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(5月26日付の続きです。写真は、本文と関係ありません)
小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第108回。
【小説の時代設定と、主な登場人物】
バブルど真ん中! 1990(平成2)年4月中旬@北海タイムス札幌本社ビル
▼僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)。東京出身23歳、早大卒
▼浦ユリ子(うら・ゆりこ)=野々村と同期。札幌南高→早大政経卒24歳。道新を受けたが不合格。現在、道庁クラブ付き遊軍
▼河邑太郎(かわむら・たろう)=野々村と同期入社、東京出身23歳、早大二文露文科卒。現在、道警担当
【 以下、小説新潮2016年1月号=連載④ 458~459ページから 】
マスターがコーヒーをふたつ運んでくると、河邑が口をつぐんだ。そしてマスターが戻っていく背中を見ながら声をひそめた。
「手取りで十三万から十四万円くらい❶だってよ」
「ほんとかよ」
「ボーナスなんて、あってないようなもんらしい。いくらだと思う」
「新聞社なんだから、そこまで低くはないと思うけど、まさか三十万とかそれくらい……?」
「いやいや、そんなもんじゃないんだ。十万円弱といったところらしい。七万とか八万とか」
「……そんなのボーナスじゃないだろ……」
「年収は二百万以下❶だ」
「嘘❷だろ」
浦さんはコーヒーを口に運びながら、僕が読んでいた週刊誌を黙って開いていた。
「ほんとうだ。さっき俺、三階の組合寄って確かめてきたんだよ。壁に全国の新聞社の夏ボーナスの攻防が表になって貼り出されてた。
全国紙やブロック紙❶みたいなでかいところだけじゃなくて、地方紙からスポーツ紙まで、みんな組合員平均百万円の攻防やってるけど、うちだけ十万円の攻防だ。うちだけ桁が違うんだ」
「……」
❶手取りで十三万から十四万円くらい/年収は二百万以下/ブロック紙
1990年の大卒初任給は、
▽男性= 16万9,900円
▽女性= 16万2,900円
(厚労省賃金構造基本統計調査から)
だったから、かなり低い……。
さらに、年収は、
▽1990年サラリーマン平均年収= 438万 4,000円(同調査から)
だったから半分以下 半分以下 半分以下……(←エコー状態)
8年後1998年、同紙は破綻するので、経営は超低空飛行&赤字は慢性化していたのだろう。
*掲出頻度高い「ブロック紙」
小説を読んでいると、全国紙と並び「ブロック紙」という語彙がちょくちょく出てくる。
愛知県出身の増田さんはブロック紙の雄・中日新聞を常に意識していたようだ。ブラック紙より、ブロック紙。
(余計なことだけど、名古屋中日の知人が「名古屋じゃ、中日勤務だがや!って言うと、東京で言う大蔵省勤務と同じなんですよ。ウフフ」と言っていた。ああ、そーですか)
❷嘘
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集 第13版」(株式会社共同通信社発行)では、
うそ( △ 嘘)→うそ。うそ字、うそつき、うそ発見器(△は漢字表にない字)
——平仮名にしましょうと言っているけど、著作物なのでこのまま行ってください(って、校閲部の人はよく言うよね)。
————というわけで、続く。