「海を見たことがなかった少年」ル・クレジオ著(豊崎光一/佐藤領時訳)集英社を読みました。
子供たちが主人公の8篇の短篇集です。今年のノーベル賞を受賞しました。
今までの作品より読みやすいらしい(ほかの作品を読んだことがないのでわかりませんが)のですが、それでも文章が濃密。そしてとても美しい。
映像にはできない文章の力ってこういうことかなあと思わされます。
私が好きだったのは冒頭の「モンド」、身寄りがなくどこででも寝て食べる無垢な少年。
それから学校に行くのをやめた少女が主人公の「リュラビー」。
たとえば「モンド」でベトナム人の夫人が住む黄金の光の家の描写。
「棕櫚(しゅろ)の木のまわりには、藪(やぶ)が濃く暗くしげっていて、そのあいだを菫(すみれ)色の大きな茨が、蛇のように地面をはっていた。
とりわけきれいなのは、その家を包んでいる光だった。午後の終わりの日光は、とてもやわらかで落ち着いた色、秋の葉か砂のように暖かく、人を浸し、人を酔わせる色をしていた。砂利道をゆっくり前に進む間、モンドは顔を愛撫するその光を感じた。彼は眠りたい気がし、ほとんど呼吸もしていなかった。」
月桂樹の香り、鴎のような凧、自分の名前の中の月、空に映る町の明かり。花々を飛び交う雀蜂、航空便箋。
どの作品にも、氷砂糖をなめるようにゆっくりと味わいたい、美しい情景がつむがれています。
子供たちが主人公の8篇の短篇集です。今年のノーベル賞を受賞しました。
今までの作品より読みやすいらしい(ほかの作品を読んだことがないのでわかりませんが)のですが、それでも文章が濃密。そしてとても美しい。
映像にはできない文章の力ってこういうことかなあと思わされます。
私が好きだったのは冒頭の「モンド」、身寄りがなくどこででも寝て食べる無垢な少年。
それから学校に行くのをやめた少女が主人公の「リュラビー」。
たとえば「モンド」でベトナム人の夫人が住む黄金の光の家の描写。
「棕櫚(しゅろ)の木のまわりには、藪(やぶ)が濃く暗くしげっていて、そのあいだを菫(すみれ)色の大きな茨が、蛇のように地面をはっていた。
とりわけきれいなのは、その家を包んでいる光だった。午後の終わりの日光は、とてもやわらかで落ち着いた色、秋の葉か砂のように暖かく、人を浸し、人を酔わせる色をしていた。砂利道をゆっくり前に進む間、モンドは顔を愛撫するその光を感じた。彼は眠りたい気がし、ほとんど呼吸もしていなかった。」
月桂樹の香り、鴎のような凧、自分の名前の中の月、空に映る町の明かり。花々を飛び交う雀蜂、航空便箋。
どの作品にも、氷砂糖をなめるようにゆっくりと味わいたい、美しい情景がつむがれています。
学生の頃から名前は気になっていたのですが、何となく手が出せなくて。でもプルーストをたいへん評価している作家なので、興味はあります。
「氷砂糖をなめるようにゆっくりと味わいたい」
いいですねー。
暗く妖しい作品もあるのですが、それも幻想的で。
でもほかの作品は長編かつ難解という噂なのでちょっと読めそうにありませんが・・・。