HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

高すぎる攻守の壁。

2023-08-23 06:37:41 | Weblog
 少し前だったか、日本経済新聞が「パルコ再生へ 悩むJフロント」という見出しで記事を書いていた。概要はこうだ。J・フロントリテイリングでは非百貨店分野の売上高営業利益率が2023年2月期で6.6%と18年同期の10%から低下したという。主な要因が「パルコの不振で、地方では要となる若者を取り込めてない」という。



 2023年3~5月期の既存店売上高は前年同期比20.4%増だったが、それでも新型コロナウィルス禍前の19年同期比ではまだ1割低い。また、JR東日本系列の駅ビル、ルミネやアトレとの競争も激しい。17施設のうち首都圏以外は7施設あるが、名古屋や広島、静岡、松本の23年2月期の売上高は20年2月期比で23~20%減と苦戦する。首都圏でも吉祥寺は同期比29.2%減、新所沢は24.8%減、池袋は21.3%減となっている。



 開業から46年を経過した津田沼は今年2月に閉館し、同40年の新所沢と同39年の松本はそれぞれ24年2月末、25年2月末をもって営業を終える。池袋(開業54年)に次いで古い吉祥寺も、開業から43年が経過している。施設の経過年数は全店平均で29年にも及び、施設が古いことから有名ブランドは出店を敬遠しているという。比較的新しいルミネやアトレの方にブランドが集まることが、パルコの不振に輪をかけているのだ。



 筆者が住む福岡市の福岡パルコは2010年の開業だが、百貨店の岩田屋本店跡に居抜きで進出したので、建物はかなり古い(ターミナル百貨店としての開業は1936年)。2014年には隣に新館を建設したが、本館自体は老朽化が著しく、2階から上は天井高の低さから売場の圧迫感は否めない。健全なショッピング環境とは言えないため、パルコは市が進める再開発事業「天神ビッグバン」の優遇措置を受けるため、計画概要を提出。26年にいったん閉館した後、周辺の新天町などと一緒に建て替え工事を進め、30年の開業を目指す。



 九州で他に営業していたのは、大分パルコと熊本パルコだ。意外にもパルコが九州で最初に進出したのが大分である。1974年、当時の国鉄大分駅に近い旧日銀大分支店跡地に開業した「西友大分店」が77年に地下1階だけ残してパルコに業態転換。92年2月期には売上高が約116億円に達したが、2010年2月期には約40億円と3分の1近くまで下落していた。さらにビルの賃貸借契約が11年4月に満了を迎えることや福岡パルコが開業したことで、11年1月をもって閉館。大分からは完全撤退した。



 熊本パルコは1986年、中心市街地の下通商店街入口脇にあった長崎屋跡に開業。91年度には売上高が約97億円に上ったが、郊外SCの進出やネット通販の拡大などで、2018年度の売上高は約40億円と半分以下まで落ち込んだ。こちらもビルの賃貸借契約が満了を迎えることで、20年2月末で閉館した。跡地には23年4月に星野リゾート運営のホテルなどからなる複合ビル「OMO5熊本」が開業。パルコは新業態の「HUB@(ハブアット)」として出店したが、営業スペースはわずか3フロアにとどまっている。

 日経新聞の記事で、J・フロントリテイリングの若林取締役はパルコについてこうを意気込む。「今後も地域に即した対応を加速。パルコが大半のSC事業の利益は、まず2024年2月期に70億円(前期は53億円)にする。27年2月期までに100億円の大台に乗せる」。ただ、地方のパルコでは閉館や営業面積の縮小もあり、既存施設をテコ入れしたとしても若者を取り込んで業績を伸ばせる素地は見えづらい。

 そもそも、今の若者がパルコという都市型SCにどこまで傾倒しているのだろうか。東京・渋谷を訪れた時に「渋谷パルコ」の情報発信やテナントの顔ぶれに触れ、先端ファッションや渋谷カルチャーを実感するくらいではないか。逆に地方ではアパレルの実店舗が少なくても、ネット通販がカバーしており、古着などもうまく着こなしていけば、特に不便さは感じない。加えて地方では若者人口が減少していることで、パルコに限らず都市型SCは大人までに照準を当てたテナント構成にせざるを得ないのが実情だ。


地方都市における都市型SC運営の難しさ



 苦戦するパルコの地方店を見ると、建て替えるにしてもリニューアルするにしても、物販テナント主体で地下1階、地上8階を埋めるのは、もはや不可能に近いだろう。熊本のハブアットがそれを象徴する。同エリアでは既存百貨店と、2017年、19年、21年に新規開業した「ココサ」「サクラマチ熊本」「アミュプラザくまもと」の商業フロアがアパレルを含む有名ブランドをほぼ押さえている。熊本の市場規模を考えるとブランド2店体制は難しく、バッティングの問題もある。パルコと言えどハブアットにリーシングできなかったのが実際のところだ。

