HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

懐古回帰で差別化。

2017-08-02 05:51:38 | Weblog
 衣料品の売り上げ不振は世界的な傾向だ。それに対抗するように昨年は春夏コレクションからニューヨークとロンドンで「シーナウ、バイナウ」が導入された。それもカンフル剤にはなり得ず、今シーズンは通常のコレクションに戻すブランドも出ている。

 ある業界メディアは今秋冬トレンドについて、英国調とマスキュリンが4年ぶりに登場したのを除き、全体的には前シーズンの流れを引き継いだだけと、厳しい見方をする。クリエーター側にすれば思いきったトレンドを仕掛けるにしても、外したときのダメージリスクから無難な路線を行きたいようだ。その気持ちはわからないでもない。

 グローバルSPAが素資材の開発調達から縫製、物流、販売まで完全にシステム化し、潤沢な資金力のもとで世界のマーケットを牽引するようになる中、歴史と伝統の技、積み重ねたブランド価値のみを頼りするメゾンやクリエーターがビジネス面で攻め手を欠くのはしょうがない。

 ただ、個人的には、メゾン側のグローバルSPAに対抗する動きがあるのではないかと、見ている。以下のキーワードがそうだ。

 ◯英国調の素材や柄

 ◯ ブリティッシュ、レトロ、クラシック、トラッド

 ◯多様性

 例えば、英国調素材に代表されるツイード。スコットランド製の太い紡毛糸を毛染めして平織した生地がルーツだ。代表的なハリスツイードやヘリンボーン、ドニゴールやホームスパンなど分厚く丈夫な生地は、ジャケットやコート、スカートに多用され、ブリティッシュトラッド、レトロ(懐古ファッション)の代名詞にもなっている。

 これらに加え、タータンチェックやハウンドツース、グレンチェックといった柄は、生地自体から手間隙をかけて織られている。定番ながら独特な柄や風合いだから製品になった時に存在感を増すのである。いくら素資材の調達と大量生産に長けるグローバルSPAと言えど、ヘリンボーンやドニゴールなどを多用したアイテムはほとんど見当たらない。それだけローコストの大量生産には馴染まないということだろう。

 もっとも、ハリスツイードを使ったアイテムでは、しまむらが靴やバッグなどの雑貨を販売し、100円ショップのダイソーもキーケースや財布といった小物に用いて売り出している。識者の中には「『単にハリスツイードだから』という理由だけで高額な値段をつけていたブランドや、そういう売り方しかできなかった店の商品は軒並み売れにくくなるだろう」「すべての製品はコモディティ化する。衣料品も例外ではない」という意見の方がいらっしゃる。

 確かにしまむらやダイソーのように量販すれば、その背景にある使用生地のコストも下がるし、低価格で販売できなくはないという理屈も成り立つ。しかし、筆者はしまむらやダイソーが使用したハリスツイードは、コムデギャルソンやシップスがジャケットに使用したそれとは、似ても非なるものに見受けられた。

 使用されている紡毛糸の番手は細いものが使われ、ツイードの命である生地の「地厚」が全くない。要はペラペラなのだ。それをごまかすようにブランドの織りネームが付けられている。10cm×12cmほどの財布表面では、中央にこれみよがしの縫い付けだ。その織りネームとて、中国製の安っぽいコピーに付いているようなシロ物に見える。

 一応、堂々と販売されているのだから、悪質なコピーにも生地偽装にも商標違反にも当てはまらないだろう。しかし、一度でも「真性」のハリスツイードで作られたアイテムに袖を通した人間からすれば、「これはどう見ても違うだろう」「ここまで価値を落とさなくてもいいのでは」 という意見ではないかと思う。筆者もしまむらやダイソーが生地ブランドで仕掛けても、それをわかるお客はどれほどいるのかという印象である。

 ハリスツイードの意匠を管理する団体としては、衣料品不振で量産が進まないから、商標ビジネスに活路を見いだそうと動いても不思議ではない。ただ、その真意は「ハリスツイードのコピーに近い単なるコモディティなら良し」「広報活動の一環」という程度のものではないのか。「衣料品に使用するハリスツイードへの影響はそれほどない」という判断がそうさせたのかもしれない。

 そう考えると、メゾン系のブランド、クリエーター系アパレルがグローバルSPAに対抗するには、愚直なやり方であっても素材への原点回帰とクオリティアップを図ることだと思う。ツイードやタータンチェックを用いるブリティッシュトラッドは決して目新しくはないが、世界規模での量産には馴染まない、そうすれば安っぽさは免れないから、差別化や独自性を発揮できるはずだ。その意味で、新しい流れとして英国調の素材や柄が登場したのは、メゾンやクリエーターの声なき「抵抗」ではないのだろうか。

