HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

狭域集客でペイする?

2018-08-29 06:20:27 | Weblog
 ヤフオクドーム横のホークスタウンモール跡地で、建設が進められてきた商業施設「マークイズ福岡ももち」が11月に開業されると、発表された。すでにHP(http://www.mec-markis.jp/fukuoka-momochi/)も公開されており、リーシングされたテナント全163店も顔ぶれも明らかになった。



 毎度のことながらメディアが飛びつく、「初もの」についてもご丁寧にサイト上で「新業態9店、県内初出店44店、施設初出店19店」と、告知されている。一般消費者に「業態」という用語は聞き慣れないが、おそらくWebデザイナーがもらったリリースをリライトせずにそのままデザインしたのだと思う。

 それはさておき、マークイズ福岡ももちは、前身のホークスタウンモール失敗の教訓を生かし、都市型湾岸商業施設として、どこまで市場開拓のポテンシャルを有するのか。今回は考えてみたい。

 もともとこの地一帯は福岡市が博多湾を埋め立て、1989年に開催した「アジア太平洋博覧会」の跡地利用について、ダイエーグループがプロ野球球団の運営と一体で開発するものだった。当初の計画は「ツインドームシティ」。一つはプロ野球他のイベントが開催できるスポーツドーム。もう一つが娯楽施設を集積するアミューズメントドーム。どちらも全天候型なので、天気や季節に関係なく集客できるという目論見だった。

 ところが、1991年にはバブル経済が崩壊し、ダイエーは巨額の有利子負債を抱えて経営が悪化。計画はとん挫した。中内正社長からは「リクルートに計画を一任する」なんて発言も飛び出したが、開発されたのは室内球場の福岡ドーム(1993年)と、ホテルのシーホーク&リゾート(1995年)だった。

 ダイエーは福岡市から格安で埋立地を譲り受けた手前、アミューズメントドームの代替案も引くに引けなかった。そこで2000年に開業したのが「ホークスタウンモール」である。規模はイオンモールのようなクローズド型のRSC(リージョナル型ショッピングセンター)より小さいCSC(コミュニティ型ショッピングセンター)。当然、核店舗と呼べる大型業態はなく、テナントは専門店や飲食店が主体で、肝心な娯楽施設はシネコンやライブホールに限られた。

 プロ野球という興業を目的に訪れるお客は、試合(ナイトゲーム)が終わると帰ってしまう。また、野球がない冬場は集客、利用がガクンと落ちる。それらの対策をどうするか。 モールはイベント以外の日にも食事や買い物で利用してもらう施設を目指したが、ドームでの大規模なコンサートの序でに訪れる、また目的来場の映画やライブを除けば、専門店や飲食店が強力な集客装置にはなり得なかった。

 立地は福岡市中央区の地行浜ではあるが、アクセスが良くないのもネックだった。野球の開催時は天神や博多駅からシャトルバスが運行されるが、平日はバスの便数も少なく、地下鉄黒門駅から歩けば15分〜20分を要してしまう。野球やコンサートでなければ、徒歩で気軽に行くような距離感ではない。

 おまけに後背地の地行地区は住民が高齢化しており、日常の買い物は地元の唐人町商店街で片付く。西隣の百道地区や愛宕浜などに住むマンション族にしても、モールに行くには車利用となるため、非日常の買い物ではそのまま都市高速に乗って天神まで出かける方が多かった。

 これらはホークスタウンの開発前から指摘されていたことだ。しかも、福岡は平成不況の直中でも商業施設の開発が活発化していた。1996年のキャナルシティ博多を皮切りに、岩田屋Zサイド、97年の福岡大丸エルガーラ、福岡三越、99年の博多リバレイン、トリアス久山、ソラリアステージ等々。都心、郊外を問わず続々と大型商業施設が開業した。テナントはホークスタウンモールより充実し、集客力は比べ物にならなかった。

 ダイエーは1998年にホークスタウンで温泉を掘削して冬場の集客を当て込んだが、運営コストを考えるとペイするはずもない。王監督がユニホーム姿でメディア向けにアピールしたものの、話題だけで徒労に終わっている。結局、モールのテナントは開業から苦戦が続き、撤退するところが相次いだ。

 経営危機を迎えていたダイエーはドーム、ホテル、商業施設の管理・運営を一本化して、2004年に外資系傘下のコロニー福岡に売却。ホークスタウンモールは05年にリニューアルしたものの、07年にはコロニー福岡からシンガポールの政府系ファンドGICリアルエステートに再売却された。その後は目に見えたテコ入れもなく、ここ5〜6年は空き店舗が続出し、閑古鳥が無く状態。商業施設としては全く機能していなかったのである。

