HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

粗さは目をつぶる。

2024-04-03 06:56:55 | Weblog
 すっかり定番の企画と化したグローバルSPAと著名ブランドのコラボレーション。さる3月にはファーストリテイリング(以下、ファストリ)傘下のGUが「アンダーカバー」との協業商品を発売した。2021年の春夏と秋冬にも協業しており、今回で3回目となった。

 GUは2023年9月から事業のグローバル化に着手した。ニューヨークにも商品の開発拠点を設け、世界市場で売れる商品作りを本格化させた。ブランドのクリエイティブディレクションにデザインスタジオのYAR(ヤール)を起用し、イメージキャストやモデルも刷新して、グローバル市場で通用するコミュニケーションを強化している。

 また、GUはファッション性を追求している。そのため、デザインに注力するが、品質や実用性、低価格を両立させた上で、グローバルマーケットを攻略する狙いをもつ。積極化するブランドコラボはその手段の一つだと見ていいだろう。近年では2023年11月に大人の女性向けブランド「ビューティフルピープル」と、2回目の協業を果たしている。



 さらに2023年12月にはニューヨークの直営店で、市内在住のビジュアルアーティスト兼アニメーションディレクター兼アートディレクターのファンタジスタ歌麿呂氏とも協業ラインを発売した。そして、今年はアンダーカバーと3度目の協業である。世界市場を攻略するには捕捉できていない客層へのアプローチが不可欠だ。矢継ぎのコラボ企画は、多面的なターゲット射程、企画ベクトルの多様化がカギになるとの判断ではないか。



 また、ニューヨークに商品開発拠点を設けているとはいえ、そこで立案される企画が日本やアジアの市場に通用するかと言えば、必ずしもそうとは言えない。ファッション性を追うほど、好みはお客のエージやマインドでも分かれる=ファッションはローカルだからだ。例えば、大人の女性の嗜好は、その層に支持されるブランドの方が熟知している。ビューティフルピープルとの協業はそうした層の好みを知ることで、デザインセンスなど企画ノウハウを蓄積する狙いもあると見て取れる。

 では、アンダーカバー側が協業する目的は何か。ファストリは「世界で売れることを目的にGUでヒットしているアイテムや素材に、アンダーカバーのデザインを組み合わせた」という。アンダーカバーは1994年秋冬から東京コレクションに参加し、2003年春夏にパリコレクションにデビューを果たした。ただ、ブランド自身のビジネスはパリコレを通じて世界にクリエーションを発信しつつ、主に日本のマーケットで稼ぐスタンスだ。



 そこで経営基盤をさらに安定させるために取った手法がコラボレーションだったのではないか。すでに2012年には「UU」という名称で、ユニクロと協業している。この企画では、ファミリー(メンズ、ウィメンズ、キッズ、ベビー)向けの商品を新しい家族の洋服というテーマを、アンダーカバーのクリエーションで再現した。12年の春夏コレクションに限ると、メンズ43型、ウィメンズ34型、キッズ23型、ベビー5型の合計105型の展開が計画されている。

 当時、アンダーカバーは日本で人気を博していたこともあり、ユニクロの売場を見てみると発売直後に完売したアイテムもかなりあった。アンダーカバーのコアなファン層が店舗に押しかけて購入したと思われる。一方で、コラボ商品は色柄、形ともモードブランドらしくユニークなものが多く価格も安かったため、ベーシックでプレーンなユニクロのレギュラー商品では飽き足らないファミリー層までを、惹きつけたのではないか。

 ユニクロとしては、アンダーカバーとのコラボ企画は成功したと手応えを感じたはず。それがさらにコアなファンを開拓するためにファッション性を追求するGUとの協業に引き継がれたと思われる。これまでに取り込めていなかった客層へのアプローチというより、トレンドファッションに敏感な層を積極的に捕捉していく狙いと見られる。日本で売れるためには日本のデザイナーとコラボした方がいい。これもローカル発想と言える。

 協業第3弾のウェアはXSから3XLまで7サイズ、全21型のユニセックス展開。ベーシックなアイテムでも、着る人の好みでカスタマイズできるように工夫を凝らしている。プレスプレビューでお披露目された「モッズコート」は、価格が7990円(税込)と手頃。ウエストとその下部はジップで切り替えられており、着脱が可能。寒い日にはコート、暖かい日はブルゾンとしても着用できるなど、デザインと実用性が共存する。

 この手法は、GUでヒットアイテムとなったスーパーワイドカーゴパンツを下敷きにした「ヘリクルーパンツ」(税込3990円)や「ライダーズジャケット」(税込7990円)にも踏襲されている。ヘリクルーパンツは膝下部分が着脱可能で、ショートパンツになる。また、ライダーズジャケットは袖を外してベストとしても着ることができる。これらは気温が高い日の着用も想定した企画、仕様と言える。


