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むぎわら日記

自然、読書、模型のことなど

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『タンパク質の一生』永田和宏(岩波新書)-生命活動の舞台裏 

2025年05月11日 | 読書
人体は宇宙である。解剖学者が良く使う例えだ。わたしたちの体を構成する細胞は約六十兆個の細胞で作られ、一列に並べると六十万キロメートル(1個10ミクロンと仮定した場合)となる。
そして、ヒト一人のDNAをすべて一直線につなぎ合わせると一千億キロメートルになると言う。太陽と地球の間を三百往復できる長さとなるのだ。
さて、この本は、そんな人体(ミクロコスモス)の重要な構成要素であるタンパク質がどのように合成され、どのように働き、どのように死に、どのように再生されるかを解説した本である。
学問の世界から離れ四十年近くたつが、そのころ習った生物学の細胞の構造が、小学生の図鑑レベルのものになっていたことに驚いた。それだけ生化学が発展して、いろいろなことが解明されていたとは知らなかったのである。
DNAから、RNAに転写された暗号に対応した各種アミノ酸が並び、その順列で結合しタンパク質が合成されると習っていたが、そんな単純なものではないらしい。同じ配列のアミノ酸でタンパク質ができてもねじれ方で性質が変わり働けなかったりするらしいのだ。それを防止するタンパク質や分解を促すものもある。
また、疎水性のアミノ酸は、それ同士が固まって凝固する性質があるが、ストレスがかかると合成されるストレスタンパク質には、これを防止する働きがあり、適度なストレスが必要なこともわかる。
また、エラーを起こしたタンパク質を合成する細胞があれば、それ止め、修正し、治らなければ破壊するシステムも明らかになっている。
この本では、○○の仕組みはまだ分かっていないが、こういう働きをすると言うような記述が良く出てくるので、まだまだ謎に満ちた世界であるということが感じられる。わたしたちの細胞の中の宇宙は微細な世界に向けて広がり続けているのだ。
タンパク質の異常により起こる病気(プリオン異常や認知症)の仕組みとその治療法の展望なども指摘されている。人体内のタンパク質の働きを知ることは、それらの病気の予防法をより深く理解できる礎となるだろう。

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『水神』(上)(下)帚木蓬生 (新潮文庫)

2025年05月08日 | 読書
 帚木蓬生が急性骨髄性白血病に罹患し、無菌室で闘病中に書き上げた魂の一作。
 昨今、米価格の高騰を嘆くことしきりですが、先祖の農業にかける苦労を知らずして農業を語るべからずだと思います。
 本書は、水に恵まれず貧しい農村をうるおそうと、大工事を行った江戸時代の農民の苦闘を書いた小説です。舞台は現在の福岡県うきは市の筑後川扇状地となります。扇状地の常として、川が田畑のはるか下を流れるため、大河の脇であるにもかかわらず、その恩恵を受けることなく、日照りとなれば不作となる土地柄でした。
 そこで、大河である筑後川に堰を築き水を引くために尽力する話となります。まず、読者が目にするのは、遥か下方に流れる筑後川に桶を落とし引き上げ、村の水路に水を流す打桶の光景です。二人の農民が掛け声をかけながら雨の日以外の終日、水をくみ上げるのです。それによりほんの少しだけ、村の水路に水が流れるのですが、やらないよりはマシ程度の効果しかありません。しかし、この役に選ばれると体が動かなくなる40年くらい? の間、毎日、苛酷な作業をすることになるのです。
 そんな中、一人の庄屋が村々を回り水路を念入りに調べ上げ、堰を作った時の水の流れを絵図面に書き取る作業をもくもくとつづけていたのでした。
 その庄屋は、他の村の四つの庄屋に、そのことを話します。そして、彼ら五庄屋は、ずっと先祖代々の夢であった水を得るための堰建設に乗り出すのでした。
 反対する他の庄屋や、ひっ迫する久留米藩の財政の中、五庄屋は身代を投げ出し、命をかけて、その願いを成就させるため奮闘します。財政的負担は五庄屋が受け持ち、何かあった時は磔の刑に処されることを条件に藩の強力を取り付け、前代未聞の大型堰を作る作業が開始されるのです。
 作業場には、五つの磔台が立てられる下で、反対する集落も巻き込みながら、筑後川の堰渠、そして各集落の水路の工事が始まるのでした。タイムリミットは、次の田の種もみの準備が始まるまでの期間です。
 嘆願、金策に苦闘する五庄屋と、惜しみない協力をしながらも面子を重んじ磔台を建てた藩、反対勢力である庄屋たち、そして、苛酷な作業の中、奮闘する農民たち。
 それらがかみ合うとき、犠牲を出しながらも、工事は進んでいくのです。
 この作品は、新田次郎文学賞受賞を受賞。
 作者は白血病に打ち勝ち、さらに創作を続けられています。

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『COW HOUSE カウハウス』小路幸也 (ポプラ文庫)