 そんなホークスタウンモールの再生に名乗りをあげたのが三菱地所だ。同社は2015年1月、所有者はGICリアルエステートのままで、信託受益権を取得。投資ファンド側と今後の方針を検討し、完全に更地して建て替えることを決定した。再生計画では、商業施設とタワーマンション2棟(ザ・パークハウス福岡タワーズ)からなる複合再開発とし、昨年6月から商業施設棟の建設に着工していた。

 三菱地所はホークスタウンの反省を踏まえ、より規模を拡大した大型商業施設を目指すわけだ。それが「マークイズ福岡ももち」(延床面積はホークスタウンモールの7万6000㎡に対し、12万5000㎡で1.64倍)である。同ブランドの施設は静岡、みなとみらいに次いで3番目となる。湾岸施設では子会社の三菱地所リテールマネジメントがアクアシティお台場も開発しているので、福岡でもいけると踏んだのだろう。

 首都圏以外で唯一人口が増加している福岡市は、マンションの建設ラッシュに沸く。博多湾が一望できるタワーマンションは需要が見込めるので、三菱地所は商業施設と抱き合わせることで、生活のしやすさをアピールし、売りにつなげる狙いだと思う。同じ中央区の九州大学六本松キャンパス跡地の再開発「六本松421」でも、三井不動産が販売代理を務めるマンションMJR六本松は、即日完売している。

 地元のデベロッパーからは「行き場を失った東京マネーが福岡のマンション投資に向かっている」との話も聞かれる。中心部へのアクセスが良い土地は高騰し、開発には東京資本が流入して、地場企業は用地確保さえままならない。競合の三井不動産がMJR六本松を完売させたことで競争意識に火が付き、三菱地所はザ・パークハウス福岡タワーズでは大手の力を見せつけたい思惑もあるはずだ。

 ただ、分譲価格は一戸当たり最低でも5000万円を超えるはずだから、年収ランキングで全国Cクラスの福岡で簡単に購入できる額ではない。東京マネーが資産運用を狙うと言っても、家賃が高いと借り手はつかない。その辺の不安はある。まあ、筆者は不動産の専門家ではないので、この辺にしておこう。


既存店を無理矢理かき集めた




 本題はマークイズ福岡ももちが商業施設として収益を上げられるか、である。みなとみらいやアクアシティお台場の実績が、今回のテナントリーシングにも踏襲されているようだ。では、テナント概要をじっくり見てみよう。

 まず、1階に配置されるのは地場スーパーの「ハローデイ」。全国一視察が多いスーパーとして、東京メディアでもたびたび取り上げられている。同社は高級スーパー・ボンラパスが倒産した後、店舗をそのまま引き継いでおり、西隣の百道地区では店名はそのままで運営し、六本松421にも同業態を新規出店。マークイズ福岡ももちではハローデイ業態での展開となる。ただ、ボンラパスとはワインやチーズなど一部の高級食材を除き、ほぼ同じMDなので湾岸地区でドミナント展開に踏み切る試金石にするのではないか。

 ホークスタウンモール時代にはスーパーがなかった点でも、リーシングの決め手になったと思う。ハローデイは週1回、新聞にチラシを折り込むが、日替わりで目玉商品を打ち出している。週末は鮮魚や精肉の安売り日で、魚は市場直送のものをその場で捌いてもらえる。こうした取り組みが高齢者にもウケているので、地行の住民を集客できる可能は高いと言える。

 ただ、基本路線は売却問題で揺れている西友傘下のサニーにような安売り店ではない。成否という点ではタワーマンションの完成以降、足下商圏の住民をどれほど顧客化できるかにかかっていると思う。
 
 2階には、ロンハーマンのコンセプトンショップ「RHC ロンハーマン(RHC RON HERMAN)」、カナダ発のアウトドアブランド「アークテリクス」が九州初進出。他にはインテリアショップの「アクタス」、書店の「ツタヤ ブックストア」。セレクトショップの「ジャーナルスタンダード レリューム」「ナノユニバーズ」「フリークスストア」。ライブホールの「ゼップ福岡」。物販47店、飲食3店、サービス2店が出店する。

 RHC ロンハーマンが初ものとは言っても、業界人ならブランド頭文字の組み合わせはセカンドライン、カジュアル色の強い業態だとわかる。福岡では中心部の警固にファーストラインのロンハーマンが出店しており、湾岸地区の性格からしてもカジュアル業態にならざるを得なかったわけだ。アダストリアが展開し、ここにも出店するベイフローと比較するのもどうかとは思うが、肝心なロンハーマンが福岡では絶好調とは言えないので、定着するかは未知数である。

 ゼップ福岡はホークスタウン時代からの横滑りだが、収用人員は2000名から1500名に減っている。キャパを少なくしても小屋を確実に埋め、稼働率を上げる狙いだろうか。だが、福岡の中心部には好調なライブホールはいくつもあるので、いかに観客の興味を惹ける出演者や題目を集められるか、運営側の力が試されるところである。

