降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★ナマゲン間に合わない!=「北海タイムス物語」を読む (100)

2016年05月14日 | 新聞

(5月12日付の続きです。写真は、精査しても本文と関係ありません)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第100回。

【小説の時代設定と登場人物】
崩御から1年経った翌1990(平成2)年4月中旬の、北海タイムス札幌本社ビル。
〈僕〉は、北海タイムス新入社員の野々村巡洋くん(23)。東京出身、早大卒。
〈権藤さん〉は、同紙整理部記者。この日は夕刊の社会面担当(面担=めんたん)。
【 以下、小説新潮2015年12月号=連載③ 371~372ページから 】
「もう遅い! 生原が間に合うわけない❶だろ!」
権藤さんが蒼白❷になって大声を上げた。そして僕を見て「てめえ、人の足を引っ張るな!」と怒鳴った❸。
「捨て原、どっかにないか! 見出し込み二十行!」
「うちは全部使っちまった!」
「うちもない!」
「うちもない!」
「なんでもいいからくれ! 昨日の朝刊で返せるものないか!」
「ないない! 使っちまったよ!」
「なんで今日にかぎって何もないんだ!」
権藤さんが机を平手でバンッと叩いた。
「組み直すしかない! 原稿こっちからここまで上げろ! 急げ!」



❶生原が間に合うわけない
生原は「なまげん」。
自社記者が書いた原稿を、これから入力しても間に合わないに決まっている、の意味。
うーむ………。この非常事態下、整理部がとるであろう策は下記の4つ。

①入力を待つ
僕も降版遅れでドタバタ右往左往アタフタしっちゃかめっちゃかした経験がある。
入力部のベテランなら6行30秒ほどでゲラ化できる。緊急時の人力、侮れない。
②残りものを探す
〈残りもの〉は他面で未使用の記事ゲラ。
こーなりゃ、外電でも運動でも訃報でもいいから未掲載記事をつかっちゃえ。
③組み替え
①、②がダメなら、少しずつ膨らませて組み替えるしかないのだけど、当時の北タイ組み版システム(印画紙切り貼り)を考えると極めて効率が悪く、事故が起きるリスクが高い。
④中バサミ広告をつかう
たいがいの新聞社ではアカ広告(必携ではない広告=赤字広告)を用意しているので、制作局に断ってこれをつかえば18行ぐらいは処理できる。
小説では言及していないので、当時の北タイ紙には無かったようだ。
——というわけで、僕は①、④を推します。

*膨らませて組み替える
見出し幅を1行拡げたり、全角ケイを2行どりにしたりして不足分を埋めようとすること。
これがつかえるのは1ページ大を編集端末で組めるCTSで、北タイ紙は切り貼りだったから、ちと無理かも。


❷蒼白
「いやぁ~、リアルな描写だなぁ。降版遅れの時ってこうだよなぁ!」
と読みすすんできた校閲部の赤鉛筆がピタッと止まる箇所。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集 13版」(株式会社共同通信社発行)では、

蒼白(蒼白)
→青白い、青ざめた、顔面蒼白(そうはく

「△は漢字表にない字」なので、言い換えかルビをおくりましょうといっているけど、著作物なのでこのまま行ってください。

❸僕を見て……と怒鳴った
「てめえ」とは、ことばが悪い。
人間、追い込まれたときに、その人となりが出ると言いますね。
続く「人の足を引っ張るな」は、野々村くんのような新人に言うべきことばとは思えない……あ、小説なのに、僕がカッカしても仕方がない。

————というわけで、続く。

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