Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「地図男」真藤順丈著(メディアファクトリー)

2009-07-01 | 日本の作家
「地図男」真藤順丈著(メディアファクトリー)を読みました。
仕事中の「俺」は、ある日、大判の関東地域地図帖を小脇に抱えた奇妙な漂浪者に遭遇します。地図帖にはびっしりと、男の紡ぎだした土地ごとの物語が書き込まれていました。
千葉県北部を旅する天才幼児の物語。東京二十三区の区章をめぐる蠢動と闘い、奥多摩で悲しい運命に翻弄される少年少女。
物語に没入した「俺」は、次第にそこに秘められた謎の真相に迫っていきます。
この作品は第3回ダ・ヴィンチ文学賞の大賞を受賞しています。
ネタバレあります、ご注意ください。

地図の各ポイントに物語を書き込む地図男。
まるでクリックすると詳細な世界に飛ぶインターネットの世界のよう。
それをアナログでやっているのが面白い。
冒頭の音楽に愛された子どもの話、区章を刺青にした東京アンダーグラウンドの闘いの話、どれも面白いですが、最後の奥多摩の話が質・量ともにメイン。

地図男の正体はもしかして・・・!と匂わせて、でもやっぱりあくまで地図男は物語世界の傍観者なのですね。「傍観者」というよりは、「物語世界に参加している観察者」という感じかな。
地図男が奥多摩の話を語る場面は、地図という俯瞰からキューっとズームインして「もうすぐ謎が明かされる!?」という核心に迫る感覚があるのですが、ラストはまたそこからズームアウトして世界が広がっていく感覚が味わえます。
彼女が愛しく、彼女にまつわる物語が愛しく、彼女の住んでいる世界が愛しい。
何重にも広がっていく波紋を思わせるラストでした。