2025年05月05日 | 読書
 商社に勤める20代のサラリーマンである主人公は、役員を殴り解雇の危機にあったとき、仕事ができる上司の部長に救われ、鎌倉にある使われていない会社所有の大豪邸の管理人として働くことになった。賃金は3割カットであるが、家賃、光熱費等は会社持ちである。恋人との同棲も上司から許可され、天才ピアノ少女と元国際的テニスプレーヤーの老人と知り合うことになる。
 救ってくれた部長も絡んで、だんだん面白いことになっていくという、サラリーマンのぬる~い夢を書き上げたような小説だ。
 そんなのは読んでいて退屈だろうと思われる人もいるだろうが、このぬるま湯に浸っている感じは捨てがたく、快感ですらある。
 鎌倉の高台にあるぬる~い露天風呂に浸りながら海をぼんやり眺めている。そんな癒し効果がここにあるのだ。
 ちなみに題名のCOW HOUSEは、直訳するとウシの家であるが、そこに集まった人たちが70代のじいさん、40代の部長、20代の主人公、10代の少女、がみんな丑年生まれだったから付けられた名前である。もう、題名からぬる~いのだ。
 さて、ここから生まれる新しいプロジェクトとは何か。最後には、商社の仲間を巻き込みながらプロジェクトが作動するのだが、熱い展開のようで、やっぱりぬるかった!
 
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『パワハラ上司を科学する』津野香奈美(ちくま新書)

2025年04月29日 | 読書
昨今、いろいろなところで話題になるハラスメントですが、その中でも一番わかりやすいのがパワハラですね。上司からはもちろん、同僚、部下からのパワハラもあるとか。
やっかいなのが、加害者に自覚がない場合がほとんどで、周りで見ている人も、それをパワハラだと思っていなかったり、賛同したり、容認したりすることです。
この本では、パワハラのパターン、加害者になりやすい性格、パワハラを行わないようにするにはどうするかについて、科学的というより統計的に書かれています。
特に面白いと思ったのは、放任型上司の危険性について書かれたところでした。パワハラ研修をすると、部下に対してなるべく関わらず自分の仕事を淡々とこなしていれば、パワハラをすることはないだろうと考えている人が多いそうです。しかし、これが一番危険です。パワハラ、いじめを見て見ぬふりをすると容認したことになり、それによってパワハラがエスカレートしていきます。また、上司が相談に乗ってくれないのは部下にとってはパワハラです。
また、仲が良い職場も要注意です。仲が良いと言うことは、その空気になじまない人を知らず知らずのうちにのけ者にしたり、その人が悪いという雰囲気ができてしまいます。
自分がパワハラをしていないかチェックする方法や、パワハラにならない部下の育て方など至れり尽くせりの内容で、管理職でなくても読んでおいて損はないでしょう。

退職して、雇われ人になる気がない自分にとっては、必要がない本なのですが、勤めていた時に出会った、もろパワハラ上司を思いだしながら読みました。これらの研修を受けさせてもらえていないのか、勉強不足なのかわかりませんが、やっぱり彼はアホだったなぁと思いながら読んでいました。本を一冊でも読んでいれば、ああはならないでしょうに(笑)。

みんな、気持ちよく成果が上がる職場であってほしいものです。


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『山の音』川端 康成(新潮文庫・角川文庫)

2025年04月23日 | 読書
戦争が終わって、復興の兆しが見え始めた日本。そこで暮す中産階級の家族の中にも、癒されることがない戦争の傷痕がうずくのです。
主人公の真吾は還暦を過ぎ鎌倉から東京の会社に通っているのですが、彼は戦争に行く年齢でもなく、特に戦争の直接の被害を被っていない人間です。彼の妻も同様ですが、息子の修一は帰還兵のため、やや冷めた心を持っています。親子であるにせよ心がどこかよそよそしく理解し合えない状態なのでした。
修一の嫁の菊子は、美人で真吾にもなついていますが、彼女は戦争では被害を被らなかった部類の人間です。そして、彼女も、修一とは一緒に暮らしながら心が通じ合っていない状況のようでした。
また、修一の浮気相手の女とその同居の女性は、戦争未亡人であり、彼女の友達で真吾の会社の事務員の英子も恋人を戦争で無くしています。彼女たちとのやり取りもぎこちなくしてしまう真吾。
なぜかと言えば、日本古来から続く家族を取り巻く常識が、帰還兵の男の傷ついた心理や、夫や恋人を失った女性には通用しないのです。そのことによって、戦争の被害を大きく受けなかった主人公は、戸惑うばかりなのでした。
そして、古い日本の象徴として思い出されるのが、若くして亡くなった妻の姉の美しい姿なのです。
戦争が残した人間同士の間にある傷痕が、戦争が終わっても元に戻れない日本の家族のつらさを描いた物語なのです。
一般的な解釈とは違う角度から作品を分析してみましたが、どうだったでしょうか。


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『独学の思考法』山野弘樹(講談社現代新書)

2025年04月20日 | 読書

地頭を鍛える「考える技術」が、副タイトル。

表題に独学とありますが、独学とは関係ない内容だったので面喰いました。

前半は、本を読むとき、どのように線を引いたり、色をつけたりするのがよいかという学生や学者の本との向き合い方が書かれています。この辺りが独学というタイトルの所以なのでしょうが、独学じゃなくても通用するものです。

