参加できる)。

・商店街を楽しむため、わかりやすく目的別に整理する。
まずは、どこにどんなお店があるかがわかる情報を整理して、発信する。発展形として、昔からの場所で営業する観点から離れ、観光のお客様が楽しめるゾーン、地元のお客様が楽しめるゾーン、おいしいものが食ぺられるゾーン等に整理してモール化するようなことも検討する(高松丸亀商店街のイメージ)。

・奈良の「感動の瞬間(とき)100選」を作る
訪れる季節、天候、時間ごとに違う、行ってみたくなる奈良の風景を集め、その瞬間を見るために奈良に行こうと思っていただける素材を集める。皆がそれを理解し、また奈良に来ていただけるよう、お勧めができるようにする。地元の方がその素材を提供するとともに、コンテストで公募する。


奈良大和の祭り
野本暉房
東方出版

ここに出てきた「感動の瞬間100選」は、北海道における成功事例である。北海道感動の瞬間(とき)100選実行委員会のHPによると、

《「北海道 感動の瞬間(とき)100選」は、北海道の人々が日常の暮らしの中で何気なく見ている自然の景色や人々の情景の中から、「北海道ならでは」「その土地ならでは」のものや、「見られる確率は低いが見られたらとても感動する」「ある季節のある時期にだけ見ることができるいつもと違う景色」「日常の農業、漁業の中で特定の時期にしか見られない情景」など、旅行商品やガイドブックに紹介されにくいものもあえて発掘し、北海道に来ていただいたお客様に「感動」していただける「瞬間」を集めて紹介しようという考えのもと、北海道の旅館・ホテルやバス会社、観光施設、旅行会社など、観光関連事業に従事する人々が、身近にある「感動の瞬間」を持ち寄り、選定したものです》。

《選定されたものは、見られる確率がかなり低いものや、その年の気候や当日の天気に大きく左右されるものも多く、また、見られたときの感動の度合いも大きな感動から小さな感動まで様々な「感動の瞬間」がありますが、いずれも1回のチャンス、1日の訪問で「感動の瞬間」に出会えることは容易ではありません。最高の一瞬と出会うため、その土地に滞在し、じっくり時間をかけて楽しむ旅こそが北海道の旅のスタイルであり魅力であることを多くの皆様に体感していただけることを願うとともに、「北海道 感動の瞬間(とき)100選」がそのお役に立てれば幸いです》。

・ライブの聖地にする
昔は、社寺の境内で様々な芸能が開催され、人々がそれを楽しむ舞台になっていた。奈良の世界遺産でライブができる会場を整備し、アーチストが年和を願ってライブを行う聖地とし、ライブのメッカとして世界中から人を集める(世界遺産を舞台にできることと、世界平和を願うところがポイント)。

北海道 感動の瞬間(とき)100選の例
JTBが国内旅行活性化を目的に半年ごとに展開する国内デスティネーションキャンペーン「日本の旬」。2013年度上期(4月1日~9月30日)は「北海道」を対象地域として、旅行商品や情報発信を通じて、北海道の旅ならではの“感動”を伝える。

奈良では、奈良でしか味わえないコトが多いため、『感動の瞬間』シリーズは大いに参考。特別拝観、特別法話、貴重な文化遺産・空間を体感するなど、奈良ならではの『特別感』『歴史の目撃』などをシリーズにまとめるなど。



私が撮った「感動の瞬間」(東大寺二月堂・裏参道)。08.2.10撮影

(3)奈良観光に関わる人財・情報・資金を一元的に集約し、効果的に活用する
・奈良観光プラットフォームを作る
プラットフォームを作り、奈良県、奈良市、行政、民間等の垣根を撤廃して、奈良の観光に関わる人財・情報・資金を一元管理するとともに、集中的に有効活用する。

・奈良の観光に関わる情報を目的別に整理する
奈良に来た方が見る直近の情報、奈良に行く計画を作るための少し先の情報、旅行会社が商品化するための半年以上先の情報、にまとめて整理する。

・情報発信を一元化する
奈良観光に関するホームページを一元化して、そこを見れば観光のお客様も、旅行会社の商品造成担当者も、すぺての情報が得られるようにする。

・情報と利用者をマッチングさせる
整理された情報を、必要とされるところにマッチングさせるぺく営業を行う。


土門拳 古寺巡礼
土門拳
小学館

森支店長の話のなかで「感動の瞬間」には、いたく感心した。奈良県下で著名な「感動の瞬間」といえば、土門拳の「雪の室生寺五重塔」である。『土門拳 生涯とその時代』(法政大学出版局)によると、

