Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ウォーターランド」グレアム・スウィフト著(真野泰訳)新潮社

2007-01-23 | 外国の作家
「ウォーターランド」グレアム・スウィフト著(真野泰訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
語り手は52歳の歴史教師、トム・クリック。
彼は妻が引き起こした嬰児誘拐事件によって退職を迫られています。
彼は生徒たちに、世界史の授業ではなく、生まれ故郷である沼沢地フェンズについての土地と自分の家系の物語を語りはじめます。
フェンズに刻まれた人と水との闘いの歴史、父方・母方の祖先のこと、少女だった妻との恋と、その思いがけない波紋…。
物語にみちた水郷を舞台に、歴史の地下風景を描き出した長編小説です。

短い章立てで時間が行きつ戻りつ交差する作品。
語り手トムがプライスを始めとする教え子に語る現在、また彼の少年時代、さらにさかのぼり彼の祖父母の生活、うなぎの考察、フランス革命の歴史的意義についてまで、幅広く語られる厚みのある作品です。
読み進めるうちにトムの兄ディックの血の謎、妻メアリが子供を求めて誘拐をしたのはなぜか・・・ ということが徐々にあかされていくミステリーのような要素もあります。
トムの少年時代の思い出が鮮烈に印象に残ります。
トムの友人の死、幼い性的な遊び、ディックの求める「あい」、数々のできごとのすぐ横を(下を)すりぬけていくうなぎの感触。
ラストがとてもせつなかった・・・。
若く幼い日の過ちが、自分の、他人の人生にゆがんだ波紋をなげかけていく様子がリアルでした。