HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

先祖返りのイベント。

2019-02-13 05:07:37 | Weblog
 先祖返りのような企画というか、実効性を考えると、これしかなかったようだ。毎年3月に福岡の都心部で実施されているファッションウィーク福岡が、今年から「ファッションマンス福岡アジア(期間/2月2日〜3月10日)」にリニューアルされ、開催中である。(https://f-month.com/)

 名称がウィークからマンスに変わり、期間が週間から月間に伸びただけと思えるが、当初から企画そのものが場当たり的で、イベントが効果を発揮しているとは言い難い。だから、名称が変わったところで、どれほどのパフォーマンスを生み出すかは懐疑的だ。

 ファッションウィーク福岡は、例年3月下旬に開催されてきた。期間は、RKB毎日放送が自社事業として同月末の日曜日に開催する福岡アジアコレクションをファイナルとして、その前1週間程度である。それが今年は1カ月以上、前倒ししたことになる。理由はいろいろ考えられるが、タイトルにはっきり「アジア」が付いたことからも、インバウンドを目的にしたのは間違いない。

 イベントを主催する福岡アジアファッション拠点推進会議も、共催し公的支援する福岡市の経済観光文化局も、公金を使ってイベントを仕掛ける以上、「集客」という具体的な成果が上がらなければ、是非を問われてしまう。また、スポンサーとして支援し、自らもイベントに参加する百貨店や商業施設は、「販促」につなげたい。ならば、2月5日から一月ほど続く春節休暇で福岡を訪れる中国人観光客に照準を当てない手はない。他には韓国からやって来る若者、台湾やタイなどからのツアー客にも期待できる。

 観光客は来福すれば、少なくとも食事や買い物などで地元民より確実にカネを落としてくれる。このイベントを目的に来福する観光客はまずいないだろうが、経済観光文化局はお得意の「経済波及効果は◯◯◯◯円に及んだ」との指標も出し易くなる。推進会議もタイトルにアジアを付けることで、担当部局に割り振られるクリエイティブ関連産業振興予算の枠に「観光関連部分」を上乗せして引っ張れる思惑もあるだろう。

 一応、推進会議はイベント期間中に置ける外国人の集客目標を4000人(地元および日本人は50,000人で、計54,000人)と設定している。経済観光文化局としては、期間中には黙っていても観光客が天神や博多駅を訪れるので、成果数値が大幅にアップするかもしれないと、期待が持てるわけだ。

 ただ、イベントの実効性に関係なく派手なことをやろうとすれば、カネがかかるのは言うまでもない。当初から拠出されてきた事業の総予算は700万円程度。これで催しやステージから情報発信のツール制作までを賄うにはとても足りないし、事業が継続されれば予算が少しずつ削られるのは常だ。そこでスポンサーを確保しなければならなくなる。

 ファッションウィーク福岡は過去6回開催され、7回目の開催に当たっては事業者選定で、5年ぶりに企画コンペが実施された。この条件には「イベントのための協賛獲得」が明記されている。これまでも予算が足りないためにスポンサー支援を受けてきたが、今回は「事業者になりたければ、メディアの支配力だけでなく、スポンサーを確保しろ」と、推進会議側が端から業者を選定する条件にはっきり加えたのである。

 業者選定のプレゼンでは、「協賛打診先候補」や「協賛金の目標値」まで提示することが義務づけられた。コンペに参加するのは代理店が主体だろうが、彼らが考える企画や宣伝広報の内容はそれほど大差ない。タレントを呼んで講演やトークショーなどを開いたり、マス媒体やSNSを使ってイベントを告知したり、子飼いのデザイン会社にポスターなどを制作させるのが関の山だ。そこで、推進会議は協賛企業をいかに確保できるか。代理店の「スポンサー営業力」をコンペで判断することにしたのである。

 では、業者側がコンペに勝つにはどうするか。一般論としては「多額の協賛金を得る」ことが絶対条件になる。そのためには協賛企業の頭数を増やすか、イベント期間を延長して1社当たりの協賛金を増額するか。前者では福岡に拠点を構える企業を中心にスポンサーを増やすことは不可能ではない。代理店とすれば、天神や博多駅にある企業に仕事で出入りしている=アカウントがあるなら、営業はかけやすい。

 後者ではイベント期間を延長できれば、集客人員は増やせ販促にも期待できるので、協賛額が増えてもスポンサーの了解は得やすいだろう。結果的にこの折衷案に落ち着き、業者が選定された模様だ。スポンサーには昨年同様に天神や博多駅などに店舗を構える百貨店や商業施設が名を連ねている。



 新たに加わったスポンサーはPayPay。これは日本人のスマホ決済はもとより、アリペイからの決済にも対応しているので中国人旅行者の利用を促し、集客数にカウントする狙いもあるだろう。他ではイオンモール福岡(昨年はイオンで協賛)、アクロス商店街、木の葉モール橋本、ノース天神、ミーナ天神、ベイサイドプレイス、博多川端商店街、そして11月に開業したマークイズ福岡ももちだ。

 推進会議は天神と博多駅の連携など、イベントの対象エリアを限定するニュアンスを表明している。その割に関連性が乏しい郊外店のイオンモール福岡や木の葉モール橋本(デベロッパーの福岡地所は昨年のキャナルシティ博多から鞍替えか)がスポンサーに付くのも矛盾するが、カネを出してくれるなら拒まずということだろうか。