土門は雪の室生寺を知らず、蝉時雨の降るような青葉の室生寺が、一番好きだった。室生寺ぐらい山気がジーンと肌に迫るところはなかったのである。雪が降ったと電報をもらい、大急ぎで東京から出かけるが、着いた時には溶けてしまっていたということが、何度もあった。

『女人高野室生寺』をまとめるにあたって、雪の室生寺をどうしても撮って入れたかった。原稿の締切を延ばし延ばしにした挙句、これが最後の機会と考え、撮影行を計画した。版元の美術出版社ではこの雪の部分のページをあけて刊行を待っていた。毎日のように橋本屋の女将に電話を入れるのが日課となっていた。

橋本屋は一年中予約で一杯、何日もねばるわけにはいかなかった。それで、弟子の北沢勉に頼み、1978(昭和53)年2月中旬、弟子の毛利と長男樹生とともに、奈良県御所市の病院に入院、療養しながら雪を待つことになった。例年にない暖冬で、天気予報は「晴れ」が続いた。室生の谷は雪の気配はなかった。寒さがぶりかえすと考えていた東大寺のお水取りが終われば、あきらめて帰ろうと考えていたのである。

寒波接近の予報に、3月10日、土門たちは橋本屋に移り、雪を待った。雪を撮影する時は、牧は東京にいた。土門からしょっちゅう電話が入り、3月10日橋本屋にきた。11日、今日帰ると決めていたが、もう1日のばすことにした。その日は雪が降るというお水取りの日(tetsuda注:東大寺二月堂修二会において、若狭井から水を汲む日)だったからである。

12日、お水取りの日の朝、初代が玄関のカーテンをあけると、一面の雪景
色だった。従業員も土門が雪を待っていたことを知っており、皆泣いた。初代は早く知らせねばと寝間着のまま二階の土門の部屋にかけ込んだ。「先生雪が降りましたよ」というと、土門は降りましたかと起き上がり、助手に窓をあけさせ、初代の手を握ってぽろぽろと涙を流した。土門が見たまだ薄暗い空間には、横なぐりに雪が降っており、「ぼくの待っていた雪はさーっと一掃け掃いたような春の雪であった」(土門『女人高野室生寺』「あとがき」)。

自分で身づくろいができず、毛利が着せるのだが、準備に時間がかかった。初代は見ていてもどかしかった。玄関から送り出す時、土門はにこにこして、雪に挑んでいく気迫が伝わってきたという。「予定していた撮影場所で約10カット。土門さんの指示で毛利さんらがセットしたカメラのシャッターを40回ほど切りおえたときは、すでに昼近く、あわ雪はいつしか消えかかっていた」
(「『カメラの鬼』に涙」『朝日新聞』大阪版、1978年3月14日)。


入江泰吉のすべて―大和路と魅惑の仏像 (別冊太陽)
入江泰吉
平凡社

このような「奈良の感動の瞬間」は、ほかにもたくさんある。自然のものだと、大神神社の「ササユリ」、奈良公園の「モリアオガエルの産卵」、野迫川村の「雲海」、宇陀市の「かぎろひ」…。伝統行事だと、吉祥草寺(御所市)の「茅原のトンド」、念仏寺(五條市)の「鬼走り」、お水取りの「走りの行法」「達陀(だったん)」、金峯山寺の「蛙とび」など…。

それにしてもさすが奈良支店長、奈良観光の課題とその解決策がきれいに整理され、まとめられている。「奈良の感動の瞬間」以外の提言の部分から、ベスト5を厳選すると

・悩んだ時、疲れた時に奈良に行こうと思っていただけるイメージを作る
・リタイア後は奈良に住みたいと思っていただく
・旅行に行くことを不安に思っている方に、奈良なら行けると思っていただく
・奈良に行けばおいしいものが発見できる、と思っていただく
・奈良観光に関わる人財・情報・資金を一元的に集約し、効果的に活用する

ということになろうか。森支店長、そしてJTBさん、示唆に富むお話を有難うございました!
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天誅組講座「藤本鉄石の魅力に迫る」、7月20日(土)開催!(2013Topic)

2013年06月27日 | 天誅組
藤本鉄石(てっせき)は「天誅組三総裁」の1人である。Wikipedia「藤本鉄石」によると、

幕末の志士・書画家。諱は真金。通称を学治・津之助、字を鋳公。鉄石・鉄寒士・吉備男子・柳間契民・海月浪士・取菊老人・都門売菜翁など多数の号がある。岡山藩を脱藩し、諸国を遊歴して書画や軍学を学ぶ。京都で絵師として名をなし、尊攘派浪人と交わり志士活動を行った。

