南国九州を襲った寒波、降雪もそれほどの影響はなく、次第に春めいていきそうである。
いよいよ4月21日には、「博多マルイ」がJR博多駅前に開業する日本郵便の商業ビル、KITTE博多の核テナントとして出店。満を持しての福岡進出である。
マルイの小売事業を担う(株)丸井では、以前から政令指定都市には出店する戦略を掲げており、人口152万人を擁する福岡市は、改革当初から候補地となっていたと聞く。
ただ、都市型の商業ビルは、JR博多シティやパルコに見られるようにテナントの顔ぶれが違うだけで、ターゲットやテイストの同質化は否めない。
冬のセールにおける「店頭」を見ても、知名度のあるブランドショップから末端のセレクトショップまで、未だにかなりの在庫を残しており、苦戦は免れなかった印象を受ける。
おそらく若者を中心にしたファッション離れは九州でも例外ではないし、ECという目に見えない競争相手も出現している。
だからからではないだろうが、マルイは福岡進出に際し、グループの総力を結集させて入念な開業計画を策定している。
店舗形態は都市型ながらもSC型マルイのモデル店とし、幅広い年代をターゲットにして雑貨や飲食の売場を増やすなど、お客と一体になった店づくりを想定するもの。それは「ハードを作り、テナントを集め、ハイ、オープン」では決してないということである。
2013年の福岡進出を決定すると、14年5月には博多区の奈良屋町に開業準備室を構え、早速、地元住民から意見や要望を聞き入れるためにオピニオンリーダーを募集した。
8月からは「店づくり企画会議」をスタートさせ、インターネット上には「コミュニティサイト」を開設し、地域との情報共有を図るなど、地元密着にも余念がない。
もっとも、企画会議を通じた店づくりは、2007年開店の有楽町マルイから始動している。有楽町は同じ東京都内でも渋谷や新宿とは客層が違うため、お客は商業施設に対して何を期待しているのかを見極めるためだった。
そこでは商品面からハードまでのすべてで、マルイ自身が気づいていなかったことが判明したというから、MDの幅を広げ、アパレル以外も扱うライフスタイル型ストアにシフトするきっかけになったのは間違いない。
店づくり会議は、14年8月から月1~2回のペースで、週末の金・土に開催されている。店舗のコンセプトから始まり、各フロアのゾーニング、イベント企画や商品面の最終詰めなどまで、段階的なステップを踏んでいる。
参加人数も回を重ねる毎に増えているというから、すでに延べ3000名以上に及ぶと思われる。会議は開業を前に佳境を迎えているようで、お客からはかなり突っ込んだ内容の意見や要望も出始めているという。何とか売れる商品を集積しようと、商品部やテナントリーシングの担当者が奔走する姿が目に浮かんでくる。
一方、JR博多シティや博多阪急のブランドやテナントの顔ぶれ、天神とのバッティングは、お客にとっても学習効果となっているのは言うまでもない。なおさら、老弱男女を問わず、ボリュームゾーンのお客ほどファッション離れが著しい。
それを考えると、博多マルイを利用するであろうお客の側も、マルイに対しアパレルを中心としたブランド誘致に強い関心は示してはいないようで、イベント開催への要望や意見の方が多数を占めているとの話が伝わってくる。
マルイ側としてもイベントは、集客の目玉でもあることでスペースを割き、賑わいを創造する上でも積極的に企画していく考えを持っているようだ。
1月半ば、筆者のところにも博多マルイのプレスリリースが届けられた。それによると、飲食・食物販の充実が目立つ一方、アパレルは3割にとどまる。これまで通り、店づくり企画会議でのお客の要望が随所に生かされたかたちだろう。
ただ、マルイでは完成した店舗がゴールとの認識はない。最初から100%応えられるということは考えておらず、開業後も企画会議は継続して開催していくようである。
テナントとの定期借家契約の期間は、おそらくケースバイケースであるだろう。これをベースに時流やマーケットの変化に応じて、単期にテナントを入れ替えながらSCとしての最適化を目指していく戦略だと思われる。
福岡では過去、大型の商業施設が開業する度に、地元メディアは「第◯次、流通戦争」と定義付けて報道してきた。
