田中雄二の「映画の王様」

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『人生の特等席』

2020-04-27 07:00:04 | 映画いろいろ

『人生の特等席』(12)(2012.11.24 MOVIX亀有)

 メジャーリーグ、アトランタ・ブレーブスのスカウトとして、数々の名選手を発掘してきたガス(クリント・イーストウッド)。だが、コンピューターによるデータ分析が主流となった今、球団は、視力も衰え、時代遅れとなった彼を引退させようとする。最後のスカウトの旅へと出たガスに、父に対して複雑な思いを抱く一人娘のミッキー(エイミー・アダムス)が力を貸す。監督は、イーストウッド作品の製作を務めてきたロバート・ローレンツ。

 奇妙な邦題だが、原題は「TROUBLE WITH THE CURVE=カーブの問題=カーブが打てない選手」で、ちゃんと映画の核心を突いている。“野球の音”が効果的に使われ、最後は、コンピューターではなくガスの目と耳がものを言うところが痛快。父と娘がスカウトするメキシコ人のサウスポーは、ロサンゼルス・ドジャースのフェルナンド・バレンズエラをほうふつとさせる。

 さて、この映画は、父と娘の葛藤という点では、イーストウッドの過去の映画『目撃』(97)『ミリオンダラー・ベイビー』(04)『グラン・トリノ』(08)の系譜に属すだろう。硬派なイーストウッドには珍しく、ガスが妻の墓前で「ユー・アー・マイ・サンシャイン」を涙ながらに歌うシーンもある。

 また、スカウト役のイーストウッドが訪れる地方の草の根野球の様子は『ドリーム・ゲーム/夢を追う男』(91)、野球にまつわる愉快なほら話という点では『ナチュラル』(84)『フィールド・オブ・ドリームス』(89)と重なるところもある。つまり、アメリカ人にとって、野球がどれほど身近で大切なものであるのかが、こうした映画を通して感じられるのである。

 ガスは、娘に男名のミッキーと名付けるほどの、ニューヨーク・ヤンキースの至宝ミッキー・マントルのファンという設定。これが日本なら、娘を(長嶋)茂雄や(王)貞治と名付けるようなものだ。当然、ミッキーは父に反発するが、実は彼女も野球狂というところがミソ。彼女がマニアックな野球クイズにもすらすら答えるという面白いシーンがあった。

 ガスのスカウト仲間の中に名脇役のエド・ローターの姿があったが、残念ながらこれが遺作となったようだ。

【今の一言】この映画と同時期に、高倉健の遺作となった『あなたへ』(12)を見たこともあり、同年代の両雄の“その後”に思いをはせたのだが、健さんがほどなくして亡くなったのに対して、イーストウッドはいまだに現役。すごいと言うべきか。

「映画で見る野球 その2」『メジャーリーグ』『ナチュラル』『マネーボール』『人生の特等席』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/80952a2821739214c4c86f2aec76f65d


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