先週のコラムで、新型コロナウイルス禍による4月以降のイベント開催の可否について書いた。一例として挙げた「TGC KUMAMOTO」がその後に「延期」を決断した。コラムをアップした3月25日、早朝4時12分は時間外ということもあり、公式HPではあくまで開催を前提にした情報が公開されていた。業務の時間帯に入ってからだろうか、主催の東京ガールズコレクション実行委員会と共催のTGC熊本推進委員会は、HPを更新し「新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴う開催延期およびチケット払い戻しについてのお知らせ」と題し、正式に延期を発表した。https://girlswalker.com/tgc/kumamoto/2020/news-archives/2801/
発表内容は以下の通りである。
「2020年4月25日(土)にグランメッセ熊本にて開催予定の『Tsuruya presents TGC KUMAMOTO 2020 by TOKYO GIRLS COLLECTION』つきまして、新型コロナウイルス感染症による感染拡大につき、東京ガールズコレクション実行委員会と共催であるTGC熊本推進委員会と協議を重ねた結果、開催を延期することを決定いたしました。来春の開催を目指しTGC熊本推進委員会と協議を進め、決定次第公式サイトにて発表いたします」。内容は実にあっさりした事務的なものだった。
政府の専門家会議が3月19日に下したのは、「大規模イベントについては感染リスクに対応できないなら、中止をしてもらう必要がある」だった。だが、これはあくまで「要請」で、法的な強制力がなく、「感染リスクに対応できれば、開催可能」とも解釈できるため、政府の可否判断は「イベントの主催者に委ねる」だった。ただ、専門家会議が挙げた注意事項では、イベント会場では「手洗いする場の確保」、「手で触れる場所の消毒」などの徹底。「入場者数を絞り」、「互いに一定の距離を保つ」など密集しないようにする必要性も強調。「声援などで大声を出すことを避け」、「屋内の場合は適切に換気する」べきだとした。
つまり、 TGCのようなイベントはこうした注意事項の厳守を前提にすれば、開催は不可能になる。それ以上にTGCを企画制作するW TOKYOは、イベントの大義に「地方創生」というスローガンを掲げて自治体の熊本市や県の全面支援を取り付け、自治体側もTGC KUMAMOTOを熊本地震からの創造的復興に位置付けていた。しかし、政府が大規模イベントの自粛要請を掲げ、民間がそれに協力する姿勢を示す中で、市や県が税金から補助金を拠出し堂々と共催や後援として名を連ねる以上、強行開催に舵を切ることは許されない。
また、報道はされていないが、芸能プロダクションやモデル事務所は、新型コロナウイルス禍ではイベントへのタレント派遣に難色を示したはずだ。万一、タレントらが会場で感染した場合の損害や休業についての、自治体が主催者側に名を連ねている以上、補償を請求されるリスクがあった。今回、冠スポンサーとなった鶴屋百貨店では、久我彰登社長がTGCに協力する熊本商工会議所の会頭を務める立場で、かなり苦悩したのではないかと思われる。それに加えてイベントをスポンサードする地元企業にとっても、万一感染者を出してしまうと、イメージダウンは避けられない。利害関係者の間では課題や懸念が渦巻いていたのだ。
一応、公式HPの発表では「主催の東京ガールズコレクション実行委員会と共催のTGC熊本推進委員会と協議を重ねた結果」となっている。しかし、どちらとも任意の団体で、万が一の法的責任は取れない。やはり、最終的には政府がコロナ特措法で示した「都道府県知事」が政治決断するしか選択はなかった。本来ならもっと早く結論を出すべきだが、何せ熊本県知事選挙が重なっていた。現職の蒲島知事が選挙戦よりも公務を優先する中で、選挙結果が出てから、最速の決断(3月22日投開票から遅れること3日後)だったと思われる。
延期でスポンサーもスライドか?
