Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「宮殿泥棒」イーサン・ケイニン著(柴田元幸訳)文藝春秋

2006-01-05 | 柴田元幸
「宮殿泥棒」イーサン・ケイニン著(柴田元幸訳)文藝春秋を読みました。
努力家タイプの謹厳実直な中年会計士を描いた「会計士」、
天才的な兄と比較される凡庸な弟を描いた「バートルシャーグとセレレム」、
妻と別れ、息子とも距離を感じている父親を描いた「傷心の街」、
かつては劣等生でいまや産業界の大立者になった元教え子に翻弄される老いた高校教師「宮殿泥棒」。
普段あまり脚光をあびることのない優等生たちのほろ苦い人生を、親身にやさしく、絶妙な筆運びで描いた中篇集です。
印象的だったのが「宮殿泥棒」。
主人公は教え子のカンニングを見つけますが、彼の不正を暴くこともできず、かといって「世の中はそういうものだ」と割り切ることもできません。
まるで自分を見ているようだと感じ、私ならどんな選択をとるだろうという問いが頭の中をめぐりました。
またとてもせつなかったのが「傷心の街」。
「私は恋をしていた記憶をなぞっていたのかもしれない」という場面がつらかったです。妻も息子も愛しているのに孤独になってしまった主人公。
自分にもいつかこんな場面がおとずれるのだろうか・・・と思いました。
どの作品もまじめに生きてきた人間がはいりこむ袋小路を描いており、とてもリアルで深く考えさせられます。
ケイニンのほかの作品もぜひ読んでみたい!



「村上春樹と柴田元幸のもうひとつのアメリカ」三浦雅士著(新書館)

2006-01-05 | 柴田元幸
「村上春樹と柴田元幸のもうひとつのアメリカ」三浦雅士著(新書館)を読みました。
作者ではなく、翻訳者である柴田元幸が文壇に影響を与えている不思議について筆者が語った作品。柴田元幸さん本人へのインタビューに多くページがさかれており、柴田元幸ファンにも楽しめる一冊。
村上春樹さんが影響を受けた作家、サリンジャー、ヴォネガット、ブローティガンから、柴田元幸さんが翻訳しているオースター、ミルハウザー、ダイベックなど、アメリカ文学の楽しさも味わえます。
印象的だったのが、柴田さんのインタビューの中で恋愛について語った場面。
「好きな小説には反恋愛小説が多いです」「それはなぜ?」「うーん、それは恋愛が面白いからじゃないですか」とちょっとびっくりする答え。
海外旅行は楽しいけれど、人の旅行の話は面白くない。
楽しい夢を見た日はうれしいけれど、人の夢の話はつまらない。
だから単純に恋愛を扱った作品はあまり好きではない・・・。
なるほど~と思う意見でした。
インタビューの中では村上春樹さんをきっかけに翻訳にめざめたという話もあり、私はむしろ逆に柴田さんは英語教師として村上さんにアドバイスを送る立場だと思っていたので、それも驚きでした。
論文としてもとてもわかりやすく、興味深い本でした。