硬派な帚木蓬生が書いた恋愛小説という謳い文句の文庫です。
恋愛など興味がない歳でありますが、今、読みたい新潮文庫2009フェアで、「高熱隧道」と「閉鎖病棟」に挟まれて積まれていたので、買ってしまいました。
舞台は、駅から近いが家賃が2万8千円と格安のボロアパート扇荘です。
そこに住む世間からはじき出されたような変人たちの描写から物語は始まりました。帚木蓬生は精神科医なので、そういう描写はすごくうまいです。
主人公は、アパートの管理人である38歳のバツ2女である時子。
すごく世話好きの女性で、養護施設のパートをこなしながら、アパートの住人の世話や年老いた母の世話をよくやきます。
そんな描写が延々と続き、恋愛の「れ」の字も出てこないのですが、日常の平凡な日々が描き方(見方)によっては、こんなに生き生きとしたものなのかと感心させられます。
つまり、不思議と退屈しません。
恋愛は一種の熱を帯びた狂気を内包するものですが、それらしきものも全然見えず、扇荘の住民たちは冷めた狂気を内包し日々奇行に励みます。
独身部屋と呼ばれる201号室に有馬という好青年が越して来て、この人が主人公のお相手だなあと思うのですが、二人の行動や精神が、あまりにも健康的で、恋愛の持つ狂気を垣間見ることもありません。
430ページ中400ページを超えても淡々と、恋愛らしきものも無く、もう恋愛小説だなんて忘れてしまっていたころに、狂気が姿を現します。
そうか、狂っていたのはおまえだったのか!
ハッピーエンドでおめでとう。
その後を語るのは野暮というものだ。