決定内容は中止ではなく、「来年の春に延期」だった。これが何を意味するのか。W TOKYOは熊本開催が決定した2018年の記者会見で、「(TGCは)最低でも3回は開催したい」と、語っていた。つまり、当初から3年スパンの連続開催を考えていたのであれば、2021年も開催する予定だったと受け取れる。であれば、今年の開催分は延期ではなく、「中止」という意味になるのではないか。まあ、その分、3回目が2022年にズレるということになるわけだが。
事実上は中止なのにそうではなく、延期と呼び方に拘ったのはなぜか。まず関係者に来年の協力を求める狙いがあると見られる。今年は共催が熊本市やTGC熊本推進委員会、後援が熊本県、協力が熊本経済同友会や熊本商工会議所、熊本市中心商店街等連合協議会と、錚々たる顔ぶれだ。自治体や経済団体は公共イベントに補助金を拠出する上で、3年くらいなら支援してもいいが、それ以上にわたるのなら「事業化しろ」と言うのが一般的。だから、主催者側としてはあくまで延期にして、資金的な継続支援を確実に取り付けたかったのだ。
熊本のような地方都市では、民間だけで大規模イベントを開催するのが難しいのは、わかりきっている。イベントを3回程度継続するには、3回とも自治体や経済団体に支援してもらわないと、開催自体が危うくなる。さらに冠スポンサーとなっていた鶴屋百貨店、支援する地元企業スポンサーに対しても延期にすることで、そのままスポンサード権をスライドさせるように配慮したと思う。鶴屋百貨店や地元企業にとっては中止ではないから、また来年のスポンサー効果に期待が持てる。これも大きな要因だ。
別の角度から見ると、来年春にはJR熊本駅に「JRくまもとシティ」が開業する。そこには商業施設部分で「アミュプラザ熊本」の入居が決まっている。2011年、同じJR九州の駅ビルJR博多シティが開業した時は、核店舗の一つを占める百貨店の「博多阪急」がTGCと同じファッションイベントの「福岡アジアコレクション(FACo)」に全面協力した。同店がヤング向け売場「HAKATA SISTERS」で展開するブランドをショーに出演したモデルやタレントらが着て、プロモーションしたのである。
当然、W TOKYOが来年のTGC KUMAMOTOでJR九州やアミュプラザ熊本を冠スポンサーに想定していることも考えられる。当初からその計画で動いていたとすれば、2回目に鶴屋百貨店、3回目にJR九州ということで、スポンサー権販売の不文律にも反しない。そこまで深く考えていなくても、制作側にとってファッションイベントで安定した収益を上げるには、ビッグスポンサーを確保しておくことが不可欠になる。
アミュプラザ熊本は熊本駅ビルの商業施設なので、入居するのは外部のショップになる。JR九州が直接商品を販売するわけではないから、TGCにどこまで衣装協力できるかは未知数だ。ただ、冠スポンサーは別物で、JR九州としても新駅ビルやブランドをアピールするのにTGCは格好の機会となる(ブランドショップに衣装提供を求めれば、イベント出展はできないことはない)。その辺の調整が来年の開催に向けての唯一の課題ではないかと思われる。
熊本駅ビルにテナントを奪われる危機感
一方、鶴屋百貨店としては、JR熊本駅ビルの動向はいちばん気になるところ。開発計画が発表された当初、地元メディアでは「百貨店が誘致される」なんて憶測情報が飛び交っていた。これは中心商業地と離れているJR名古屋駅から類推してのことだと思われる。JR東海が名古屋駅ビルには百貨店の伊勢丹を誘致し、栄などの中心商業地と上手く棲み分けられているため、似たようなエリア構造の熊本に当てはめたものだ。
しかし、名古屋と熊本では、人口や所得があまりに違い過ぎる。人口は名古屋市:2,328,091人(2020年2月1日)、熊本市:739,431人(同)、平均所得は名古屋市民:400万1454円(2018年)、熊本市民:320万8312円(同)。しかも、こうした市場規模から、熊本ではこれまで「伊勢丹」や「阪神」など数々の百貨店が閉店に追い込まれてきた。百貨店側からも「何を自惚れているのか」「経験から何を学んだのか」と突っ込まれそうだ。
