田中雄二の「映画の王様」

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『火刑都市 改訂完全版』(島田荘司)

2020-08-30 07:44:13 | ブックレビュー

 昭和57(1982)年、四ツ谷の雑居ビルが放火され、地下にいた若い警備員が焼死する。これは事故か殺人か。前半は、主人公の中村刑事が、事件の鍵を握ると思われる、失踪した警備員の婚約者を捜索する様子が描かれる。足を使った地道な捜査、珍しい地名などは、松本清張の影響がうかがえる。
 
 その間、赤坂のホテル(モデルはニュージャパン)、虎ノ門のビルと連続放火事件が発生。現場には“東亰”と書かれた紙片が残されていた。果たして連続放火犯の意図は? “東亰”の意味は? という謎の奥に、水の都から陸の都へと変貌した東京論を展開させる、という社会派ミステリー。

 以前、川本三郎氏の『ミステリと東京』で紹介されていた時に読んだのだが、今回「改訂完全版」と銘打たれて復刊されたので、久しぶりに読み返してみた。中盤に回りくどいところがあって、いささかもたれるが、都市論を踏まえた出色のミステリーという印象は変わらなかった。そういえば、ヒロインは自分と同い年だった。


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