ところが、2011年のJR博多シティの開業からは、天神と博多駅の競合、都市部と郊外の競争といった単純な図式では語れなくなっている。
例えば、博多阪急は開業から4年、ずっと増収増益を続けている。かといって、天神や郊外がその分のパイを奪われ、売上げを下げたかと言えば、決してそんなことはないと思う。
確かに国内外の高級ブランドやデザイナーズファッションは天神に集まる傾向が強いが、そうしたハンディを持ちながらも博多駅は独自でマーケットを広げている。インバウンド消費などを追い風にしつつ、天神との相乗効果を発揮して集客しているのだ。
マルイはこうした福岡がもつポテンシャル、市場拡張力を背景に満を持して登場する。現時点で集客目標や売上げ規模は公表していないが、既存店の同規模の100億円くらいは売上げることができると踏んでいるのではないか。
テナントは135区画中、50区画以上が「九州初出店」。しかし、メディアがこぞって取り上げるこの言葉こそお客にとっては、すでに陳腐化していると思う。
新たにオープンする店名やブランドは違っても、中身や商品のテイストがほとんど似通っていることをすでに認識しているからだ。それほど、市場は成熟しているのである。
プレスリリースであごだしの「だし処 兵四郎」や文具店の「スティロプリュス」がクローズアップされているところを見ると、服以外の商品の方にお客の期待は高いようだ。
実際に東京でも、この手の業態が受けていることを考えると、福岡でも同じマーケットが形成されるつつあるのは否定できない。
店づくり企画会議でお客の要望を聞き入れ、商品部のスタッフがテナント誘致に尽力した結果かもしれないが、お客が求めるトレンド商品は東京でも福岡でも大して変わらないということがよくわかる。
従来の商業施設ではMDやテナント配置はあくまで自前で決定してきた。マルイがマーケットインというか、ローカルニーズに即した点は、これまでの商業施設とは違う点ではないか。
それをどこまで売上げに結びつけられるかは、クレジットカードを含めマルイの営業戦略が問われるところである。
店舗面積(1万5000m2)やテナントの顔ぶれ、商品政策のどれをとっても、マルイが既存の商業施設と真っ向勝負しようという感じには見えない。
それはある意味、弱腰や無欲と捉えられなくもないが、独立独歩を貫く姿勢としては評価できる。
むしろ、最激戦区の東京でしのぎを削った経験は伊達ではないし、クレジットカードのノウハウでは一日の長があるだけに、既存店には脅威に映るはずだ。
では、マルイが及ぼす影響は何だろうか。考えられるは博多駅市場のボリューム化。商品のグレードや価格帯で、一番販売量が多いゾーンになっていく懸念である。
博多駅は1日平均の乗降客数(2014年)は、約20万人。そこで生まれる小売り市場は、通勤通学客による日常の買い物、旅行客による御土産や飲食が主体となる。
アミュプラザ博多や博多阪急のアパレルは、少子高齢の影響を徐々に受けて行くと思われるし、東急ハンズは雑貨主体で収益規模は大きくない。
あとは飲食やデパ地下くらいである。外国人旅行客のインバウンド消費といっても、先行きは不透明で過度な期待は禁物だ。
こうした状況下に博多マルイが加わると、博多駅市場では飲食、食品とデイリーユースの衣料・雑貨などがより際立って売れていくと思われる。
高感度なファッションや希少なブランドは、ネットを含め博多駅以外に求めていく傾向が強くなるからだ。
こうした予測は博多阪急が開業する時にも関係者から聞かれ、地元専門店の中にも博多駅のボリューム化を見越し、天神に店舗を移したところもある。
ボリューム化は確実に収益が上がるわけだから、決してデメリットではない。しかし、博多駅以外への売上げの持ち出しを意識し、それを差し止めるために各社の商品政策にブレが生じると、かつての博多井筒屋のように戦略を見失ってしまう。
どちらにしても、低姿勢のマルイがどこまで博多駅とそれ以外のエリアから集客できるか。
今回の降雪のようにJRが麻痺すると、博多駅地区にある商業施設への影響は免れない。市場はボリューム化すれば、なおさらそうなるだろう。
「雪が降れば、マルイが儲かる」。商品や価格以外の面でも、マルイの企画力が問われることは間違いなさそうだ。