JR九州もそんな市場性をちゃんと検証しており、青柳俊彦社長は地元メディアの取材に対し、「アミュプラザをつくることで進めている」と断言した。そもそも、アミュプラザは小倉から長崎、鹿児島、博多、大分までの駅ビルで開業し、この秋には宮崎駅にもオープンする。運営のフォーマットができ上がっているのに、しんがりの熊本駅だけ崩すことはあり得ない。
鶴屋百貨店がいちばんの懸念しているのは、現在News館や東館にリーシングしているセレクト系のブランドや「東急ハンズ」をアミュプラザ熊本に引き抜かれることだ。現に青柳社長はアミュプラザのテナントには「東急ハンズのような大型専門店を入れたい」と、答えている。とすれば、鶴屋東館にある同店は「1フロアしかないので、小さ過ぎて効率が悪いから撤退する」とハンズ側が考える可能性は十分ある。つまり、鶴屋があえて自店のメーンターゲットとは違うTGCの冠スポンサーになったのは、セレクトショップや東急ハンズが引き抜かれた場合に空いてしまうスペースをTGCに出展するるガールズ系ブランドで埋めるための布石ではないか。
これについて、地元ショップのバイヤーは「(鶴屋百貨店は)自分たちで商品を仕入れているわけではないしね。今あるブランドに出て行かれる危機感から、(TGCに)カネを出すことで、ショーに出ているブランドに恩を売りたいんじゃないの」と、慮る。また、別の小売店オーナーは、「地方百貨店はますます厳しくなるから。ある程度、(TGCに登場するブランドで)ヤングも狙っていかないと持たないでしょ」と、冷静に分析する。
熊本のアパレル関係者は総じて鶴屋百貨店が置かれている厳しい現状から、見返りを期待してのスポンサードとの見方が支配的だ。まあ、いくら鶴屋の久我社長がTGCに協力する熊本商工会議所の会頭と言えども、冠スポンサーになることを独断で決めたとは考えにくい。むしろ、百貨店経営者という立場から「自店を存続させていく戦略の一環で」と考えた方が、一連の経緯すべてに説明がつく。
少なくとも、今年はイベントが開催されることはなくなった。 TGCのような客寄せ興行は、チケット収入も制作費の重要な原資となる。延期されることでチケット収入やスポンサー料がカットされるのに、払い戻しや各プロモーションなどの費用はかかる。W TOKYOと結んだ契約上、イベント延期に関わる諸経費をどこから捻出するのか。また、それらに自治体が拠出した補助金がどこまで使われるのか。きちんと情報公開するように県や市議会が求めるべきではないか。延期でもその裏側でいろんな利権が蠢く構図は変わらないのだから。
発表内容は以下の通りである。
「2020年4月25日(土)にグランメッセ熊本にて開催予定の『Tsuruya presents TGC KUMAMOTO 2020 by TOKYO GIRLS COLLECTION』つきまして、新型コロナウイルス感染症による感染拡大につき、東京ガールズコレクション実行委員会と共催であるTGC熊本推進委員会と協議を重ねた結果、開催を延期することを決定いたしました。来春の開催を目指しTGC熊本推進委員会と協議を進め、決定次第公式サイトにて発表いたします」。内容は実にあっさりした事務的なものだった。
政府の専門家会議が3月19日に下したのは、「大規模イベントについては感染リスクに対応できないなら、中止をしてもらう必要がある」だった。だが、これはあくまで「要請」で、法的な強制力がなく、「感染リスクに対応できれば、開催可能」とも解釈できるため、政府の可否判断は「イベントの主催者に委ねる」だった。ただ、専門家会議が挙げた注意事項では、イベント会場では「手洗いする場の確保」、「手で触れる場所の消毒」などの徹底。「入場者数を絞り」、「互いに一定の距離を保つ」など密集しないようにする必要性も強調。「声援などで大声を出すことを避け」、「屋内の場合は適切に換気する」べきだとした。