大和行幸の先駆けとなるべく大和国で挙兵して天誅組を結成し、吉村虎太郎、松本奎堂とともに天誅組三総裁の一人となる。その後、幕府軍の討伐を受けて天誅組は壊滅し、藤本も戦死した。


7月20日(土)、連続講座「天誅組三総裁~その志に学ぶ~」の第3回として、「備前の異才・藤本鉄石~鉄石の魅力に迫る」という講演会がある。講師は天誅(忠)組記念館藤井寺展館長の草村克彦さんである。パンフレットは、こちら(PDF)。「月刊大和路ならら」7月号によると

[東吉野村]天誅組150年顕彰記念連続講座「天誅組三総裁~その志に学ぶ~」
第3回 備前の異才・藤本鉄石 ~鉄石の魅力にせまる~

7月20日 13時から14時30分。会場は東吉野村住民ホール。講師は天誅(忠)組記念館藤井寺展館長の草村克彦氏。聴講無料、定員240名、要申し込み。詳しくは問い合わせ。
■問い合わせ ☎0746・42・0441(実行委員会)
※11時35分に近鉄榛原駅南口より無料送迎バスが運行される。申し込み時に要確認。

草村さんは藤井寺市にお住まいの会社員だが、「維新の魁(さきがけ)・天誅組」保存伝承・顕彰推進協議会(五條市新町3丁目)の特別理事であり、奈良新聞(09.6.27付)によると『天忠組の跫音(あしおと)』というご著書もある。

(6/27 21:00追記)草村さんからいただいたコメントによると《『天忠組の跫音』は既に完売で、全く手元には有りません。県立図書情報館には有ると思います。現在は天忠組のエッセイ集的な『天忠傑作』を出しております。これは五條市の長屋門、安堵町歴史民俗資料館、東吉野村役場で入手可能です。尚、天誅(忠)組記念館内では入門者からマニアックな方まで楽しめる本やグッズのコーナーが有りますよ》とのことである。なおAyako KogaさんはFacebookに《草村さんの講演はわかりやすくて、初心者にもオススメ!! 東吉野村観光と合わせてどうぞ!!》と書き込んでおられる。

「天誅組決起150年」の今年は、東吉野村でも様々なイベントが行われる(詳しくは、こちら)。この機会にぜひイベントに参加され、若き志士たちの熱き心に思いを致していただきたい。

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そこへ行く理由は何?(by JTB) 観光地奈良の勝ち残り戦略(71)

2013年06月26日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
昨日(6/25)、JTBの主催で「第1回 奈良の活性化に向けた魅力ある観光地域づくりセミナー」が開催された。14:00から20:00まで、6時間に及ぶ堂々たる大イベントだった。式次第を列挙すると
※トップ写真は加賀市の「山代温泉財産区」(「地域づくりデザイン賞2012」受賞)。写真は同賞のHPより

第1部 観光地域づくりセミナー
 1.魅力ある観光地域づくりに向けて

 株式会社JTB西日本奈良支店 支店長 森真也 氏
 2.地域の活性化に向けた魅力ある観光地域づくり
 株式会社JTB旅行事業本部 観光戦略室 観光立国推進担当マネージャー 山下真輝 氏
第2部 観光地域づくりワークショップ( 山下真輝氏のコーディネートによる)
第3部 意見交換会・懇親会

1部と2部は奈良商工会議所(5階大ホール)、第3部は春日ホテル(2階浅茅の間)で行われた。「これは面白そうだ」と、休暇を取って参加した。とりわけ第1部では、示唆に富んだ良いお話をお聞きしたので、まずは山下真輝氏の「地域の活性化に向けた魅力ある観光地域づくり」について紹介する。森支店長の「魅力ある観光地域づくりに向けて」は、また後日紹介することにしたい。

冒頭、山下氏から「国際観光競争力調査」(2013年版)の話があった。これについてはJTB代表取締役会長の佐々木隆氏がネットで公表されているので、こちらを引用しておく。

先日、世界経済フォーラムが2013年版の観光国際競争力(Travel&Tourism Competitiveness Report)を発表した。主要産業の世界競争力を発表しており、他産業に影響のある観光についても140か国の分析を2年毎に出している。ランキングだけが注目されるが、レポートは今年の会議テーマに沿ったツーリズム産業の持つ経済の回復力や雇用創出の分析に加え、将来に向けた環境保全について強い警告を発している。

