HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

非日常を買いたい。

2021-09-15 06:44:51 | Weblog
 2度のワクチン接種が完了したので、9月に入り外出する機会を増やしている。仕事の打ち合わせや会議はすっかりリモートが定着したが、リサーチや取材では現場や店頭、生身の人間との接触が欠かせない。人やモノに触れることは自らも学習になるのだが、それらから直接受ける刺激は何ものに変えがたい。これで多少鈍っていた感覚が元に戻るかもしれない。

 一方で、この1年は小規模なイベントへの招待もあったが、コロナに感染すると多方面に迷惑がかかるので、すべてお断りしてきた。ワクチン接種を完了したからと言って、ブレークスルー感染があるので油断はできないが、ゼロリスクなど無いのだから緊急事態宣言ルールの範囲内で行動していこうと思う。



 そんな中、知り合いのイラストレーターが参加している「空間芸術プロジェクト
Vol.5 #Green展
」を訪れた。一般社団法人の空間芸術TORAM/ARTDAGが全国のアーチスト作品を集め、シリーズで開催している展覧会だ。通常なら福岡アジア美術館が会場となるが、緊急事態宣言に伴う閉館で急遽、近隣の「美術画廊410Gallery」に変更された。場所は筆者が子供の頃からよく知る博多・上川端通りの川端中央ビルだ。

 今回はタイトルの通り、「緑」をテーマと色彩に用いた作品。話題のヴィーグルをアクリルカラーとパレットナイフで描いたものから、CGによるアブストラクト、起毛したラグへのペインティング、大きめのパーツをモザイク風に組んだ立体アート、画面に金箔を押して部分的に着色したもの等々。アーチストが思い思いに表現した作品が並ぶ。久々にギャラリー巡りができて、しばし非現実の世界、非日常の時空に浸れたのはすごく良かった。

 ギャラリーはアパートの一室を改装したもの。10畳程度のこじんまりとしたスペースでは、緑を自己流に解釈したキュレーションの方がかえって映える。それは古いビルが次々と高層ビルに立て替えられる天神とも無縁ではない。大手不動産業者がビルを管理すると、オフィスや店舗以外のスペースは民間のギャラリーにも利用できる場合があるが、賃料はべらぼうに高い。若手のアーチストやクリエーターにとっては厳しいのだ。

 そこ行くと、天神と10分ほどしか離れていない博多・川端地区は、「冷泉荘」のように古いアパートをリノベーションして、小規模ビジネスの拠点する動きがだいぶ前からあった。川端中央ビルも築50年以上たつと思うが、ギャラリーとして利用できるのは作り手にとっても、鑑賞者にとっても願ったりだ。知り合いとも芸術談義と言えば大袈裟だが、喧騒を感じさせず静かに流れる時間の中で、アートを通じ心地いい会話を楽しむことができた。



 筆者が生まれ育った旧奈良屋校区にも、古いが頑丈な作りの雑居ビルがまだまだ残る。東京で言えば、東神田や東日本橋のようなエリアとでも言おうか。古いビルをリノベーションして、新たな文化創造のエリアしてもいいのではないか。商人の街として発展した博多が天神と棲み分ける一つの手法になるのではないかと思う。


元は落書きだらけのビルが今はバンクシー展

 翌日には、大名で開催されている「バンクシー展〜天才か反逆者か」を覗いた。こちらは厳重なコロナ対策のもと、入場制限の一環からネットで事前予約し、日時指定して鑑賞する手法が導入されていた(当日券も購入可能)。平日の午後にも関わらず若者たちが並んでいたところを見ると、気鋭のアーチスト作品を一目見ておこうということか。



 今回の展示会は、コレクターのコレクションが集結する世界巡回展として開催された。バンクシーの作品はメディア露出も多いので多くが知るところだが、コレクター作品は彼が作品に込める政治的なメッセージや社会風刺を別の角度で触れられる点で貴重だ。アーチストとしてのネームバリュがアップし、オークション価格も高騰しているが、純粋に彼が訴えかけたいのは何かを考えることに価値があると思う。