 グローパルSPAは潤沢な資金力と卓越したシステムを背景に、企画アイテムに使用する生地について開発から行っている。とは言っても、でき上がるのは布帛でギャバやフラノ、メルトン、ツイル、ベロアやコーデュロイ、オックスフォードやドビークロス、ローン(プリント)等々(ZARAはジャカード織もあるが)。ニット・カットソーではメリノウール、天竺、リブ等々とだいたい決まってきている。他には合繊のフリースやダウン(ポリエステルの中綿含め)がある程度。レザーやファーにしてもフェイクに過ぎない。

 これらにはウールやコットン、ポリエステル、アクリル、ポリミドやエラスタン琨などの糸が使用されるが、番手が細めで生地のこしはそれほどない。結果として、グローパルSPAが使用する素材は、全体的に梳毛やブロードのような生地、緯編の編み地やメリヤスとなり、付加価値を出すにしても合繊を加えてストレッチ製を出したり、カシミアを混ぜて保温性や質感を上げたり、スラブヤーンや縄編み程度の組織変化でしかない。

 それに対抗するには、ツイードではネップヤーンを使ってコブを出すドニゴールやホームスパン、コーデュロイではシーアイランドコットンを使用したり。ハウンドツースやグレンチェックでも柄のピッチを変えたり。フランス風ならジャカード織りもある。加工ではグラデーション、オパール、フロッキーやエンボスなど、色や風合いの変化を生み出す組織、加工の生地を多用すればいいのだ。生地組成によるアイテムの多様化である。

 当たり前のことだが、生地にいかにコストをかけるかが、グローバルSPAとの差別化の肝になる。メディアも売上げ不振やトレンド不在を報道するのではなく、その辺の違いや差別化をもっとクローズアップしてもいいのではないかと思う。今秋冬には、ブランドショップや百貨店の店頭にこうした生地を使用した柄や色のアイテムが並ぶと、グローバルSPAとは違って新鮮に受け取られるのではないか。マスキュリンが復活しているのは、こうした生地はメンズライクなジャケットやパンツ、ベスト(ジレー)に多く使われるからだ。



 そうしたグローバルSPAの課題を認識して、いち早く手を付けたのか、偶然にもそうなったのか、どちらにしても変化しようとしているのがユニクロだ。すでにメディアでも発表されているが、同ブランドはジョナサン・アンダーソンがクリエイティブ・ディレクターを務める英国デザイナーズブランド「J.W.アンダーソン」とのコラボコレクションを9月22日に発売する。 https://www.uniqlo.com/jwanderson/jp/men/

 アンダーソン自身が今回の服作りにおいて「英国の伝統的スタイルを再解釈し、ひねりを加えたベーシックをつくることだった」と語っている通り、ジル・サンダーやクリストフ・ルメールにはなかった「ドラッド」進出であり、ユニクロが培ったノウハウを生かした新たな挑戦とも言える。サイト公開のアイテムを見ると、デザインのシンプルさは残しつつ、柄や色で英国調やレトロ回帰を訴求している。

 チェック柄を採用したダウンジャケット、フェアアイルのモックネックやボーダーのセーター、ストライプのマフラーなどの柄に見られる「3色以上」の色使いはこれまでのユニクロではあまり記憶がない。それだけ、色で冒険することを躊躇って来たのだろうが、SPAとしての高い能力を持ってしてもフラットな生地・編み地と単色の色使いだけでは、商品開発に限界があることも悟って来た証左ではないのか。

 某コンサルタントは、ユニクロを称して「色おんち」と批評されているが、色は第一印象で好き嫌いがあるだけに量販するには難しい要素・条件になる。しかし、ユニクロが今回のコラボレーションでそれに踏み切ったのは、レトロ回帰の中で模索や挑戦がどこまでできるのかという「試み」でもあると思う。

 メゾンやクリエーターがテキスタイルでグローバルSPAとの差別化を図ろうとすれば、ユニクロはそれを逆手にとって柄や色でチャレンジする。質と量がこうして切磋琢磨していけば、トレンド不在で新鮮味に欠けると酷評されながらも、エネルギッシュで刺激の中から新たな潮流が生まれるかもしれない。今はそれに一縷の望みをかけるしかない。

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