HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

勝因は素材にあり。

2020-01-22 07:06:58 | Weblog
 商業界オンラインのルポ「ファッションPLUS」は、主要衣料品チェーンの月間売上げと概要をまとめている。それによると、秋冬衣料は暖冬の影響で一昨年に続き、売れ行きが芳しくない。

 ただ、中には売れているブランドや企画が奏功したアイテムもある。それが「無印良品」だ。昨年10月は消費増税がスタートし、真夏日、台風や大雨と天候不順が続いて、衣料品には逆風だったにも関わらず、運営会社の良品計画は、既存店の衣料部門が対前年比で105.4%の増収。客数も114.8%と伸ばしている。 http://shogyokai.jp/articles/-/2200

 消費増税に対する施策は、店頭のポスターやPOPで「無印良品は10月1日以降も価格を変えません。これからも消費税込み価格」と、アピール。ルポにはそれが効いたかどうかの記述はないが、増税の影響をできる限り抑える「期間限定価格」を10月8日までと同15日までの2回に渡って導入している。

 商品では、レディスの「新彊綿フランネルシャツワンピース」(税込4990円)、同「縦横ストレッチチノイージーセミフレアスカート」(税込4990円)、メンズの「新彊綿フランネルスタンドカラーシャツ」(税込2990円)が天候不順が重なっても堅調に売れ、増収に貢献した。

 一方、他社は軒並み、昨対割れだ。 ユニクロ(既存店+EC)の売上高は98.1%、アダストリア(既存店)は同94.8%、ユナイテッドアローズ(既存店+ネット通販)は同91.9%、しまむら(既存店)は同91.3%。ライトオンにいたっては、既存店の売上げが82.7%と、減収が著しい。

 この傾向は冬物のセールが始まった12月も変わっていない。 http://shogyokai.jp/articles/-/2382 良品計画は既存店の売上高が108.4%だったのに対し、ユナイテッドアローズ98.0%、アダストリア95.9%、ユニクロ94.7%、しまむら91.0%、ライトオン79.9%と、すべて減収。ルポも書いているが、良品計画の一人勝ちだ。


 12月は、「ヤク入りウールワイドリブ編みモックネック」(税込み4990円 期間限定割引)や「首のチクチクをおさえた天竺洗えるタートルネックセーター」(税込み2990円 期間限定割引)といったニットアイテムが牽引している。いかにも無印良品らしい企画で、素材から着心地の良さが伝わって来る。

 では、なぜこのような差が生じたのか。ルポには書かれていないので、筆者なりに分析してみたい。まず良品計画の増収要因は、商品企画の巧さがある。一般に秋物は8月下旬から展開され、レディスでは第一弾に薄手のウールニットや合繊のブラウス、羽織ものなどがラインナップする。だが、9月どころか10月でも真夏日が続き、さらに台風の襲来でジメジメと蒸し暑い日が続けば、消費者はこのようなアイテムを購入する気にはならない。

 その点、無印良品は秋口には布帛のシャツワンピースやスタンドカラーシャツを打ち出した。素材に用いた「コットンフランネル」は柔らかで肌触りが良く、汗をかいても吸収してくれ、洗濯も利く。残暑や湿度、そして急な気温低下のすべてに順応できる素材なのだ。12月に売れたウールワイドリブ編みモックネック、洗えるタートルネックセーターも、肌寒くなると体温調整には都合がよく、柔らかなヤクや綿天竺は肌触りも群を抜から、消費者がつい着たくなるのだ。

 売れているアイテム、注目の商品を生み出せたのは、過去の天候不順から学習し、暖冬傾向に合致するよう素材から企画(布帛のフランネルとか)した成果だと思う。もちろん、自然素材にこだわる無印良品らしさが30代以上の消費者に受け入れられるのは当然だし、アイテムに共通する色・柄は大人のデイリーカジュアルに相応しく、シャツワンピースやスタンドカラーと適度なファッション性も打ち出している。

 無印良品は西武セゾングループの一員として誕生したこともあり、立ち上げからコピーライターの小池一子氏が参画。NBが乱立する中で、ブランドコンセプトをいかに打ち出すかは至上命題だった。だから、まずは日常で使ってもらうために商品特性首のチクチクをおさえたとか)を消費者にわかりやすく伝える必要があった。以来、商品名そのものにどれも特長が盛り込まれている。広告コピーの原点でもあり、それが消費者を惹き付けてやまないのだ。