さて日本は東日本大震災を経て、交通インフラ、ICT環境が高く評価され、総合14位と2011年版の22位から大きく躍進した。スイスは連続1位だった。豊かで保全がゆきとどいた自然環境、レジャー旅行に留まらないビジネス旅行のハブとしての位置づけ、そして、世界で評価されるホテルマネージメントスクールの存在による優秀な人材輩出と活躍の場の提供などを考えるとスイスの1位は申し分ない。

その中で、degree of customer orientation(顧客への対応)で、日本は1位、スイス2位だったことは注目だ。日本のおもてなしの心、文化というのが観光産業にとって非常に重要な強みであるとレポートは高く評価している。しかしながら、日本の国や人々の全般的な観光への親和度・受容度は国際的にもまだまだ高くはなく、これから改善される余地はある。

日本は「価格競争力」が世界で130位と低迷しており、このあたりがネックとなっている(ただしスイスも139位)。山下氏の話に戻る。「観光をとりまく大きな変化」(地域の観光地が抱える課題)について。

1.定住人口の減少(生産年齢人口の減少)
2.旅行の「型」の変化(「団体旅行」「物見遊山型」→「個人旅行」「参加体験型」)
3.インターネット普及による影響(情報の氾濫、情報収集・旅行手配の容易化)
多くの観光地は、このような時代の流れを踏まえた観光地域づくりに取り組めていないのではないか。



金沢菓子木型美術館(「グッドデザイン賞2012」受賞)。写真は同賞のHPより

「物の豊かさから心の豊かさ重視」(内閣府世論調査)の風潮の中で、「日本の観光地は、デザインし直す必要があるのではないか」と説き、加賀市「山代温泉財産区」(地域づくりデザイン賞2012)、豊岡市城崎温泉「木屋町小路」(グッドデザイン賞2010)、「金沢菓子木型美術館」(グッドデザイン賞2012)、阿蘇神社門前町商店街などの例に言及され、財団法人阿蘇地域振興デザインセンター前事務局長・坂元英俊氏の「観光による地域づくりではなく、地域づくりによる観光が大切」(シッカリ地域を作れば、観光客は来る)という言葉を紹介された。

100円のコーラを1000円で売る方法
永井孝尚
中経出版

そして「経験経済」という概念を紹介された。経験経済とは、顧客が商品やサービスに対し単に機能・便益の価値しか認めないと「日用品化」して、代替可能なものになってしまう。事業者は、商品・サービスだけを提供するのではなく、顧客の心の中に作り上げる「情緒」や「感性」に根づいた「経験」を提供することで、より強いブランドを構築できる、ということで、その例として、リッツカールトン大阪の『100円のコーラを1000円で売る方法』を紹介された。それは、

・最適な温度に冷やされ、ライムと氷がついた、この上なく美味しい状態で、シルバーの盆に載ったコーラがグラスで運ばれてくる。
・コーラという液体ではなく、サービスという目に見えない価値を売っている。
・リッツカールトンが売っているのは、心地よい環境で最高に美味しいコーラを飲めるという体験である。
・他では得られない体験には、顧客は値引きを要求しない。
・コスト削減や規模の大きさではなく、とことんまでサービス向上を図る“バリューセリング”への取り組み。


山下氏の熱弁は続く。

星野リゾートのアルファリゾートトマム「雲海テラス」(北海道)は、「もう一泊、もう一度(ひとたび)大賞」(2009年度)を受賞した(『星野リゾートの事件簿』に紹介されている)。オフシーズンのスキー場から眺める雲海の素晴らしさに、多くの人が訪れる。オフシーズンは「閑散期」ではなく、「ポテンシャル」である。

アルファリゾート・トマム雲海テラス【HD】


モノを売るのではなく、経験を売る。ここでしかできない「経験」が、旅の動機づけになる。南信州・昼神温泉の「天空の楽園」(日本一の星空)、小泉八雲の『怪談』ゆかりの地を訪ねる「松江ゴーストツアー」などが好例。

星野リゾートの事件簿 なぜ、お客様はもう一度来てくれたのか?
中沢康彦
日経BP社

どんな旅のシーンをつくり出したいのか、地域でのトータルの経験をデザインできるか、その実現のためにどのような仕掛けが必要になるのか。地域観光のデザイン=地域の物語でつなぐ。地域の魅力を開発・発掘し、物語化。これからの旅のキーワードは、品質や価格などの「スペック」ではなく、「五感に訴えるシナリオづくり」で旅を創造すること。ハード整備をするのではなく、人が集まる仕組みをデザインする。

