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壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

渦巻く

2011年10月01日 21時14分44秒 | Weblog
        曙や霧に渦巻く鐘の声     芭 蕉

 「霧に渦巻く」という把握は、即現象的で、芭蕉としてはかなり際立った表現である。「渦巻く」は、籠もって遠くへひろがらぬ霧中の鐘声をとらえてみごとである。
 芭蕉が越後能生(のう)へ泊まったのは、曾良の『随行日記』によると七月十一日で、その夜は「月晴」、翌十二日は「天気快晴」というような日。おそらく日の昇る前は深い霧だったのであろう。
 幕末期の金沢の人、雪袋の『続句空日記』に、芭蕉作として掲出されている。今、越後能生の海岸に近い能生神社の社前に「越後能生社汐路の名鐘」と題して、この句文は碑に刻されている。
 『続句空日記』とこの碑文以外に文献が見られないので、真偽が疑われている。芭蕉の作とすれば元禄二年秋、『奥の細道』の旅の途次にあたる。
 真偽の程がはっきりしない句であるが、句が捨てがたいので参考としてとりあげておく。

 季語は「霧」で秋。霧の実際の感触が把握されているところ、旅中の体験にもとづく感が深い。

    「一夜を明かして早朝、宿を立とうとすると、霧の中から殷々(いんいん)
     と鐘の音が、渦巻くようにひびいてくる。それゆえ曙の感がひとしお濃く
     感ぜられる」


      温泉にひたり霧立ちのぼる夢を見て     季 己

        ※ 温泉(ゆ)