Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「博物館の裏庭で」ケイト・アトキンソン著(小野寺健訳)新潮社

2008-11-23 | 外国の作家
「博物館の裏庭で」ケイト・アトキンソン著(小野寺健訳)新潮社を読みました。
曾祖母アリスの冒険、祖母ネルの恋、母バンティの夢。そして受胎したときから語り始めた私ルビー。二度の世界大戦をはさみ、女四世代にわたる家族の歴史。
この作品は処女作にしてイギリスではブッカー賞に並ぶという権威あるウィットブレッド賞を受賞しました。

基本的な語りはペットショップを営み、その二階に住むバンティとジョージの夫婦とその子どもたちパトリシア・ジリアン・ルビーの姉妹の話です。
そこに彼らの祖母たち、曾祖母たちの話が本編・あるいは注釈(と呼べないほど一章分の長さがあります)という形で挿入されます。
時間が行きつもどりつするので、ちょっと読みづらいです。
「あれ?この人さっき死んだのに、また登場?」と頭が混乱します。
そういう意味では親戚たちが集まって時間を飛び越えて思い出話や人間の消息、物の由来などの話をぽんぽん飛び交わせている感じに近いかも。
訳者あとがきには「彼女はいわゆる前衛小説の読みにくさとは無縁」と書いてありますが、確かに文章の意味がわからないということはありませんが、物語自体はそんなに読みやすくはないです。

そしてこの物語では二度の世界大戦、そして不慮の事故で人がたくさん死にます。
そのほかにも母の不倫、長姉の未婚での妊娠などショッキングな話がたくさんあります。
でもすべてそれらが非ドラマチックに、普段の生活と均等に描かれている印象を受けます。そしてルビーの語り口がクール。
「ジリアン(姉)が死んだのはバンティ(母)がクリスマスにでかけようとしたからだ」とか、ジリアンの墓に行っても大好きなドレスのことばかり考えていたり、それともこれは「クール」というよりはイギリス流ブラックジョークなのでしょうか?
イギリスの人はこういう描写で笑うのかな?だとしたら懐が深すぎる・・・。

この作品では「失われた時を求めて」や「レベッカ」などちょこちょこと本や文学の登場人物についての文章が登場します。その部分を楽しむのも本好きのお楽しみ要素。