いよいよ4月21日には、「博多マルイ」がJR博多駅前に開業する日本郵便の商業ビル、KITTE博多の核テナントとして出店。満を持しての福岡進出である。
マルイの小売事業を担う(株)丸井では、以前から政令指定都市には出店する戦略を掲げており、人口152万人を擁する福岡市は、改革当初から候補地となっていたと聞く。
ただ、都市型の商業ビルは、JR博多シティやパルコに見られるようにテナントの顔ぶれが違うだけで、ターゲットやテイストの同質化は否めない。
冬のセールにおける「店頭」を見ても、知名度のあるブランドショップから末端のセレクトショップまで、未だにかなりの在庫を残しており、苦戦は免れなかった印象を受ける。
おそらく若者を中心にしたファッション離れは九州でも例外ではないし、ECという目に見えない競争相手も出現している。
だからからではないだろうが、マルイは福岡進出に際し、グループの総力を結集させて入念な開業計画を策定している。
店舗形態は都市型ながらもSC型マルイのモデル店とし、幅広い年代をターゲットにして雑貨や飲食の売場を増やすなど、お客と一体になった店づくりを想定するもの。それは「ハードを作り、テナントを集め、ハイ、オープン」では決してないということである。
2013年の福岡進出を決定すると、14年5月には博多区の奈良屋町に開業準備室を構え、早速、地元住民から意見や要望を聞き入れるためにオピニオンリーダーを募集した。
8月からは「店づくり企画会議」をスタートさせ、インターネット上には「コミュニティサイト」を開設し、地域との情報共有を図るなど、地元密着にも余念がない。
もっとも、企画会議を通じた店づくりは、2007年開店の有楽町マルイから始動している。有楽町は同じ東京都内でも渋谷や新宿とは客層が違うため、お客は商業施設に対して何を期待しているのかを見極めるためだった。
そこでは商品面からハードまでのすべてで、マルイ自身が気づいていなかったことが判明したというから、MDの幅を広げ、アパレル以外も扱うライフスタイル型ストアにシフトするきっかけになったのは間違いない。
店づくり会議は、14年8月から月1~2回のペースで、週末の金・土に開催されている。店舗のコンセプトから始まり、各フロアのゾーニング、イベント企画や商品面の最終詰めなどまで、段階的なステップを踏んでいる。
参加人数も回を重ねる毎に増えているというから、すでに延べ3000名以上に及ぶと思われる。会議は開業を前に佳境を迎えているようで、お客からはかなり突っ込んだ内容の意見や要望も出始めているという。何とか売れる商品を集積しようと、商品部やテナントリーシングの担当者が奔走する姿が目に浮かんでくる。
一方、JR博多シティや博多阪急のブランドやテナントの顔ぶれ、天神とのバッティングは、お客にとっても学習効果となっているのは言うまでもない。なおさら、老弱男女を問わず、ボリュームゾーンのお客ほどファッション離れが著しい。
それを考えると、博多マルイを利用するであろうお客の側も、マルイに対しアパレルを中心としたブランド誘致に強い関心は示してはいないようで、イベント開催への要望や意見の方が多数を占めているとの話が伝わってくる。
マルイ側としてもイベントは、集客の目玉でもあることでスペースを割き、賑わいを創造する上でも積極的に企画していく考えを持っているようだ。
1月半ば、筆者のところにも博多マルイのプレスリリースが届けられた。それによると、飲食・食物販の充実が目立つ一方、アパレルは3割にとどまる。これまで通り、店づくり企画会議でのお客の要望が随所に生かされたかたちだろう。
ただ、マルイでは完成した店舗がゴールとの認識はない。最初から100%応えられるということは考えておらず、開業後も企画会議は継続して開催していくようである。
テナントとの定期借家契約の期間は、おそらくケースバイケースであるだろう。これをベースに時流やマーケットの変化に応じて、単期にテナントを入れ替えながらSCとしての最適化を目指していく戦略だと思われる。
福岡では過去、大型の商業施設が開業する度に、地元メディアは「第◯次、流通戦争」と定義付けて報道してきた。
