「夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」カズオ・イシグロ著(土屋政雄訳)早川書房を読みました。
ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」。
芽の出ない天才中年サックス奏者が、図らずも一流ホテルの秘密階でセレブリティと共に過ごした数夜の顛末をユーモラスに回想する「夜想曲」など、
書き下ろしの連作五篇を収録した著者初の短篇集です。
厳密な連作短編ではないのですが、ある作品の脇役が別の作品の主役になったりして登場します。
冒頭の「老歌手」はさすがカズオイシグロ、と思わされる作品。
往年の名歌手トニー・ガードナーのプライベートな願いを手伝うことになるギタリストの主人公。共産主義国出身の主人公の母の思い出と、ガードナーの人生が響きあいます。
「降っても晴れても」は、これもカズオイシグロ?と驚かされる爆笑必死の作品。
覗き見てしまったノートの痕跡を隠すため、犬が部屋を荒らしたように偽装を図る主人公。雑誌を噛むときは軽く噛む動作をするとなかなかよいシワができる、噛むことだけに集中しすぎると、ページどうしがホッチキスで留めたようにくっつきあい失敗する、って・・・熱中しすぎ!
三谷幸喜さんの脚本でドラマ化したら面白そう。
俳優は誰かな。一見二枚目に見える三枚目、鶴見しんごさん。
「モールバンヒルズ」はミュージシャンを志す若い主人公が、旅行中の中年ミュージシャン夫婦に出会う話。
「若いころのわたしには、何があっても腹など立たなかった。でも、いまじゃ怒ってばかり。なぜ?わからないけれど、いいことじゃないわね。」
年をとっても「悪いこと」にはあえて目を向けない夫。
年をとるにつれて現実的になり欠点が見えてしまう妻。
どちらの「目」もバランスよく持ち続けるのは難しいことなのだと思います。
表題作「夜想曲」には、冒頭の「老歌手」の妻リンディ・ガードナーが登場。
リンディは盗んだトロフィーを七面鳥の中に・・・。この作品もどたばた加減が面白い。もちろん面白いだけではない、人生の苦味が描かれているのですが。
「チェリスト」
ハンガリーから来た、エリート教育を受けた若きチェリスト・ティボール。
彼が出会ったのは自称チェリストの大家、エロイーズ。
密室で行われる個人レッスン、そして(自分たちにはそう感じられる)才能の高まり。自分が感じている、ほかに例の無い自身の才能、そして他人の評価との落差。
今日(09.07.20)の朝日新聞に出ていた著者のインタビュー記事を抜粋しておきます。
「音楽は、誰もが抱く、こういう人生を送りたいというような夢やあこがれを象徴しています。夕暮れは、昼から暗い夜に変わる転換点。夜にはなっていないが、そう長く続かない時。つまり時間の経過や年齢を想起させます。」
「我々が生きる社会も変わりました。最近は、人生をやり直すのに遅すぎることは無い、という風潮が広がっています。現代社会は「今のままの自分であきらめてはダメ。人は変わることができる」というメッセージを出しています。
その意味で、決断の日をどんどん先送りし、自分の夢をいつまでも育んでいられる環境なのです。でもそれは、現実の自分をあざむいていることでもあるわけです。」
・・・厳しい。でも正しい、意見ですね。
最後にこれからの自分の仕事について。
「私にとっての挑戦は、今までと違うものを書くこと。「あるテーマについて衝撃を受けたいなら、この本を読むべきだ」といわれるような小説を書きたいですね。」
楽しみ!
しばらくはこの最新作をゆっくり読み返して味わいます。
今までの長編より「笑い」のエッセンスが強く出ていて、面白い短篇集でした。
ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」。
芽の出ない天才中年サックス奏者が、図らずも一流ホテルの秘密階でセレブリティと共に過ごした数夜の顛末をユーモラスに回想する「夜想曲」など、
書き下ろしの連作五篇を収録した著者初の短篇集です。
厳密な連作短編ではないのですが、ある作品の脇役が別の作品の主役になったりして登場します。
冒頭の「老歌手」はさすがカズオイシグロ、と思わされる作品。
往年の名歌手トニー・ガードナーのプライベートな願いを手伝うことになるギタリストの主人公。共産主義国出身の主人公の母の思い出と、ガードナーの人生が響きあいます。
「降っても晴れても」は、これもカズオイシグロ?と驚かされる爆笑必死の作品。
覗き見てしまったノートの痕跡を隠すため、犬が部屋を荒らしたように偽装を図る主人公。雑誌を噛むときは軽く噛む動作をするとなかなかよいシワができる、噛むことだけに集中しすぎると、ページどうしがホッチキスで留めたようにくっつきあい失敗する、って・・・熱中しすぎ!
三谷幸喜さんの脚本でドラマ化したら面白そう。
俳優は誰かな。一見二枚目に見える三枚目、鶴見しんごさん。
「モールバンヒルズ」はミュージシャンを志す若い主人公が、旅行中の中年ミュージシャン夫婦に出会う話。
「若いころのわたしには、何があっても腹など立たなかった。でも、いまじゃ怒ってばかり。なぜ?わからないけれど、いいことじゃないわね。」
年をとっても「悪いこと」にはあえて目を向けない夫。
年をとるにつれて現実的になり欠点が見えてしまう妻。
どちらの「目」もバランスよく持ち続けるのは難しいことなのだと思います。
表題作「夜想曲」には、冒頭の「老歌手」の妻リンディ・ガードナーが登場。
リンディは盗んだトロフィーを七面鳥の中に・・・。この作品もどたばた加減が面白い。もちろん面白いだけではない、人生の苦味が描かれているのですが。
「チェリスト」
ハンガリーから来た、エリート教育を受けた若きチェリスト・ティボール。
彼が出会ったのは自称チェリストの大家、エロイーズ。
密室で行われる個人レッスン、そして(自分たちにはそう感じられる)才能の高まり。自分が感じている、ほかに例の無い自身の才能、そして他人の評価との落差。
今日(09.07.20)の朝日新聞に出ていた著者のインタビュー記事を抜粋しておきます。
「音楽は、誰もが抱く、こういう人生を送りたいというような夢やあこがれを象徴しています。夕暮れは、昼から暗い夜に変わる転換点。夜にはなっていないが、そう長く続かない時。つまり時間の経過や年齢を想起させます。」
「我々が生きる社会も変わりました。最近は、人生をやり直すのに遅すぎることは無い、という風潮が広がっています。現代社会は「今のままの自分であきらめてはダメ。人は変わることができる」というメッセージを出しています。
その意味で、決断の日をどんどん先送りし、自分の夢をいつまでも育んでいられる環境なのです。でもそれは、現実の自分をあざむいていることでもあるわけです。」
・・・厳しい。でも正しい、意見ですね。
最後にこれからの自分の仕事について。
「私にとっての挑戦は、今までと違うものを書くこと。「あるテーマについて衝撃を受けたいなら、この本を読むべきだ」といわれるような小説を書きたいですね。」
楽しみ!
しばらくはこの最新作をゆっくり読み返して味わいます。
今までの長編より「笑い」のエッセンスが強く出ていて、面白い短篇集でした。