田神六兎の明るい日記帳

田神六兎の過去、現在、そして起こるであろう出来事を楽しく明るくお伝えします。

エイプリルフール

2013年04月01日 | 日記
 昭和50年中ごろ、日本が活気に満ち、企業が家庭的な雰囲気を持っていた頃の話です。4月1日は入社式でした。私が勤めていた会社も、毎年数人の新人が入社しました。悪戯大好きの私が、エイプリルフールを仕掛けました。
 3月中ごろから、準備しました。長髪をリクルートカットにし、私が新人の頃に着ていたスーツを出しました。総務の女子達にエイプリルフールのあらすじを話し、演技指導をしました。
 さて、当日は始業2時間前に出社し、社の廻りの清掃をしました。残念ながら新入社員は来ませんでした。食堂で、手を膝の上に置き、こじんまり座りました。遠くで女子社員達が「六兎さん、新入生みたい(笑)。」作戦は順調です。
 始業1時間前、一人の新入生が来ました。私はじっとテーブルを見ていました。新入生が目ざとく私を見つけ、私の隣に座りました。幼少の時と同じく、男の戦いはここから始まるのです。相手の値踏みをするのですね。私のスーツは安物、髪はリクルート。隣から優越感が漂ってきます。私は一言も発していません。嘘は言ってないのです。二人目の新入生が来ました。二人は入社試験で顔なじみだったようでした。試験の話が聞こえてきました。『俺、俺が点付けしたのだぜ!。』と思いながら、私は採点の結果を思い出そうとしましたが、いかんせん二人の名前をまだ知りません。二人目が私に「入社試験で会いませんでしたね?。」と切り出した。私は少し伏せ目がちに「はい、試験は受けておりません・・・。」と答えた。嘘ではない。「縁故?」と言われた。答え辛そうな演技をしました。嘘は言ってません。しかし、『俺達は戦った勝利者』と熱気が伝わってきました。男達の戦いって、無邪気ですね。
 女子社員がコーヒーを持ってきました。私の前に置きました。「どうぞ、召し上がれ。」演技指導通りでした。私は両手を合わせ合掌し、大きな声で「いただきますッ!。」と言いました。女子社員は、同じように、隣にコーヒーを置き、同じように言いました。二人の新入生は私と同じ所作で挨拶をしたのですが、声は小さく、目は泳ぎ、少し怯えていました。制服の熟女で、お化粧完璧のお姉様から「どうぞ、召し上がれ。」なんて言われたことは、いまだかって無かったのでしょうね。ましてお返しの挨拶などしたことがなかったのでしょう、当たり前ですね、刑務所やクラブじゃあるまいし。
 三人目、四人目の新入生は、その光景を見ていなかったのですが、先に来た子が『手を合わせていただきますって言うみたいだぞ・・』と伝授したようでした。飲み終えた私が、コーヒーカップを洗い場に返すとき、「ご馳走様でした。」と大声で礼を言うのが、その年のエイプリルフールの寸劇でした。大声で礼を言ったとき、クリント・イーストウッドそっくりのヤマちゃんが長期出張から帰り、出社したのでした。ヤマちゃんが「六兎君、新入生に見間違えたけど、どうしちゃったの?。髪切ったの?。」新入生全員から、神経がピ~ン、アッケラカ~ン、ハァ~って音が聞こえたようでした。涙ぐんで笑いをこらえる熟女の姉様。
 さて10時から会議室で入社式がおこなわれました。私は最前列で彼等を大きな拍手で迎えました。彼等は決して私を見ませんでした。三人の重役が挨拶をしました。最後の重役が「六兎君、君から一言、今朝は面白かったみたいですね。見たかったよ。」と言いました。
 「皆さん、○○・・・へ入社おめでとうございます。君達に聞きます。今日この日は君達にとってどのような日か、順に聞かせてください。」と質問した。彼等は綺麗な言葉をならべて謝辞を言いました。私は彼等に「皆さん、今日はエイプリルフールですよ。」会議室が大爆笑であった。
 新入生に伝えたかったことは、(1)詐欺は自分の思い込みから始まる。(2)正しいと思ったことをやれ。因習に囚われるな。(3)友人から聞くのであっても、噂や迷信を信ずるな、でした。おしまい。