フェイクレザーの始末に問題が

 ユニクロは、2023年秋冬シーズンが暖冬で日本や中国大陸では9、10月の防寒衣料の売れ行きが鈍化した。ファストリは2024年の年頭、23年秋冬商戦の苦戦から、実際の気温推移にそった品揃えにシフトし、気温に関係なく売れるニュース性の高い商品も増やすと発表した。

 GUはユニクロに比べるとデザイン性の自由度が高く、その分柔軟な発想で商品企画を立案できる。今回のコラボ商品は早速、こうした方向性を実践し市場の反応を確かめようとしているのではないかと、見るのは早計だろうか。

 ファストリは近い将来、グループ全体で売上高10兆円達成を目標とする。そのためには世界戦略においてマス市場を攻略していく上で、GUをユニクロに次ぐ第2の柱にしなければならない。ベーシックなユニクロに対し、ファッション性を追求するGU。ただ、GUのものづくりやコスト構造では、どこも優れるという全天候型は難しいだろう。ユニクロとの違いを明確にしていくにはどこに注力し、どこをブラッシュアップしていくかだ。



 GUが「お洒落はしたいが、それほどお金はかけたくない」というマス層を捉えるには、どこにコストをかけどこを削るかで価格を決めなければならない。つまり、著名、人気ブランドとの協業では、自社企画の限界を補いつつブランドのニュアンス、ディテールでのデザインセンスを重視=契約条件に落とし込みながら、素資材などのコストはできるだけ抑えて買いやすい価格を実現していくことになる。

 もちろん、コラボ契約するブランドによっても、落とし所の条件は違ってくるはずだ。ただ、アンダーカバーとの協業では、らしさ追求というか、デザイン性を重視するがあまりに、品質の面はかなり削ぎ落とされてされているように感じる。それはある意味、仕方ない面もあるが、アイテムによってはブランド側の世界観がローコスト仕様によって多少おざなりになっているのではと感じる。

 この点はすでに2012年にユニクロと協業したUUでも見られた。この時はフェイクレザーでヘムなどのステッチ仕様、始末でかなり粗雑さが目立った。フェイクレザーは基布にポリ塩化ビニル・ポリウレタン等の合成樹脂を貼り付けているため、本革のような柔軟な伸びがあるわけではない。そのため、工場ではレザーの見返し部分の縫い合わせが難しかったのか、本縫いが従分でなく折り畳みが剥れ上がっている箇所があった。

 UUでは作り上げたサンプルに対し、アンダーカバーのデザイナーとユニクロの企画担当が膝を突き合わせて、「どこまでのレベルなら売場に出せるか」検討を重ねたはずだ。当然、前出のような問題点は生産管理はもちろん、ファストリの幹部が気づかないわけはない。それでも、本生産にゴーを出したということは、コストダウンの面から縫製仕様では目を瞑った部分もあったのだろう。それでも完売したのだから、御の字と見たのか。

 GU・アンダーカバーのコラボ第3弾でも、フェイクレザーのライダーズジャケットが投入されている。UUからすでに12年が経っており、こうした点が改善されたのか確認してみたかったが、発売直後に完売したようでできなかった。公式サイトには「GU × UNDERCOVERコレクションについて、店舗・オンラインストアともご好評につき品薄となっております」とお詫びの旨が告知されている。



 アンダーカバー側もコラボレーションには前向きのようだから、今後も契約が継続されれば経営がより安定するのは間違いないだろう。そのため、コラボ商品についてはコスト圧縮による品質の削ぎ落としは十分許容しているのではないか。本家ブランドへもそれほど影響はないとの判断なのだろう。ファストリとしても自社企画の限界を埋めるには、他の著名ブランドとの協業には積極的に取り組んでいくと思われる。

 欧米のラグジュアリーブランドでは、ライセンス生産を認めるところはあまり見られない。むしろ、LVMHやケリングといったコングロマリットは、株式を上場して市場から資金を調達できるため、ブランド戦略では商品を製造・直販し、商標も一括管理している。ライセンス契約に代わるものとして低価格を売り物にするグローバルSPAの力を借り、手に入れやすい価格の商品を売り出すコラボレーションを採用するようになったと考えられる。

 低価格のグローバルSPAでは、ギャップのオールドネイビー、ザラのベルシュカが日本から撤退した。残存者利益を得たいGUとしては、残るH&Mや再上陸したForever 21の商品企画やコスト構造、それに伴う縫製仕様と相対的にやや上回る程度で十分との腹づもりなのだろうか。最後は世界の市場がどう判断するかになるのだが、SDGsが叫ばれる中で売れれば粗雑でもいいという考えは少し違うような気もするが。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 上質は裏切らない。 | トップ | ファストが古着を売る。 »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事