田中雄二の「映画の王様」

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『近頃なぜかチャールストン』

2024-03-23 23:32:17 | 映画いろいろ

『近頃なぜかチャールストン』(81)(1982.4.22.テアトル新宿.併映は『遠雷』)

 前作『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』(79)で落ち込んだ岡本喜八が復活した。もともと岡本喜八の映画精神は、アナーキー、諧謔、皮肉、風刺といったところにあるのだから、ノスタルジー色が強かった『英霊たちの応援歌』は、多少の戦争批判はあったものの、そうした本来の持ち味が失われていたのだ。その点、この映画では、彼の本領が発揮されている。

 まずは、今の日本の中に独立国を作ってしまうという発想の奇抜さがある。しかもそこに戦争体験のある老人たちと若者とを絡ませながらドラマを展開させ、老人たちにはご丁寧に大臣職が割り当てられているという念の入り用。

 以下、内閣総理大臣(小沢栄太郎)陸軍大臣(田中邦衛)文部大臣(殿山泰司)外務大臣(今福将雄)大蔵大臣(千石規子)逓信大臣(堺左千夫)内閣書記官長(岸田森)労働大臣(雑用係・利重剛)

 そこから、戦争、政治、社会への批判が生じる。と言っても、それらを大上段に構えて説教くさく語るわけではない。いかにも岡本流に笑いの端々にチクリチクリと皮肉を入れ込んでくるのだ。このあたり、まさに岡本喜八の独断場といった感じだ。

 そして、若者の目から見た独立国の姿を見ていると、フィリップ・ド・ブロカの『まぼろしの市街戦』(66)を思い出す。あの映画は、兵士がある町の精神病院にそれとは知らずに迷い込み、戦場よりも精神病院の方がまともであり、上官より患者たちの方がずっと人間らしいことに気付いていく。そしてラストは軍服を脱ぎ捨てて、自ら進んで精神病院の門をたたくというブラックコメディだった。

 この映画の主人公の若者(利重)が、自分たちが暮らしているごみごみとして騒々しく、何やらきなくさい日本よりも、老人たちのヤマタイ国の方に魅力を感じて行動を共にしてしまうという点ではよく似ている。しかもこの事件は12月8日(開戦)に始まり、8月15日(終戦)に終わるという落ちまで付くのである。

 『肉弾』(68)同様に、笑わせながらも問題提起をする鋭さ、多彩な登場人物の一人一人を生かす演出力に脱帽。その復活に拍手を送ろう。

【今の一言】当時、この映画に出ていた古館ゆきという同世代の女優に注目していた。寺田農は殺し屋・飯室を演じた。 


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