もし、1969年のロサンゼルス(ハリウッド)に、落ち目の西部劇スターのリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼のスタントマンを務めるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)がいたら…。そして、リックの家の隣にロマン・ポランスキーとシャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が住んでいたら…という一種のおとぎ話、パラレルワールド話を、クエンティン・タランティーノが虚実入り乱れさせながら描く。
この時代から活躍していたアル・パチーノ、ブルース・ダーンのほか、タランティーノ一家のカート・ラッセル、マイケル・マドセンらも顔を見せる。
物語の骨子は、スティーブ・マックィーンとバド・エキンズ、あるいはバート・レイノルズとハル・ニーダムのような、スターとスタントマンとの友情や信頼関係(スター同士のディカとブラピがそれを演じる面白さ)に、カルト集団のマンソン・ファミリーによるシャロンの惨殺事件の顛末を絡めたもの。
そこに、テレビに映る「FBI」や「マニックス」などのドラマ、カーラジオから流れる「ミセス・ロビンソン」「サークル・ゲーム」「夢のカリフォルニア」といったヒット曲をはじめ、映画狂で知られるタランティーノが、自らの少年時代への追憶を込めて描いているため、マニアックな小ネタが満載されている。
例えば、リックが『大脱走』(63)でマックィーンが演じたヒルツ役の候補になっていた? 「グリーン・ホーネット」のカトー役のブルース・リーとクリフが対決した? サム・ワナメイカーがリックに演技指導をする? クリント・イーストウッドやリー・バン・クリーフに続くハリウッド産のマカロニ・ウエスタンのスター、リック・ダルトンが誕生?…。これらはタランティーノ流のお遊びであり、大笑いさせられる。
一方、これは虚実がはっきりしないが、シャロンが、出演作『サイレンサー破壊部隊』(68)を映画館でうれしそうに見たり、リーからアクションを習ったり、夫のために『テス』の本を買う姿も映る。彼女のその後の運命を知っているから、こちらは見ていてちょっと切なくなった。
そんなこんなの、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、にぎやかなこの映画は、ある意味タランティーノ自身の夢や妄想を映像化したものなのだろう。そして彼がこの映画を作った最大の目的がラストに示されるのだが、それはここでは書けない。ただ、ハリウッドへの偏愛を感じさせる処理に、不思議な感動が湧いたことだけは確かだ。彼の映画の中では一番素直なものだと感じた。
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