人体は宇宙である。解剖学者が良く使う例えだ。わたしたちの体を構成する細胞は約六十兆個の細胞で作られ、一列に並べると六十万キロメートル(1個10ミクロンと仮定した場合)となる。
そして、ヒト一人のDNAをすべて一直線につなぎ合わせると一千億キロメートルになると言う。太陽と地球の間を三百往復できる長さとなるのだ。
さて、この本は、そんな人体(ミクロコスモス)の重要な構成要素であるタンパク質がどのように合成され、どのように働き、どのように死に、どのように再生されるかを解説した本である。
学問の世界から離れ四十年近くたつが、そのころ習った生物学の細胞の構造が、小学生の図鑑レベルのものになっていたことに驚いた。それだけ生化学が発展して、いろいろなことが解明されていたとは知らなかったのである。
DNAから、RNAに転写された暗号に対応した各種アミノ酸が並び、その順列で結合しタンパク質が合成されると習っていたが、そんな単純なものではないらしい。同じ配列のアミノ酸でタンパク質ができてもねじれ方で性質が変わり働けなかったりするらしいのだ。それを防止するタンパク質や分解を促すものもある。
また、疎水性のアミノ酸は、それ同士が固まって凝固する性質があるが、ストレスがかかると合成されるストレスタンパク質には、これを防止する働きがあり、適度なストレスが必要なこともわかる。
また、エラーを起こしたタンパク質を合成する細胞があれば、それ止め、修正し、治らなければ破壊するシステムも明らかになっている。
この本では、○○の仕組みはまだ分かっていないが、こういう働きをすると言うような記述が良く出てくるので、まだまだ謎に満ちた世界であるということが感じられる。わたしたちの細胞の中の宇宙は微細な世界に向けて広がり続けているのだ。
タンパク質の異常により起こる病気(プリオン異常や認知症)の仕組みとその治療法の展望なども指摘されている。人体内のタンパク質の働きを知ることは、それらの病気の予防法をより深く理解できる礎となるだろう。