後半は、対話の仕方についての提言となっていました。この程度のことは、社会人として身に付けておいた方が良いくらいの話です。

著者は哲学専攻で、哲学者の悪い癖である簡単なことを難しく表現する内容となっていて、ある程度、勉強している社会人なら自然に身についている程度のことでした。

とは言え、高齢なのに身についていない人も多く見かけることも確かですので、新人、中堅、管理職になる節目に確認の意味で読んでも良い本に仕上がっていると思います。
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『山怪 弐 山人が語る不思議な話』田中 康弘(ヤマケイ文庫)

2025年04月18日 | 読書
『山怪』の続編となります。山怪に入らなかった余ったネタだろうから、パワーが落ちているのではないか? と怪訝な気持ちで読み始めましたが、そんなことはありませんでした。
それどころか、話を引き出す技術が向上していて、不思議なことや怖いことにあったことがないと言う人からも、そういえば……という感じで聞き出しています。そういう話の方がリアリティがあって面白かったりするのです。
また、地域によってはタヌキの仕業だったり、キツネの仕業だったり、四国では狗神だったりするのですが、ただの不思議な話で終わってしまう地方もあり、場所による解釈の違いも指摘されていました。
酒の席での奇譚語りの域がでないですが、テレビが普及していなかった時代の娯楽を感じさせ、山の中で熾火を見つめ暗闇を背にしながら聞いている雰囲気があって、それ自体が神秘と感じる時代になったのだと思いました。


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『怖い患者』久坂部羊(集英社文庫)

2025年04月16日 | 読書
悪い医師もいれば、当然、怖い患者もいるのです。
ちょっと、性格に難がある患者や医師が主人公の短篇集となっています。いや、ちょっとどころではなく、精神異常の範疇だと気づいたときには、物語の終わりに来ているパターンです。
作者が現役医師であり、医療現場の描写や、薬剤などの記述がリアルです。久坂部羊の本を読むと、「こんなこと、お医者さんが書いちゃっていいの?」と思うような黒い描写の連続で、しかも首を縦に振りながら読んでしまう説得力。
そして、まあ、冗談だよね、と思って本を置けるある種の軽さ。
このバランス感覚が、ブラックなユーモアとして、自分の中の悪魔がほくそ笑むのでした。癖になります。


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『少年たちはなぜ人を殺すのか』 キャロル・アン・デイヴィス(文春新書)

2025年04月12日 | 読書
イギリス・アメリカを中心に幼くして殺人を起こした少年・少女たちの事例を列挙し、その後、事件の裁判・報道を分析しながら、今後の社会の在り方を問う内容です。
事件の列挙が半分くらいを締めていますが、1日2事例ずつ読もうとしたところ、居たたまれなくなり1事例ずつ読んでいきました。
著者の主張は、少年・少女たちが犯行に及ぶのは、幼いころからの虐待・ネグレクト・過干渉が原因であるというものです。確かに、読んでいられないほどの虐待を受けているのですが、時に法廷の場ではそれを無視され、報道の場ではホラービデオやゲームに矛先が向くことに社会の在り方を問います。
アメリカ・イギリス圏では、キリスト教の影響か、道具を使った暴力(しつけ)が正当化されているようで、日本人としてはそれだけできつすぎるように感じます。日本の場合は、ネグレクトや過干渉の事例が多そうです。
また、社会では、大人は善・子どもは悪と決めつける傾向があり、大人の証言を重要視する傾向が強いと主張していました。そして殺人を犯した少年・少女たちは生まれつきの悪と断じる論調が多いと嘆いています。
確かに、親が暴力的だと、それを模倣するのが子どもですから、殺人にまで発展していくのは自然の成り行きに見えます。しかし、暴力がない生活になることによって、その性質は消えていく事例も多々あり、暴力など振るわなくても良いならそれに越したことはないというのが子どもたちの本来の性質でしょう。
一部の例外を除き、ほとんどの事例では、子どもにおける性善説が成り立つと思えました。


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『魚ビジネス』ながさき一生(クロスメディア・パブリッシング)

2025年04月11日 | 読書
「食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養」が副タイトル。
寿司屋から、鮮魚店、缶詰等加工食品、養殖と天然、細胞培養、うまい魚料理を出す居酒屋の見分け方まで、食べるための魚のトリビアがギッシリ詰まっている食魚の豆知識本になっています。
魚は取り方、処理の仕方などから品質・値段が変わることや、新鮮な魚が良いとは限らないことなど面白知識が満載です。
角上魚類が売れているわけや、荒巻鮭と、越後村上の塩引き鮭の違いに言及しているところは流石。
やけに新潟辺りに詳しいなと思っていたら、筆者は新潟県能町(現:糸魚川市)筒石の漁師の家で生まれ育ったということでした。
魚好き(食べる方)の人、これから魚を楽しみたい人は目を通しておいて損はないですね。
ちなみに、サバ缶は、製造月が秋冬のもので古いものがおいしいとのこと。秋冬に脂がのり時間をかけてなじんでいくそうです。

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