 スポンサーで目を引くのは、ロゴマークを一新した「NASSE」だ。1993年に熊本で生まれたフリーペーパーで、発行元の「サンマーク」は97年の上福後に「メサージュ」など媒体を増やし、北九州を加えた3地区に営業エリアを拡大した。福岡のフリーペーパーでは、2014年に西広の「エルフ」が廃刊。そこで編集長を務めた長澤由起子氏が創業した「ガリア」も同年に経営破綻。その長澤氏と袂を分かった村山由香里氏の「アヴァンティ」も19年1月、福岡地裁より破産手続開始の決定を受けている。

 地元フリーパーパーの相次ぐ終焉は、インターネットやスマートフォンの普及により、紙媒体の宣伝効果が薄れたことがある。ただ、既存三誌を駆逐して熊本発祥のサンマークがのし上がったのは、営業力の凄さとも言える。それがデジタル媒体としても台頭しつつあり、ファッションイベントを堂々とスポンサードするまでに成長したのだから、全く皮肉な話である。

 イベントの中身は福岡市の中心部、天神や博多駅などに店舗展開する百貨店や商業施設、メディアなどが独自で行う催しがほとんど。統一企画として東京から呼ぶタレント頼みの催事は、ギャラなどの費用がかかるためか、影を潜めている。しかも、アパレルだけではどうしても集客には限界があるし、今は食や美容・コスメの方が力をもっているから、これらを加えて何となく体裁を整えただけにしか見えない。

 まあ、地元色を出さないと「福岡」も「アジア」も意味をなさないだろう。しかし、業者側が英知を結集して企画を考えたわけではないから、地元民からすれば「何かやっている」という程度に過ぎない。後はイベントのタイトルロゴを作り、下請けのWeb制作会社にポータルサイトをデザインさせたくらいだから、楽なものである。

 そもそも「ファッションマンス福岡は1990年代初頭に開催されていた」と、地元アパレル関係者から聞いたことがある。この時、市側の意向は「ファッションを通じて集客・動員、販促に結びつける企画を実施する」だったという。しかし、 当時はインターネットなど存在しない時代。バーチャル(ネット通販)に対するリアル(実店舗)の危機感など微塵も無く、百貨店や商業施設はそれぞれが競合状態(天神の大手小売業で結成する都心界は存在していたが)で、ファッションマンスという事業への理解には温度差があり、意識を統一させることは難しかったようだ。

 結局、事業を丸投げされた代理店が行ったのは、百貨店や商業施設が個別に実施するイベントを地元紙に出稿した15段広告で告知した程度。所詮、代理店にとってうま味があるのは、マス媒体を使うことしかなかったわけだ。ファッションマンス福岡は数年で事業を終了。その後、市側は地元タウン誌シティ情報福岡を発行するプランニング秀巧社に企画プロデュースを依頼し、「ファッションムーブメントFUKUOKA」として再登場させている。

 市側はこのイベントで「集客・動員」につなげる企画として、プランニング秀巧社のプロデューサーに「ファッションショーを実施してはどうか」と打診している。だが、経費やノウハウの面から実現せず、実施されたのはストリートファッショングランプリやフリーマーケット、識者によるセミナー、プロと素人によるフロアショーで、現在と大して変わらない。ファッション系の振興事業は時代が変わっても、何ら進化していないのがよくわかる。

 まあ、唯一の変化と言えば、全国的に東京ガールズコレクションのような客寄せイベントが登場したことだろうか。これならパッケージ化されているので、冠を付け大義さえ作れば、どこの地方自治体でも開催は可能だ。それに加え福岡では2009年に発足した福岡アジアファッション拠点推進会議がある。あれから10年、当初の目標である「地場産業振興」や「人材育成」に繋がったのかと言えば、そんなことはない。結局、愚にもつかない事業が次々とゾンビのごとく復活し、イベントが先祖帰りしたに過ぎないのだ。

 まして、事業者となる代理店とて、ファッション産業については全くの無知というか、音痴である。昨年までの一連の事業を見れば所詮、代理店と芸能界、一部の利害関係者が結託して仕掛けたものについて、高島宗一郎福岡市長を中心に自治体が彼らの頭を撫で撫でしているに過ぎない。それで福岡市はファッション関連業界の活性化し生産性が上がって税収が増え、福岡商工会議所は若い組合員が増えるとでも思っているのか。

 今回のファッションマンス福岡アジアも、ほくそ笑んでいるのは代理店と利害関係者ではないのか。ファッションビジネスに携わる人間にとっては、それがモロ見えなのだから、底の浅さを露呈したようなものだ。その意味で、「福岡市は行政、メディア、商工団体(都心界を含む)がマヌケな面を揃える究極の談合行政だな」って、草の根的で地元振興事業を考えている他都市から一笑に付されそうである。

 重要なことは、ファッションビジネス関連する多くの英知を結集し統合していく事業を企画し展開していくことで、それはメディアや代理店なんかにできることではない。地元ファッションに携わる人間が相互に刺激し合って集積を高め、内部からのエネルギーを発揮しなければ、アジアへの情報発信や市場拡大はもちろん、質を高めることなどできるわけがないのである。

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