 それに対し、他社はどうだろう。ユニクロも無印良品っぽい表記をしているが、商品そのものは秋口に裏毛のトレーナーやパーカー、ウール合繊やポリエステル混のパンツ、デザイナーコラボのフリースと、相変わらずワンパターン。これだけ気温が高ければ、素材的に10月に動くとは考えにくい。ヒートテックはなおさらだ。これはライトオンに言えること。いくらブランドのパーカーやトレーナーと言えど、残暑が続けば形無しだっただと思う。

 アダストリアもグローバルワークの店頭では10月にはトレーナーやニットが並んでいたが、やはり動きは鈍かった。他にもボアやコーデュロイ、裏毛といった素材も、11月が暖冬だったことで苦戦したはずだ。ユナイテッドアローズにいたっては、フラノやダブルクロスは完全冬素材だから、かなり厳しかったのではないか。数字が取れるアイテムを投入したい意図はわかるが、これだけ暖冬が続いているのだから、体温調整が利くコットン系、綿の混紡率を上げたアイテムを増やさないと、お客のつなぎ止めは容易ではないと思う。

 数年前に「ワッフルの長袖ニット」がヒットした。これは残暑厳しい秋口を意識したもので風通しの良さが受けたわけだが、編み目が粗い分、冷気を通しやすい。だから、冬場のコーディネートではアウターの重ね着が必要になる。無印良品が企画したフランネルなら細番手糸を密に打ち込むことから、目が詰まっていて風を通しにくい。ウールニットを重ね着したり、インナーにカットソーを合わせたりと自由な組み合わせが楽しめる。 また、綿天竺のカットソーも薄過ぎず厚過ぎないからインナーはもちろん、レギンスになれば冬場のボトムにもいける。

 これらはデイリーカジュアル向けの素材だから、売れたと言うこともできる。ただ、オンシーズンに着てもらえるアイテムを仕掛けないと、数字は取れない。その意味で、コットンフランネルや綿天竺こそ、暖冬が続く気象条件には向く素材だと思う。打ち込みを強くした厚手なら、冬場のジャケットやパンツにもいい。色を明るめにすれば、梅春のシーズンまで引っ張れる。春先の天候不純でも冬素材だから、2%ほどのポリウレタン混で柔らかくすれば、スプリングコート風のジャケットも企画できるのではないか。

 こうした素材、アイテムを営業政策にどう絡めていくか。 無印良品がこの秋冬に一人勝ちしたのは、ターゲットとする客層に合致したアイテムを企画し、確実に販売したこと。だから、冬物偏重の政策を修正すべきとなる。そうすれば、売れなかった場合に12月、1月のセール、クリアランス頼みを緩和できる。オンシーズンアイテムを売ることで、端境期に少しでも数字を伸ばし、期末の値引きや残品ロスを抑えれば、収益は改善するのだ。



 月別の売上げをなるべくフラットするには、一年中通用するアイテムを仕掛けること。それにはメンズ、レディスとも奇を衒った企画より、ニットやカットソー、パンツ、レディスならワンピースや羽織もの(コーディガンなど)に重点を置いた方が消費者にも着回しが利くから、買ってもらえる公算は高い。筆者が知るヨーロッパのメーカーはメンズ向けのロング丈のカーディガンをコットン80%、ウール20%で企画している。ウールオンリーよりもロングシーズンで引っ張れるからだ。

 良品計画は1月10日に発表した通期業績予想で、営業収益4437億円(対前年比8.7%増)、営業利益378億円(同15.5%減)と、増収減益に下方修正した。レポートでは東アジアの一部の国や地域で情勢不安や価格施策の増加により、売上総利益が計画を下回ったとしている。国内事業はアパレル部門の綿フランネルがヒットした他、雑貨ではリュックサックやサコッシュ、食品ではレトルトカレーやバウムが売れており、概ね堅調に推移している。

 ただ、客単価が上半期(2019年3月〜8月)で5.6%、9〜11月で10.8%、12月は12.0%低下。販売管理費は19年2月期は33.1%(うち人件費は11.4%で1.2%増)は上昇(1.3%増)するなど不安要素は拭えない。せっかく「素材」でヒットアイテムを出せたのだから、これをヒントに原価率を上げて質感をもう1、2ランク上げれば、商品はさらに売れて在庫負担は軽くなると思う。それには短サイクルで回していける生産ラインをもつ商社や納入業者と取引すれば、商品にはさらに磨きがかかり、秋冬を不安なく乗り切れるのではないか。秋冬に苦戦した他社にしても良品計画を他山の石として、取り組むべきことは多いと思う。

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