つまり、 TGCのようなイベントはこうした注意事項の厳守を前提にすれば、開催は不可能になる。それ以上にTGCを企画制作するW TOKYOは、イベントの大義に「地方創生」というスローガンを掲げて自治体の熊本市や県の全面支援を取り付け、自治体側もTGC KUMAMOTOを熊本地震からの創造的復興に位置付けていた。しかし、政府が大規模イベントの自粛要請を掲げ、民間がそれに協力する姿勢を示す中で、市や県が税金から補助金を拠出し堂々と共催や後援として名を連ねる以上、強行開催に舵を切ることは許されない。
また、報道はされていないが、芸能プロダクションやモデル事務所は、新型コロナウイルス禍ではイベントへのタレント派遣に難色を示したはずだ。万一、タレントらが会場で感染した場合の損害や休業についての、自治体が主催者側に名を連ねている以上、補償を請求されるリスクがあった。今回、冠スポンサーとなった鶴屋百貨店では、久我彰登社長がTGCに協力する熊本商工会議所の会頭を務める立場で、かなり苦悩したのではないかと思われる。それに加えてイベントをスポンサードする地元企業にとっても、万一感染者を出してしまうと、イメージダウンは避けられない。利害関係者の間では課題や懸念が渦巻いていたのだ。
一応、公式HPの発表では「主催の東京ガールズコレクション実行委員会と共催のTGC熊本推進委員会と協議を重ねた結果」となっている。しかし、どちらとも任意の団体で、万が一の法的責任は取れない。やはり、最終的には政府がコロナ特措法で示した「都道府県知事」が政治決断するしか選択はなかった。本来ならもっと早く結論を出すべきだが、何せ熊本県知事選挙が重なっていた。現職の蒲島知事が選挙戦よりも公務を優先する中で、選挙結果が出てから、最速の決断(3月22日投開票から遅れること3日後)だったと思われる。
延期でスポンサーもスライドか?
決定内容は中止ではなく、「来年の春に延期」だった。これが何を意味するのか。W TOKYOは熊本開催が決定した2018年の記者会見で、「(TGCは)最低でも3回は開催したい」と、語っていた。つまり、当初から3年スパンの連続開催を考えていたのであれば、2021年も開催する予定だったと受け取れる。であれば、今年の開催分は延期ではなく、「中止」という意味になるのではないか。まあ、その分、3回目が2022年にズレるということになるわけだが。
事実上は中止なのにそうではなく、延期と呼び方に拘ったのはなぜか。まず関係者に来年の協力を求める狙いがあると見られる。今年は共催が熊本市やTGC熊本推進委員会、後援が熊本県、協力が熊本経済同友会や熊本商工会議所、熊本市中心商店街等連合協議会と、錚々たる顔ぶれだ。自治体や経済団体は公共イベントに補助金を拠出する上で、3年くらいなら支援してもいいが、それ以上にわたるのなら「事業化しろ」と言うのが一般的。だから、主催者側としてはあくまで延期にして、資金的な継続支援を確実に取り付けたかったのだ。
熊本のような地方都市では、民間だけで大規模イベントを開催するのが難しいのは、わかりきっている。イベントを3回程度継続するには、3回とも自治体や経済団体に支援してもらわないと、開催自体が危うくなる。さらに冠スポンサーとなっていた鶴屋百貨店、支援する地元企業スポンサーに対しても延期にすることで、そのままスポンサード権をスライドさせるように配慮したと思う。鶴屋百貨店や地元企業にとっては中止ではないから、また来年のスポンサー効果に期待が持てる。これも大きな要因だ。
別の角度から見ると、来年春にはJR熊本駅に「JRくまもとシティ」が開業する。そこには商業施設部分で「アミュプラザ熊本」の入居が決まっている。2011年、同じJR九州の駅ビルJR博多シティが開業した時は、核店舗の一つを占める百貨店の「博多阪急」がTGCと同じファッションイベントの「福岡アジアコレクション(FACo)」に全面協力した。同店がヤング向け売場「HAKATA SISTERS」で展開するブランドをショーに出演したモデルやタレントらが着て、プロモーションしたのである。
当然、W TOKYOが来年のTGC KUMAMOTOでJR九州やアミュプラザ熊本を冠スポンサーに想定していることも考えられる。当初からその計画で動いていたとすれば、2回目に鶴屋百貨店、3回目にJR九州ということで、スポンサー権販売の不文律にも反しない。そこまで深く考えていなくても、制作側にとってファッションイベントで安定した収益を上げるには、ビッグスポンサーを確保しておくことが不可欠になる。
