田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『憐れみの3章』

2024-09-08 17:49:32 | 新作映画を見てみた

『憐れみの3章』(2024.9.3.オズワルドシアター)

 上司から選択肢を奪われながらも自分の人生を取り戻そうと奮闘する男、海難事故から生還したものの別人のようになってしまった妻に恐怖心を抱く警察官、教祖になることが定められた特別な人物を必死で探す女という3つの奇想天外な物語。

 『女王陛下のお気に入り』(18)『哀れなるものたち』(23)に続いてヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組み、愛と支配をめぐる3つの物語で構成したアンソロジー。『哀れなるものたち』にも出演したウィレム・デフォーやマーガレット・クアリーのほか、ジェシー・プレモンス、ホン・チャウ、ジョー・アルウィンが共演。同じキャストが3つの物語の中でそれぞれ異なる役柄を演じる。

 『ロブスター』(15)『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(17)でもランティモス監督とコンビを組んだエフティミス・フィリップが共同脚本を担当。カンヌ国際映画祭でプレモンスが男優賞を受賞した。

 「kinds of kindness=優しさ(親切)の種類」という原題通りに、ある面から見れば愛や優しさであるものが、別の面から見れば支配や残酷さに変わるというテーマを、ブラックユーモアに満ちた一種の寓話として描いている。

 不条理、難解、アナーキー、エロス、とぼけたユーモアなどは、ルイス・ブニュエル監督作をほうふつとさせるところもあるが、この独特の世界はまさに“ランティモス・ワールド”と呼ぶにふさわしい唯一無二のものという感じもする。

 また、3つの異なる役柄を演じた俳優陣では、『哀れなるものたち』に続いて「エマ・ストーンよどこへ行く…」と思わせるストーン、マット・デイモンをちょっとルーズにしたようなプレモンス、『ビートルジュース ビートルジュース』に続いてのデフォーと、それぞれが怪演を見せる。

 2時間45分の長尺ということでその毒気に当てられて退屈するかと思ったが、それほどでもなかった。それは「何じゃこれは」という好奇心を刺激されたからにほかならないし、3つの物語で構成したアンソロジーとしたことで、意識が分散できたことも大きかったと思う。万人に受けるタイプの映画ではないが、刺激的であることだけは間違いない。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『スオミの話をしよう』

2024-09-08 10:34:57 | 新作映画を見てみた

『スオミの話をしよう』(2024.7.16.東宝試写室)

 豪邸で暮らす著名な詩人の寒川(坂東彌十郎)の妻スオミ(長澤まさみ)が突然行方不明となった。寒川邸を訪れた刑事の草野(西島秀俊)はスオミの元夫で、すぐにでも捜査を開始すべきだと主張するが、寒川は「大ごとにしたくない」とその提案を拒否する。

 そんな中、寒川に雇われている魚山(ととやま・遠藤憲一)、草野の元上司の宇賀神(小林隆)、実業家ユーチューバーの十勝(松坂桃李)という、スオミの元夫たちが寒川邸に集まる。

 誰が一番スオミを愛していたのか、誰が一番スオミに愛されていたのか。彼女の安否はそっちのけで熱く語り合う男たち。だが、男たちの口から語られるスオミはそれぞれがまったく違う性格の女性だった…。

 三谷幸喜が『記憶にございません!』(19)以来、5年ぶりに手掛けた監督・脚本作品。突然失踪した女性と、彼女について語り出す5人の男たちを描いたミステリーコメディ。

 いろいろな顔を見せる長澤、スオミの元夫たちのキャラクター設定、脇役の瀬戸康史、戸塚純貴の生かし方、相田みつをのパロディなどの小ネタは三谷脚本の面目躍如とも言える面白さがある。

 ただ、ほとんどが寒川邸で進行するいわゆるワンシチュエーションものであるため、いつもの三谷映画同様に、舞台くささがあるのは否めないし、時に見られるミュージカル風の演出も滑っている感じがしたのが残念。やはり三谷幸喜は舞台やドラマの人で映画監督には向いていないのではないかと改めて思った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする