Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「アフターダーク」村上春樹著(講談社)

2006-09-02 | 村上春樹
「アフターダーク」村上春樹著(講談社)を再読しました。
真夜中から空が白むまでのあいだ、深夜のファミレスですごすマリ、トロンボーンを趣味にしている青年、ラブホテルで暴行される中国の少女、深夜に働くサラリーマン、家で眠り続けるエリなど、さまざまな人々が少しずつかかわりそれぞれの「闇」を抱いている様子を描いています。
空から見下ろすカメラのような(私たち読者のような?)目線が語り部。
ローファットミルクや深夜のテレビ番組など、小道具から小道具へ舞台が移り変わる様子は映画を見ているようで、視覚的要素の強い作品だと思います。
作中でテツヤがエリのことを「彼女の言葉はこちらに届かない、僕の言葉も彼女に届かない」と語っています。
その言葉はこの作品の中ではサラリーマン白川が強く体現していると思いました。
彼には自分の仕事、自分の外見の維持、性欲の処理、総じて「自分がやりたいこと物語」しか頭になく、自分の家族も買った娼婦も、彼の心には何も届いていないのかなあ・・・と。
中国人組織の男性より、見た目が普通のよき夫・社会人なだけに白川の抱く闇の方がより恐ろしく感じました。
誰もが心に抱いている闇、その闇を深くしないためにはどうすればいいのか?
コオロギの語る「記憶は燃料」という言葉がヒントになりそうな感じはするのですが・・・。