アミュプラザ熊本は熊本駅ビルの商業施設なので、入居するのは外部のショップになる。JR九州が直接商品を販売するわけではないから、TGCにどこまで衣装協力できるかは未知数だ。ただ、冠スポンサーは別物で、JR九州としても新駅ビルやブランドをアピールするのにTGCは格好の機会となる(ブランドショップに衣装提供を求めれば、イベント出展はできないことはない)。その辺の調整が来年の開催に向けての唯一の課題ではないかと思われる。
熊本駅ビルにテナントを奪われる危機感
一方、鶴屋百貨店としては、JR熊本駅ビルの動向はいちばん気になるところ。開発計画が発表された当初、地元メディアでは「百貨店が誘致される」なんて憶測情報が飛び交っていた。これは中心商業地と離れているJR名古屋駅から類推してのことだと思われる。JR東海が名古屋駅ビルには百貨店の伊勢丹を誘致し、栄などの中心商業地と上手く棲み分けられているため、似たようなエリア構造の熊本に当てはめたものだ。
しかし、名古屋と熊本では、人口や所得があまりに違い過ぎる。人口は名古屋市:2,328,091人(2020年2月1日)、熊本市:739,431人(同)、平均所得は名古屋市民:400万1454円(2018年)、熊本市民:320万8312円(同)。しかも、こうした市場規模から、熊本ではこれまで「伊勢丹」や「阪神」など数々の百貨店が閉店に追い込まれてきた。百貨店側からも「何を自惚れているのか」「経験から何を学んだのか」と突っ込まれそうだ。
JR九州もそんな市場性をちゃんと検証しており、青柳俊彦社長は地元メディアの取材に対し、「アミュプラザをつくることで進めている」と断言した。そもそも、アミュプラザは小倉から長崎、鹿児島、博多、大分までの駅ビルで開業し、この秋には宮崎駅にもオープンする。運営のフォーマットができ上がっているのに、しんがりの熊本駅だけ崩すことはあり得ない。
鶴屋百貨店がいちばんの懸念しているのは、現在News館や東館にリーシングしているセレクト系のブランドや「東急ハンズ」をアミュプラザ熊本に引き抜かれることだ。現に青柳社長はアミュプラザのテナントには「東急ハンズのような大型専門店を入れたい」と、答えている。とすれば、鶴屋東館にある同店は「1フロアしかないので、小さ過ぎて効率が悪いから撤退する」とハンズ側が考える可能性は十分ある。つまり、鶴屋があえて自店のメーンターゲットとは違うTGCの冠スポンサーになったのは、セレクトショップや東急ハンズが引き抜かれた場合に空いてしまうスペースをTGCに出展するるガールズ系ブランドで埋めるための布石ではないか。
これについて、地元ショップのバイヤーは「(鶴屋百貨店は)自分たちで商品を仕入れているわけではないしね。今あるブランドに出て行かれる危機感から、(TGCに)カネを出すことで、ショーに出ているブランドに恩を売りたいんじゃないの」と、慮る。また、別の小売店オーナーは、「地方百貨店はますます厳しくなるから。ある程度、(TGCに登場するブランドで)ヤングも狙っていかないと持たないでしょ」と、冷静に分析する。
熊本のアパレル関係者は総じて鶴屋百貨店が置かれている厳しい現状から、見返りを期待してのスポンサードとの見方が支配的だ。まあ、いくら鶴屋の久我社長がTGCに協力する熊本商工会議所の会頭と言えども、冠スポンサーになることを独断で決めたとは考えにくい。むしろ、百貨店経営者という立場から「自店を存続させていく戦略の一環で」と考えた方が、一連の経緯すべてに説明がつく。
少なくとも、今年はイベントが開催されることはなくなった。 TGCのような客寄せ興行は、チケット収入も制作費の重要な原資となる。延期されることでチケット収入やスポンサー料がカットされるのに、払い戻しや各プロモーションなどの費用はかかる。W TOKYOと結んだ契約上、イベント延期に関わる諸経費をどこから捻出するのか。また、それらに自治体が拠出した補助金がどこまで使われるのか。きちんと情報公開するように県や市議会が求めるべきではないか。延期でもその裏側でいろんな利権が蠢く構図は変わらないのだから。