若者のニーズ多様化により、従来の旅の形式とは異なる新たな旅へのニーズが高まっている。ニューツーリズムを楽しむ若者は、ニッチなツーリズム市場である。新たな市場はニッチ。どんな人に来てもらいたいのか、徹底的に絞り込む。ニッチを狙え(≠マスを狙わない)。誰か1人にとって素晴らしい商品やサービスには、、必ず波及効果がある。逆に「誰にとっても良いもの」を提供しようとすると、誰のためでもない中途半端なものになりがち。白馬の「ホテル五龍館」の事例が参考になる。ソーシャルメデイアの発達のおかげで、ニッチなマーケットは見つけやすくなっている。

「ホテル五龍館」のことは、以前「1万円で大満足の宿」としてAll Aboutで紹介されていた。

多くの旅館が、自社の施設や格安料金ばかり宣伝するなか、「お客様の思い出こそが商品」とうたう宿があります。ちょっとした「生活者の悩み」の解決を目指す数々の宿泊プランこそが、ホテル五龍館(長野県白馬村)の人気を支えています。例えば、毎年夏に実施する「ママも納得!温泉キャンプ」という二泊三日プランは、家族連れの悩みを解決。一泊目は、家族でキャンプなのですが、アウトドアが苦手な母親や幼児用にと、テントとは別に五龍館別館の洋室も用意し、家族全員がキャンプ体験を楽しむことができるのです。

北アルプス初心者向けの「唐松岳頂上山荘との連泊プラン」は、一泊目のホテル五龍館で、登山ルートの説明を受けたり、弁当を作ってもらって、登山に出発。その途中に万一、体調や天候が崩れてしまった場合、二泊目も山麓の五龍館別館に泊まれるプラン。「安心感」という商品が、とりわけシニアの登山者の不安心理を解決し、喜ばれています。

そして、静かな秋には、都会での仕事に疲れたビジネスマンを対象に、平日に一万円で泊まれる「女性のひとり旅プラン」を設定しています。日本一アルカリ度が高い「美肌の湯」や手作りの創作料理を楽しみ、日常のストレスを洗い流してもらおうというプラン。肩こり予防のジム体験やエステもオプションで選択できます。人口が減る時代、旅館が生き残るには、馴染み客をいかに作るかが課題。ホテル五龍館は、その答えのひとつを示そうとしているのではないでしょうか。



ホテル五龍館。写真は同ホテルのHPより

まさに、ニッチ市場において多くの顧客を獲得しているのである。では、山下氏の話に戻る。

究極の質問は「なぜ、そこへ行かなければならないのか」。人は理由がなければ行動しない。「売る」というのは、お客さまに「買う」理由を与えること。「そこに行かない理由」があるのではなく、「そこに行く理由」がないのだ。

競争ではなく「協創」が大切。ネットワークを活用して、人間の集団としての叡智を引き出し、革新的なアイデンティティやデザインを生み出す。「協創力」を発揮させるために、人と人とのつながりを駆使して問題を解決するため、関係するみなが集まる「場」をつくることが必要。

観光資源はPeople of Japan。日本人そのものが観光資源である(日本の新たなインバウンド戦略)。デザイン思考で地域の価値を考えよう!そして、お客とまの幸せの実現のため、旅の「経験」を提案しよう!地域のチカラを日本のチカラへ。


山下氏の話をざっと振り返ってみたが、参考になるキーワードが散りばめられている。氏は以前、別のところで「農村着地型旅行」について

・リアルジャパンを感じる旅、それが農村への旅だ。
・これからの旅のキーワードは、生活の場だ。そしてお土産は、味噌、醤油、野菜だ。
・提案型の過ごし方を、提供する必要がある。その時に大切なのが、物語性と時間の過ごし方である。それが着地型観光サービスだ。
・滞在時間を長くさせることが、消費につながる。
・旅のマーケットニーズを理解しているJTBだからこそ、地元と一緒に旅行商品を作ることができる。


という話をされていて、これらも全く納得できる話である。「モノを売るのではなく、経験を売る」「地域の魅力を開発・発掘し、物語化」「人が集まる仕組みをデザインする」「ニッチを狙え≠マスを狙わない」「人は理由がなければ行動しない。究極の質問は『なぜ、そこへ行かなければならないのか』」等々、山下氏の言葉は重い。

奈良は、観光資源の多さにあぐらをかいていてはいけない。これらの助言を参考に、真の「勝ち残り戦略」を立案し実行しなければ、奈良観光の明日はない。
コメント (3)
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