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日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「キプリング短篇集」ラドヤード・キプリング著(橋本槙矩編訳)岩波書店

2009-11-09 | 外国の作家
「キプリング短篇集」ラドヤード・キプリング著(橋本槙矩(まきのり)編訳)岩波書店を読みました。
『ジャングル・ブック』の作者として知られるノーベル賞作家のキプリング。
大英帝国の凋落とともに彼の作家としての存在は影が薄くなっていったそうですが、彼の短篇の手法はジョイスやヘミングウェイ等にも影響を与え、今日再評価の声が高まっているそうです。
インドを舞台にした初期の作品から、物語の重層性・複雑な話法が見直されている「損なわれた青春」等後期のものまで代表的な短篇9篇が収められています。

イギリスの身分の高い白人男性がインドの身分の低い女性と関係を持ち、悲しい結末をたどる「領分を越えて」。

「モロウビー・ジュークスの不思議な旅」は、インド版「砂の女」のよう。
一度死んだと思われ、火葬のために川岸に着いたときに息を吹き返した人間を送り込む穴=死者の町。この死者の町に住むものは流砂とライフル銃の見張りに阻まれて脱出することができません。
その穴に迷い込んでしまったジュークスの運命は?

「交通の妨害者」は孤独な灯台守ダウズの話。

「彼が言うには、やがて、永く潮を見つめていると頭の中に縞模様が見え始めたらしい。それは何本もの長く白いすじだった。上手に貼れなかった壁紙のすじのようだと彼は言った。」

「すじ」に捕らわれたダウズは海に船が通るのを憎むようにすらなります。

「すじを作りに来るな、海をすじだらけにするな。」

次第に狂気に蝕まれていく彼がとった行動とは?
柴田元幸さんの選集にでも登場しそうな、奇妙な男の話です。

キプリングのストーリーテリングの巧みさは短篇でももちろん健在!
多作な作家だったそうですが、作品が日本語にあまり訳されていないのが残念です。

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