Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「月と菓子パン」石田千著(新潮社)

2008-11-05 | エッセイ・実用書・その他
「月と菓子パン」石田千(いしだ せん)著(新潮社)を読みました。
近所のとうふや巡り、猫みちあるきで名づけたぶすこさん、居酒屋の相席、お好み焼きを焼きながらの花見など、女ひとりぐらしの日々を描いた石田さんの処女作です。

「エッセイ」というより「随筆」と呼びたい。
下町の風景が楽しく、美しい文章で描かれています。

たとえば「火の用心」の中の一節。
「乾物をもどすのはおもしろい。でかけるときに水の中に放り込んでおくと、ぼわんとふくらんでいる。だれもいない台所に、生き物が動いているようなのがいい。
豆をゆでるのは、夜長を楽しむための策でもあるのだった。いろんな豆をすこしずつ混ぜてゆでる。とら豆、緑豆、ささげ、白いんげん、金時。大きさもかたちも、ほんとうはゆでる時間もちがうのだが、気にせずいっしょに放り込む。」

宮下奈都さんの「日をつなぐ」(『コイノカオリ』収録)も思い出しました。
今夜は私も豆を煮ようかなあ。

「まるいおもち」のおばあさん3姉妹が年末にそうれ、と掛け声をかけながらおもちを丸める様子もほほえましくてとてもよかったです。

一気に読むのではなくて、ちょこちょこと肩の力をぬきながら読むのがおすすめの本。




「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」柴崎友香著(河出書房新社)

2008-11-04 | 日本の作家
「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」柴崎友香著(河出書房新社)を読みました。
友人カップル恵太とルリちゃんのドライブツアーに、望とコロ助、男二人がむりやり便乗して東京へ。車は行き交う四人の思いを乗せて走ります。

それぞれのキャラクターが会話に表れてぽんぽんとテンポよく進み、私も大学時代の友人たちとのドライブを思い出しました。
でも私のドライブと違うのは関西の会話のセンス。さすが!面白いです。
みんなからわがままと非難される望ですが、学生時代の友達関係ってこういうむちゃくちゃなところ(強引に告白させるとか、自分の都合メインとか)あったよな。

同時収録は「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」。
現代の三年寝太郎です。
ただ寝太郎とちがって起きてもなにか立派なことをするわけではありません。

「穴」ルイス・サッカー著(幸田敦子訳)講談社

2008-11-03 | 児童書・ヤングアダルト
「穴」ルイス・サッカー著(幸田敦子訳)講談社を読みました。
無実の罪で少年たちの矯正キャンプに放りこまれたスタンリー・イエルナッツ。
彼は焼ける大地に一日一つ、大きい穴を掘らされます。
人格形成のためといわれていますが、実は穴ほりには隠れた理由がありました。
全米図書賞ほか多くの児童文学賞を受賞した作品です。

なんとなくポール・オースターの「ムーン・パレス」の砂漠の場面を思い出しました。照りつける太陽、あたり一面なにもない荒野。
登場する少年たちはイカにX線にジグザグにゼロ!?
そしてスタンリーについたニックネームは「原始人」。なんだそりゃー。

何世代にもわたる幾人ものストーリーが語られ、結びついていく後半。
スタンリーとゼロの結びつきが深まっていくくだりは読んでいてとても気持ちがいいです。
タマネギや桃ジャムなど小道具の使い方も見事。

この話の後日談も出ているそう。そちらもぜひ読んでみたいです。