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『原子論の可能性:近現代哲学における古代的思惟の反響』発刊への祝辞

2018-10-25 22:14:44 | 哲学
 『原子論の可能性:近現代哲学における古代的思惟の反響』という本が2018年11月5日に法政大学出版局から刊行される。
私はまだ読んでいない。私は読んでいないのだが、この本の持つ「歴史的価値」「哲学・思想史上の価値」というものが、茫洋としながらも感じ取れるのである。
実は共著打ち合わせの段階で、高田馬場の事務所を何回か貸し出していたので、書き手の数人とは面識がある。
ところが、話を横から聞いていても、私にはどういった内容でどういった趣旨なのか、よくわからない。
ニーチェやライプニッツやスピノザやマルクスの研究者が集まっているのだから、おおよその推測はつく。
私自身、酔った勢いで、無神論についての著作が読みたいということを事あるごとに繰り返し述べてきた。
そういった、哲学に無理解な私の無理難題が、忘れていた頃に叶うこととなった。

 トマス・アキナスらのスコラ学派からは、哲学は神学の婢(はしため)などとみなされていた。
その哲学がデモクリトスーエピクロスを源流とする原子論によって、オセロゲームのように哲学が神学との主従関係をひっくり返したのである。
仮に他の先進国で同様な趣旨の編著を考案したとしても、起案し発刊に至らないと思われる。
哲学研究が盛んな国はおしなべてキリスト教圏であり、体系的にキリスト教を根源的に否定しうる著作というのは、今でも抑圧的な挙動が予想される。
日本はキリスト教の抑圧が、諸外国に比べて低い国柄である。キリスト教の数も人口の1%程度と低い。
これは日本が仏教圏であり、寺の檀家制度を通じて人民を抑圧しているので、キリスト教が広がる余地が少なかったのが原因だが、戦後においては、フィクション世界の著作物の多さが人心を掌握したことによると推測される。
日本という特異的な国において、編者の執念と梁山泊的に集まった研究者達探究心とが、一冊の書籍となって結実する事が出来たとも言える。





◯ルクティウス「事物の本性について」On the nature of things and On the nature of the universe
世界の奇書をゆっくり解説 番外編2「物の本質について」

 エピクロスの著作というのは断片的にしか残っていない。弟子であるルクティウス(Titus Lucretius Carus)がエピクロスの哲学的自然学をラテン語の6巻7400行からなる六歩格詩の形で残した。それが、「物の本質について」である。
 1417年にドイツの修道院で発見された「物の本質について」の写本が16世紀ルネッサンスを支えたのである。逆に言えば「物の本質について」が僧院から『発見』されなければ、今でも我々は中世的世界観の元で生きていた可能性すらある。

 エピクロスの革新性は神々や死後に関する迷信を否定して、自身における平静の心境を保つことを優先し、苦痛からの離脱を唱えたことにある。
「死は我々にとって何物でもない。なぜなら、我々が存する限り、死は現には存せず、死が現に存するときには、もはや我々は存しないからである。」
エピクロス「おお、アリストテレスよ、動物たちにとって幸いなことには、この霊魂はわれわれのと同じように、滅びるものであり、死すべきものなのだ。親しき亡霊たちよ、君たちが生きようとする残酷な意思とともに、生そのものをもその悲惨をも全く喪う(うしなう)に至る時を、この庭園の中で辛抱強く待つがよい。何物によってもかき乱れない平和の理の前もって休息するがよい。」(1)

 「原子と真空以外なにも無い」という原子論に基づく世界解釈を行ったエピクロスは魂は肉体の消滅とともに霧消すると明言していた。死後の世界は存在せず、それらを語って不安を煽るような「宗教」は信じるべきではない、と主張したのである。
 死後の世界が無いなんて常識じゃね?って思うのは現代人であるからであって、ギリシャ哲学勃興期における紀元前においては並び居るどの哲学者も死後における霊魂の存在を指摘している。16世紀のデカルトやマルブランシュならともかく、多神教下であったギリシャ哲学の世界でも、死後の世界の否定は異端的存在であったといえる。(要検証)

 「今から二千年前、真実はすでに記されていた。 一四一七年、その一冊がすべてを変えた」のである。ギリシャ哲学が育んだ原子論の叡智は、わずか1冊の書物を通じて伝えられ、当時の出版革命に支えられ世界へ伝播したのである。
 以後、各時代を生きた思想家や哲学者が、原子論をどのように評価して、独自の解釈で現実社会との融合を試みたのかを、『原子論の可能性:近現代哲学における古代的思惟の反響』は論じているのである。

(1)エピクロスの園 アナトール・フランス著 大塚幸男訳 岩波書店1974年

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