HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

地方にみる伸び代。

2020-04-15 04:21:00 | Weblog
 例年、年度末には新店がオープンする。懇意にするメーカーさんや流通小売り各社からプレスプレビューへの参加要請があるが、あまり広くはない店内に関係者が集えば、新型コロナウイルスの感染リスクが高まるし、パーティまで開催すると濃厚接触でクラスター感染の怖れもある。だからだろううか、今年はリリースのみ配布したところがほとんどだった。企業側も感染拡大を危惧して、取材依頼を「自粛」したのではないかと思う。

 まあ、インターネットが発達した今日では、企業広報もメディア報道よりもお客さんのSNSの方が効果的と感じ始めている。だから、プレスプレビューも顧客や近隣住民対象の内覧会と同時に行うところが多くなった。こちらとしてもリリースを見ての取材より、店づくりからMD、販売スタイルまでをお客さんがどう感じて買い物しているのか。そちらをチェックした方が勉強になるし、リアルな状況をルポに書けるので好都合だ。

 この春は新店を一律に見て回る状況ではなかったが、緊急事態宣言が出される前にチェックしたいところはいくつかあった。結局、自粛圧力が高まる中で、筆者が住む福岡市の感染者が増え始めたため、都心部の新店は避けて郊外店をソーシャル・ディスタンスで取材するしかなかった。その一つが福岡の「九州リースサービス」が開発し、4月2日にグランドオープンしたNSC(ネイバーフッドショッピングセンター)の「アヴァンモール菊陽」だ。

 九州でSCと言えば、イオンモールやゆめタウンが思い浮かぶが、これらは厳密にはRSC(リージョナルショッピングセンター)になる。郊外の広大な敷地を開発した4万㎡以上の店舗を有する施設で、スーパーや大型専門店など2つの核店舗を配置して、それらをモールでつなぐ。そこでは中小の専門店やシネコン、家電専門店などをリーシングし、何千台もの駐車場を完備して、半径8km〜25km程度を商圏に設定する。

 ただ、そうした施設では莫大な投資と運営ノウハウを必要とする。そのため、三井不動産やイオンモールなどの大手デベロッパーではなければ、開発は難しい。逆にそこまで大規模な物件ではないが、遊休地のままでは収益を生まないから、オーナーが開発を望むこともある。こうしたケースで、小規模事業者が乗り出すのがNSCだ。


リース会社が手がけるSC開発






 アヴァンモール菊陽は敷地面積2万4927㎡に、イオングループのマックスバリュ九州が展開するDS(ディスカウントストア)「ザ・ビッグ」、「TSUTAYA BOOK STORE&JINS」の複合業態、「ファッションセンターサンキ」、子供服の「西松屋」を誘致したまさにNSC。ザ・ビッグこそ居抜き以外では初めての新築出店だが、他はどれも既存店があり、取材のポイントとなる「初もの」ではない。SCとしては珍しくも何ともないのに、筆者がわざわざ福岡から車を飛ばして出かけたのは、他にも目的があったからだ。

 一つは、取引先を通じてしか知らない九州リースサービスが最近はどんな事業に積極的か。それを直に見てみたかったからだ。リース会社と言えば、単に機械などの動産を取引先企業に代わって販売会社から購入し、賃貸して収益を上げるイメージだが、同社はそれだけに止まらない。

 業者と共同で展開するマンション事業もその一つ。博多駅前4丁目で持ち上がった200戸のマンション開発計画では、業者とSPC(特定目的会社)を設立し、後に利益を折半する方式を採用した。また、太陽光発電事業にも参入し、こちらでもSPCを設立してメガソーラーを運営している。芝浦グループホールディングスとのソーラー事業では、月々の売電収入を得ながら、時期を見て事業そのものを売却して利益を得るなど、新たなモデルを確立した。

 一方で、九州リースサービスは、企業再生にも乗り出している。1999年、新潟のSC「上越ウイング」を手がけたネオリードの子会社「オービル」が地元の福南開発と共同で開発したSC「セキアヒルズ」。コンセプトは山間(熊本県南関町)にある滞在型リゾートだったが、開業景気が終わると集客は落ち込み、経営不安が常態化した。同社はここを5年の歳月をかけて再生し、経営権を売却して収益を上げた。今や事業は多岐にわたり、不動産リート、共同事業がビジネスの軸になっている。

 その意味で、アヴァンモール菊陽の敷地は、すぐ近くに本社を置く阿蘇製薬の関連会社「アソインターナショナル」や隣接するHCの「ハンズマン」が地権者だ。九州リースサービスとしては、遊休不動産を活用して商業開発し、地権者に対し利回りと節税を提案する。当然、同社としてもデベロッパーとしてのノウハウが蓄積されるし、人口が増えている郊外、特に菊陽町のような新興市場では、どんな業態が求められるかの試金石にもなる。

 同SCから西寄り700mには、2月末で閉店したGMSの「イオン菊陽店」があった。2005年、SCのゆめタウン光の森が開業した時にチラッと見た記憶しかないので、GMSでは捉えきれなかったお客や閉店後のフォローが行き届くのかを確かめたかった。これが二つ目の目的だ。西松屋やサンキはイオンの衣料品より集客力をもつだろうし、TSUTAYAやJINSがあることで、最低限の書籍や文具、雑貨、眼鏡はゆめタウンまで行かなくても購入できる。

