わたしが子供のころは、母が病床に臥せっていたので、旅らしい旅をしたことがなく旅の楽しさを知らぬままに育ちました。
旅の楽しさを学んだのは社会人になってからです。
そして、自分の旅のスタイルを確立したのは、長距離散歩からでした。
友だちと、できるだけ遠くへ歩いていくようなことを頻繁にするようになって、小さな発見の面白さに目覚めました。
観光ツアーのような点から点へ移動して楽しむのもよいですが、ゆっくり歩いて線として旅情を楽しむことをおぼえました。
ゆっくり歩いていくと無駄な時間が多く退屈ですが、その退屈を紛らわすために、小さなことに敏感になり、何気ない発見を頻繁にできるようになります。
ガイドブックにも載っていない古びた看板や、おかしなオブジェ、使わなくなった建物などが目に入ります。
微細な土地の傾斜や、風の向きや、日当たりなどで、微妙に変わる変化に敏感になるのでどうでもよい発見が多くなります。
それが楽しくて、遠くに旅行しても歩き回る時間を取れるだけ取るようにしています。
ですから、旅の思い出は無数にあります。
ちょっとだけの散歩でも、おもしろい発見が待っているかもしれませんから。