マリリン・モンロー・ノーリターン
マリリン・モンロー、ロバート・ミッチャム主演の『帰らざる河』(54)を、およそ40年ぶりに再見。監督はオーストリア出身のオットー・プレミンジャー。前回見たのは中学生の時だから、この映画で描かれた男女の心の機微などは理解できるはずもない。しかもシネマスコープで撮られたこの映画の魅力は、小さなテレビ画面からは伝わってこなかった。今回は自分も中年になり、ノートリミング版を多少大きな画面で見たので、あらためて結構面白い映画だったことに気づいた次第。
舞台はゴールドラッシュに沸く米北西部の町。離れ離れになっていた息子を引き取ったマット(ミッチャム)は農場の開拓を始める。ある日、マットは河で漂流した酒場の歌手ケイ(マリリン)とその情夫のハリー(ロリー・カルフォーン)を助けるが、ハリーはマットから馬と銃を奪って逃げる。インディアンの襲撃も受けたマットたちは、ハリーの後を追って“帰らざる河”と呼ばれる急流をいかだで下ることになる…。
この映画の第一の見どころはやはりマリリンの存在感。特に、後にリーバイスのCMにも使われた、ジーンズ姿のマリリンがなんともセクシーだ。その一方、子供にギターの弾き語りをするシーンもなかなかいい。マリリンは『バス停留所』(56)でも酒場の歌手を演じていたので、この両作はイメージが重なるところがある。
もう一つの見どころは、カナダでロケされたといういかだくだりのスペクタクル。撮影はジョセフ・ラシェルで、実景とセット撮影とスクリーンプロセスを巧みに編集している。もちろん今の特撮とは雲泥の差があるが、かえってこの手づくり感やアナログ感がいいと感じた。けれどもそう感じるのはノスタルジーに過ぎないのだろうか。
全体の音楽はシリル・モクリッジが担当しているが、マリリンが甘くけだるく歌う主題歌「帰らざる河=リバー・オブ・ノーリターン」は、ケン・ダービー作詞、ライオネル・ニューマン作曲によるもの。
この曲から派生した「マリリン・モンロー・ノーリターン」を歌っていた作家の野坂昭如が先ごろ亡くなった。子供の頃に変な歌だなあと思いながら「~ノータリーン」と替えて歌った覚えがある。同じ頃、地下鉄の駅に貼られていた忘れ物注意の「帰らざる傘」のポスターも懐かしい。