 ただ、ザ・ビッグについては、売上げ伸長や顧客化は厳しいという印象を受けた。この一帯には「ドンキホーテ」「HIヒロセ」「コスモスドラッグ」「ダイレックス」があり、食料品から日用品、医薬品までの業態が豊富にラインナップしている。いくらDSとは言え、品揃えはイオンのPBを含めて限られており、業務用食材もアイテム数が圧倒的に少ない。同店はイオン菊陽店があった場所からは東に700mほど離れ、同店を利用していた高齢者が徒歩で買い物に出かけるには、少し距離がある。かと言ってマイカー客は買い回りが可能だから、他店にも立ち寄る。そう考えると、競争力をもつまでにはいかないと思う。


JR九州が消極的な鉄道事業



 三つ目の目的は、イオン菊陽店の西200mにあるJR豊肥本線三里木駅とその周辺を確認するためだ。先月の熊本県知事選で再選された蒲島郁夫知事がここから阿蘇熊本空港にアクセス鉄道「熊本空港線」を引く計画を選挙公約に掲げていた。上場企業JR九州のステークホルダーとしては、同社がその計画にどこまで本腰を入れて取り組むのか。ロケーションを見ながら、自分なりにシミュレーションしてみたかったからだ。

 三里木駅はローカル線らしいこじんまりとした駅舎で、駅前はロータリーになっている。100mほど東には竹迫踏切があり、空港方面に向かう県道辛川鹿本線が交差している。
単線の豊肥本線と片側一車線の旧国道57号線は並行に走り、駅前の道路沿いには住宅や店舗がぎっしり立ち並んでいる。素人の見立てではあるが、三里木駅から空港方面に鉄道を分岐させるには、まず駅から旧57号線を高架で横切り、住宅や店舗に立ち退いてもらって更地に敷設していくか。もう一つは竹迫踏切から線路を直角に曲げて道路沿いに軌道を作るか。どちらにしても農地など用地買収が容易になところ以外は、県道辛川鹿本線などの道路を高架にして鉄道を建設するしかないと思う。

 蒲島知事は熊本空港線について選挙前には、国に求める概算要求を380億円と見積もり、「整備費の3分の1をJR九州が負担する」と、語っていた。しかし、JR九州側はあくまで豊肥本線の増収分から負担するというもので、負担額が総整備費の3分の1なるという保証はどこにもない。まして、380億円程度で鉄道が完成するかどうかもわからない。通常ならアクセス鉄道の運営会社は、自治体と民間企業がリスクを分散する「第三セクター」にするはずだが、JR九州は新規の鉄道事業には消極的で、出資をしないのは端から黒字にはならないと見ているからだ。仮に莫大な投資をするなら、われわれが株主総会で追及しなければならない。





 菊陽町には、熊本県内の企業で売上げ第1位「ソニーセミコンダクタ」(年商5322億円、2018年度)があり、大東建託の賃貸未来研究所が実施した「街の住みここちランキング2019全国版」(https://www.kentaku.co.jp/sumicoco/all/)でも、76位という結果を得ている。因に第1位は筆者が住む福岡市中央区だったが、菊陽町も熊本県では合志市(70位)、熊本市中央区(74位、東京都世田谷区と同位)に次ぐ3番目で、全国的にもそれだけ生活しやすい街という評価だ。今では熊本地震の爪痕も癒えたようで、人口増加に伴い不動産事業者や流通小売り各社が次々と進出するのも頷ける。



 
 もっとも、菊陽町には大型のパチンコ店が何軒もあり、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される4月初めの平日でも、多くのお客を集めていた。町とその周辺には県内企業で売上げ第2位の東京エレクトロン(合志市、2470億円、2018年度)や富士フィルム、ホンダ(大津市)などの工場があり、日勤の従業員らが勤務を終えた後にパチンコを楽しむ構図ができ上がっているようだ。

 熊本県内の企業売上げトップ10には、パチンコ企業4社(4位岩下兄弟917億円、5位司観光開発639億円、8位SB Good Industry421億円、10位二十一世紀グループ332億円、すべて2018年度)が名を連ねている。三密を回避することが新型コロナウイルスの感染防止につながると叫ばれても、菊陽町のパチンコ店は多くのお客を集めて疫病禍などどこ吹く風。電子部品の工場などからもたらされる固定資産税で町の財政が潤い、工場の労働者らがパチンコにカネを落とすことで、経済が回るという側面が垣間見える。

 こうしたことを総合すれば、今後の新店や新業態の展開は、東京渋谷や福岡天神のような再開発事業が行われているエリアか、地方でも経済成長に伸び代があるところに二分されると思う。アパレルについて見ると、大都市の都心では国内外の高級ブランドやセレクトショップが顔を並べ、郊外SCではユニクロや無印良品、ZARAなどの大手がほぼ出揃い、ロードサイドではしまむらや西松屋に次ぐものが求められていく。

 ただ、都市、地方に限らず、経済成長に余力を残すエリアでは、既存店に飽き足りないお客もいるわけで、それをいかに掘り起こして市場にするか。それがこれからの新店や新業態開発のカギになると言えそうだ。
コメント
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