ところが、2011年のJR博多シティの開業からは、天神と博多駅の競合、都市部と郊外の競争といった単純な図式では語れなくなっている。
例えば、博多阪急は開業から4年、ずっと増収増益を続けている。かといって、天神や郊外がその分のパイを奪われ、売上げを下げたかと言えば、決してそんなことはないと思う。
確かに国内外の高級ブランドやデザイナーズファッションは天神に集まる傾向が強いが、そうしたハンディを持ちながらも博多駅は独自でマーケットを広げている。インバウンド消費などを追い風にしつつ、天神との相乗効果を発揮して集客しているのだ。
マルイはこうした福岡がもつポテンシャル、市場拡張力を背景に満を持して登場する。現時点で集客目標や売上げ規模は公表していないが、既存店の同規模の100億円くらいは売上げることができると踏んでいるのではないか。
テナントは135区画中、50区画以上が「九州初出店」。しかし、メディアがこぞって取り上げるこの言葉こそお客にとっては、すでに陳腐化していると思う。
新たにオープンする店名やブランドは違っても、中身や商品のテイストがほとんど似通っていることをすでに認識しているからだ。それほど、市場は成熟しているのである。
プレスリリースであごだしの「だし処 兵四郎」や文具店の「スティロプリュス」がクローズアップされているところを見ると、服以外の商品の方にお客の期待は高いようだ。
実際に東京でも、この手の業態が受けていることを考えると、福岡でも同じマーケットが形成されるつつあるのは否定できない。
店づくり企画会議でお客の要望を聞き入れ、商品部のスタッフがテナント誘致に尽力した結果かもしれないが、お客が求めるトレンド商品は東京でも福岡でも大して変わらないということがよくわかる。
従来の商業施設ではMDやテナント配置はあくまで自前で決定してきた。マルイがマーケットインというか、ローカルニーズに即した点は、これまでの商業施設とは違う点ではないか。
それをどこまで売上げに結びつけられるかは、クレジットカードを含めマルイの営業戦略が問われるところである。
店舗面積(1万5000m2)やテナントの顔ぶれ、商品政策のどれをとっても、マルイが既存の商業施設と真っ向勝負しようという感じには見えない。
それはある意味、弱腰や無欲と捉えられなくもないが、独立独歩を貫く姿勢としては評価できる。
むしろ、最激戦区の東京でしのぎを削った経験は伊達ではないし、クレジットカードのノウハウでは一日の長があるだけに、既存店には脅威に映るはずだ。
では、マルイが及ぼす影響は何だろうか。考えられるは博多駅市場のボリューム化。商品のグレードや価格帯で、一番販売量が多いゾーンになっていく懸念である。
博多駅は1日平均の乗降客数(2014年)は、約20万人。そこで生まれる小売り市場は、通勤通学客による日常の買い物、旅行客による御土産や飲食が主体となる。
アミュプラザ博多や博多阪急のアパレルは、少子高齢の影響を徐々に受けて行くと思われるし、東急ハンズは雑貨主体で収益規模は大きくない。
あとは飲食やデパ地下くらいである。外国人旅行客のインバウンド消費といっても、先行きは不透明で過度な期待は禁物だ。
こうした状況下に博多マルイが加わると、博多駅市場では飲食、食品とデイリーユースの衣料・雑貨などがより際立って売れていくと思われる。
高感度なファッションや希少なブランドは、ネットを含め博多駅以外に求めていく傾向が強くなるからだ。
こうした予測は博多阪急が開業する時にも関係者から聞かれ、地元専門店の中にも博多駅のボリューム化を見越し、天神に店舗を移したところもある。
ボリューム化は確実に収益が上がるわけだから、決してデメリットではない。しかし、博多駅以外への売上げの持ち出しを意識し、それを差し止めるために各社の商品政策にブレが生じると、かつての博多井筒屋のように戦略を見失ってしまう。
どちらにしても、低姿勢のマルイがどこまで博多駅とそれ以外のエリアから集客できるか。
今回の降雪のようにJRが麻痺すると、博多駅地区にある商業施設への影響は免れない。市場はボリューム化すれば、なおさらそうなるだろう。
「雪が降れば、マルイが儲かる」。商品や価格以外の面でも、マルイの企画力が問われることは間違いなさそうだ。