Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「調律師の恋」ダニエル・メイスン著(小川高義訳)角川書店

2006-09-25 | 児童書・ヤングアダルト
「調律師の恋」ダニエル・メイスン著(小川高義訳)角川書店を読みました。
物語は19世紀、舞台はロンドンから始まります。
主人公はイギリス人ピアノ調律師、エドガー・ドレーク。
ある日彼はイギリス陸軍から奇妙な依頼を受けます。
それは戦火の絶えないビルマ奥地に旅立ち、軍医アントニー・キャロルが持つエラールの調律をしてほしいという内容でした。エラールとは、ハイドンやベートーヴェンも弾いていた伝説のピアノです。
当時のビルマはイギリスが植民地戦争を仕掛けていた真っ只中。
なぜ戦時下のビルマに伝説のピアノが運ばれたのか。疑問と不安を抱きながら彼は最愛の妻を残しビルマへと旅立ちます。
やがて出会うさまざまな出来事。
ひとつ話の男、トラ狩り、美しい女性キンミョー、キャロル医師との邂逅、メールィンでの生活・・・それらのすべてが、エドガーを逃れられない運命へと引きずり込んでいきます。

読み終えてしばし「ほー・・・」となってしまいました。とてもとても面白かったです。だんだん残りページが減っていくのがさびしかった。
著者のダニエル・メイスンはこの大作をわずか26歳で書き上げ、しかも本作が処女作というから驚きです。著者がハーバード大学の医学生のときに1年間滞在したというビルマの体験が下敷きになっているそうです。
未開のビルマ人にイギリスの文化を教えてやろうとする軍部の傲慢さへの違和感。
ビルマの音楽や風俗への驚きと喜び。
超人キャロル医師への得体の知れなさと尊敬。
花が咲き子供たちが遊ぶメールィンでの穏やかな生活。
エドガーの心のひとつひとつが鮮やかで一気に読んでしまいました。
ストーリーも面白いのですが、心にくっきりと残る絵画のような場面も数多くあります。雨の中エラールを運ぶ場面、エドガーが弾くバッハ、キンミョーとのひそやかな連弾。
キャロル医師の正体はなんだったのか、エドガーの心の行方は・・・。
読み終えていくつもの解釈ができる重層さにも敬服。