『肉弾』(68)(1980.7.10.日劇文化「セレクションATGスペシャル」併映は『人間蒸発』)
昭和20年夏、終戦間際に特攻兵となったあいつの悲哀に満ちた青春を、戦中派世代の岡本喜八監督が、痛烈な皮肉とユーモア、ペーソスを交えながら描く。
最高の映画だった。これまで自分が見てきた日本映画の中でも上位に入るだろう。特にあいつを演じた寺田農がよかった。登場人物の一人一人が存在感を放ち、敗戦というものを庶民の側から描き切っている。
ユーモアを交えながら戦争批判を感じさせるのは、さすがに岡本喜八の演出と脚本のうまさによるものだろう。あいつという主人公を狂言回しにして、さまざまな人物が登場してくる。それは黒澤明の『どですかでん』(70)と通じるところもある。
その中で、戦争の滑稽さ、愚かさ、空しさが描かれ、時には笑わされ、あるいは感動させられながら、戦争についていろいろと考えさせられる素晴らしい映画だった。強烈で皮肉を込めたラストシーンも印象的。
あいつを囲む脇役たちもそれぞれよかったが、中でもさすがの笠智衆と北林谷栄の古本屋の老夫婦が秀逸。渋く響く仲代達矢のナレーションもいい。
名セリフ「たいしたことはない。本当にたいしたことはない。ただそれだけのことだ」
『肉弾』と対を成す『日本のいちばん長い日』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/4eaf78cafbb73ab170b60b362cb49387