『ミークス・カットオフ』(10)(2021.7.17.イメージフォーラム)
女性監督ケリー・ライカートの初期の4作品を特別上映する「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」が、シアター・イメージフォーラムで開催中。西部劇通の知人の紹介で、その中の一本『ミークス・カットオフ』を見た。蓮實重彦氏が褒めたからかほぼ満席。それも若者が多くて驚いた。彼の影響力はまだこんなに強いのか…。
1845年、オレゴン州。移住の旅に出た3つの家族は、道を熟知しているというスティーブン・ミーク(ブルース・グリーンウッド)にガイドを依頼する。旅は2週間で終わるはずだったが、5週間が経過しても目的地にはたどり着かず、道程は過酷さを極め、皆がミークを疑い始める。そんな中、一行の前に一人のインディアンが姿を現す。
タイトルの「ミークスの近道」は反意語的であり、皮肉を含んでいるのだろう。もちろん、初めから“普通の西部劇”だとは思っていなかったが、これはかなりの変化球。カラカラに乾いた荒野を行く3台の幌馬車とミークの馬、歩く女性たちがほとんど音楽もなく延々と映される。おまけに、リアリティーを出すためか、夜のシーンも照明なしで、たき火の淡い炎のみ。従って、声が聞こえるだけで彼らが何をしているのかよく分からない。
そこに、飢えと互いへの不信感、ミークやインディアンへの猜疑心が描かれるから 見ているこちらの気分もどんどん暗くなり、分かったような分からないような、もやもやした感覚に陥る。
そんなわけで、いかにも蓮實氏が持ち上げそうな映画、という感じもしたが、決して愚作というわけではなく、逆によく分からないからこそ好奇心を刺激されるところもある。
とはいえ、監督個人の趣味性が強く出過ぎており、一般的な映画好きや西部劇のファンには勧めにくい映画だと思った。