 また、地元の医療関係者によると、心斎橋パルコのように医療フロアも検討され、開業医にテナント募集が呼びかけられたようだが、これも実現していない。結果的にアパレルや医療サービスではなく、ターゲットを若者から中高年にまで広げるためにベーカリーやカフェ、レストラン、アクセサリー、生活雑貨(ダイソー新業態のスタンダード・プロダクツ)、リサイクル&修理サービスによる構成に落ち着いた。

 日経新聞によると、ハブアットは開業以降も「店長はおかず、パルコ社員が東京から遠隔で店内をチェックし、定期的な出張対応にとどめるなど効率性も高めている」という。裏を返せば、3フロアほどの営業面積、飲食や雑貨、サービスのテナントで稼げる歩率家賃では、開発投資の回収はもちろん、施設管理・運営のランニングコストを賄うのは容易ではないと、J・フロントリテイリング側が判断した結果ではないか。同じエリアのアミュプラザくまもとが今年から独自採用のプロパー社員をテナントの販売促進に当たらせているのとは対照的だ。

 大分パルコのケースはどうか。2011年の閉館当時、パルコに近いJR大分駅のリニューアル計画(JRおおいたシティの開発)が持ち上がっており、他駅同様に駅ビルのアミュプラザが進出するのは目に見えていた。パルコの閉館でテナントの約4割は他に移転し、パルコと同じ目抜き通りに面する「大分フォーラス(イオンモール傘下)」に移転した店舗もあるが、同施設も17年2月に閉館。新しい施設に再出店したいテナントは、「アミュプラザおおいた」が開業する15年4月まで待つことになったが、新規出店を含めて受け皿になったのは間違いない。



 一方、大分パルコの跡地は、大分市内の総合病院が2015年度中に新築移転する計画で土地を取得したが、建設費の高騰や現病院の増改築による借入金の増加で、移転を断念。その後、「三井不動産リアルティ」が窓口となり、複数の候補からコンペにより決める方針となった。ところが、駅前、角地という超優良物件にも関わらず民間事業者の買い手はつかなかった。結局、大分市が土地を買い上げて整備し、19年8月末に「祝祭の広場」に生まれ変わった。市側はイベントスペースとして定期的に貸し出し、市の中心部に客足を増やす目論見と思われる。

 熊本と大分のケースを見ると、パルコ地方店の再生がいかに難しいかがよくわかる。もはやパルコと言えど、地方では若者がそのイメージやブランド価値を認知しておらず、新規で取り込むのは容易ではないと思われる。というか、若者は都市型SCのハード、ソフトに関係なく、テナントの顔ぶれや品揃えで来館、購入を判断する傾向が強い。気に入った商品やサービスがあるなら、別にパルコでなくてもいいのだ。

 また、地方に進出する有名ブランドには限りがあり、ルミネやアトレ、アミュプラザなどとのテナント争奪も激しい。ただ、こうした駅ビルですらコロナ禍による消費行動の変化を踏まえ、アパレルやバッグ、服飾雑貨などの物販を抑えつつ、「学び」「集い」を売りにするテナントを増やしていく戦略にシフトしようとしている。それはパルコでも同じだろうから、どこまでテナントを発掘してリーシングできるかがカギになる。

 奇しくも、熊本、大分の両パルコとも年間売上高が40億円まで下がったことで閉館した。それが地方店の損益分岐点とするなら、それを超えなければ生き残れないことになる。若者人口の減少でマーケットが縮小する地方では、ハブアットのように営業面積を縮小して生き残りを模索するのか。それでも、当面は地産地消などを切り口にした飲食やサービス主体のテナント構成で、若者から大人までを集客していくしかない。地方店が立地するエリアにそうした戦略に合致するソースや市場規模がないなら、閉館、撤退はやむ無しだろう。

 ただ、地方店を小型業態に転換するにしても、J・フロントリテイリングが目標とする2024年2月期に70億円、27年2月期までに100億円というSC事業の利益達成は可能なのか。数値目標をクリアするには施設の数を増やし、ITを駆使してコストダウンを図り、効率的な運営を心がけなければならない。さらにテナントの出店条件も月単位や小スペースでの賃借を可能にするなどハードルを下げることも必要だろう。

 上野パルコヤ、ハブアット、それに続く新業態やビジネスモデルを確立できるのか。パルコにとっては攻めるにも、守るにも高い壁が立ちはだかる。これから地方の需要を発掘するには、いろんな難敵が待ち受けていると言えそうだ。

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