 主催者側は知っているかどうかはわからないが、展覧会の会場となったUNITED LABは、
元はディズニーランドばりの屋外装飾を施したカラオケボックス。そこがすぐに閉店した後、装飾は剥ぎ取られたものの、何年も手付かずの状態でタギングやグラフィティの温床となっていた。ボランティアが定期的に消去活動を行うも、またすぐに描かれるといういたちごっこで、ようやく数年前に不動産業者がビルごと買収し、外壁をステンレスパネルにした。

 カラオケボックスのスペースにはバーなどが数軒入ったが、若者エリアという場所柄、どこも経営は厳しかったようだ。その後、居抜きの状態で様々な規模のイベントに対応可能なUNITED LABにリニューアルされた。メインエリアはスタンディングで1200名、着席タイプで500席のキャパを誇るため、バンクシー展には打って付けだった。

 かつては似非アーチストの落書きに埋め尽くされ、治安悪化の一歩手前まで行ったビル。不動産業者が大名人気に乗じて民家を買収して開発したことで、結果的に街を汚すことになってしまった。そんな場所で、単なる落書きとは異なるメッセージアートを発表し続けるバンクシーの展覧会。エリア、若者人気、トレンドなどの条件が合致したとは言え、それは実にアイロニーな光景として筆者の目には映る。

 バンクシーの作品は門外漢からすれば落書きかもしれないが、画廊主やキュレーターに評価され多くの鑑賞者を納得させながら、自らはスタジオも持って活動している。一方、タギングやグラフティのような落書きは社会のガス抜きと言ったところで、決して許されるものではない。まして住民とっては迷惑きわまない行為だ。自分らが汚しまくったビル跡で催されたバンクシー展が多くの若者を集めるという皮肉。似非アーチストはそれに何を思うのだろうか。


地方にもD2Cブランドの発信スペースを

 アートではないが、素材やデザイン、製法などの個性で売るD2Cブランドが注目されている。量販品のような販路ではなく、オンライン販売になるのだが、お客としてはやはり現物を見て、試してみたい。東京の百貨店やファッションビルでは、これらの商品をギャラリー感覚で展示販売するが動きが進んでいる。



 9月初め、渋谷の西武百貨店・パーキング館1階にOMO(オンラインとオフラインの融合)型ストア「チューズベース・シブヤ」がオープンした。店頭に並ぶのは、D2Cブランドのサンプルのみ。お客は商品の横にあるQRコードをスマートフォンで読み込むと、Webカタログを閲覧することができる。こうした展開はパルコのような都市型SCが先行していたが、百貨店の西武も渋谷という地の利から、ついに踏み込んだようだ。

 売場では700平方メートルという広いスペースを生かし、取り扱うのはアパレルのほかに雑貨、インテリア、コスメなど50ブランド以上、400アイテム。だが、百貨店特有のPOPパネルやプライスカードはがない、まさにギャラリーのような展開手法だ。西武百貨店側はD2Cメーカーと協業して編集したというが、個性的な商品が並ぶので売場のインパクトは強い。

 カタログでは商品情報はもちろん、作り手の企画や製造にかける思いも確認できる。つまり、百貨店のスタッフが商品の詳細を学習するより、メーカー側がダイレクトにお客にアピールする。拘りがストレートに伝わるのがD2Cブランドの真骨頂だ。店頭とECの在庫情報は完全に連携され、店頭で買えなかった商品はECで購入が可能。注文した商品を店頭で受け取れるバイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア(BOPIS)にも対応するそうだから、日本の百貨店もようやくここまで来たかという感じだ。

 外出する機会を増やしたことで、筆者も百貨店やSCを一通り見て回ったが、福岡のような地方都市ではこれだという新商品はほとんど見当たらない。チューズベース・シブヤのような売場こそ、購入できる商品が限られる地方にも必要ではないか。ポップアップストアのような不定期展開でもいい。イムズやコアなどが建て替わる前にどこかがD2Cブランドを展開してくれないだろうか。でないと、購入動機も生まれない。

 この1年は不要不急の外出・県外移動を控え、生活必需品しか買い物してこなかった。だからこそ、行動規制が緩和されるのなら、非日常の買い物をしたいお客は少なくないと思う。アートはもちろんだが、作り手の拘りが強いD2Cブランドもそうだ。有事であるが故に、お客は非日常の買い物に価値を感じるのではないかと思う。

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