 アクタスは天神にほど近い渡辺通りにもあるので、市内では2店舗目。同じインポート系家具では、かつて同じ湾岸エリア小戸のマリノアシティにボーコンセプトが出店していた。しかし、価格面で苦戦を免れず撤退している。だから、こちらのアクタスは湾岸のマンション族を意識し、家具よりも雑貨に比重を置いたMDに変えてくると思われる。

 ツタヤブックストアは天神西通りの先にあった店舗がビルごとドンキホーテに変わり、移転というか新規出店になる。セレクトショップの3業態は、天神もしくは博多駅に既存店があるので、目新しさは感じない。

 3階は物販から飲食、ナショナルチェーンから地場企業の店舗まで、49店舗が揃う。フロアはファミリー層を意識してか、小動物と触れ合える「モフアニマルカフェ」、20種類以上の遊具で遊べる「あそびパークプラス」が出店。今年3月、本家米国の本社が350億円もの負債を抱えて倒産した「トイザらス・ベビーザらス」、「ユナイテッドカラーズ オブ ベネトン」はホークスタウン時代にも展開されていたので、再出店となる。

 4階はエンタメと家電のフロアで、シネコンの「ユナイテッドシネマ」、「ナムコ」、家電量販店の「コジマ×ビッグカメラ」の他に、英会話や幼児教室、パーソナルジム、ヘアサロンなどがリーシングされている。ユナイテッドシネマは、ホークスタウン時代から継続出店となり、他のエンタメも既存店があるので特に珍しいというわけではない。

 テナントの顔ぶれを見ると、個々がそれほど高い集客力を持つとは思えない。天神には百貨店やファッションビルが並び、博多駅には開業から増収を続けるJR博多シティがある。その両都市に挟まれるキャナルシティ博多と博多リバレインは徒歩回遊圏でもある。だから、この程度のテナント構成なら、天神、博多駅を生活圏にしていれば、わざわざ行くこともないというのが率直な印象だ。

 外国人旅行者を狙うと言っても、シーホーク&リゾートから経営が移ったヒルトン福岡シーホークの宿泊客だけでは、博多駅や天神界隈の絶対数にはかなわない。逆にここは天神や博多駅周辺のホテルから徒歩では回遊できない。福岡市が運営する2階建てバスで訪れることは可能だが、これもキャパやダイヤの問題から大量輸送には限界がある。

 アジアからの旅行者に大人気のドンキホーテは、中洲地区と天神地区(今泉/ツタヤブックストア跡に出店)にある。すでに観光客の買い物コースになっており、あの集客力からすれば、切り崩しは容易ではないだろう。テナントが外国人好みというより日本人向けであり、外国人旅行者の集客は限定的と思われる。

 だから、マークイズ福岡ももちは、天神を軸にして福岡市の西半分、主に早良区、西区、城南区といった足下商圏を攻略しなければならない。ただ、この西南部も今から30年以上前にバイパスや地下鉄の開通に伴って開発され、住民は高齢化している。人口増の中心となる若年層は交通アクセスの良い西鉄大牟田線や地下鉄空港線、JR鹿児島本線沿線のマンションに居住するケースが多く、人口分布は分散傾向にある。必ずしもマークイズ福岡ももちの足下商圏の人口が増えているわけではないのだ。

 しかも、マークイズ福岡ももちは車でしかアクセスが難しく、特に野球の開催日は周辺道路が大混雑する。ホークスのホームゲームは年間70試合程度なので、大したことはないと言えばそれまでだが、週末、祝祭日のデーゲームともなれば、「道路が混むから行くのを控えよう」との心理が働くので、商業施設単独の集客に影響がでるのは間違いない。福岡市はこうした施設開業後の交通渋滞を想定し、緩和策を打ち出している。

 それによると、三菱地所がドーム、商業施設、横断歩道をつなぐ歩行者デッキを整備し、交差点改良やバスカットを新設。福岡市がドームの敷地内にタクシー乗降場を新設するというが、これでどこまで渋滞が緩和できるかは来シーズンになってみないとわからない。その時はマークイズ福岡ももちの開業景気もいく分は沈静化していると思われるが。

 現状で言えることは、ホークスタウンモールが集客で苦戦したことから、施設の規模、テナントの数だけは何とか克服したように見える。だからといって、テナントは既存店を中心にかき集めたとしか思えず、これらが必ずしも強力な集客力を発揮し、足下商圏を攻略できるとは限らない。イケアのような単独でも広域集客力をもつ業態がない点は、開業後から少しずつ影響が出て来るのではないか。

 また、立地の地行浜は、お台場やみないとみらいとは違って北向きである。博多湾の先に広がる玄界灘は冬場は海が荒れ、福岡市には寒風が吹き荒む。マークイズ福岡ももちがクローズドモールとは言っても、ホークスタウンモール時代からの寒々しさは残ったままだ。商業施設として広域集客ならぬ狭域集客で、はたしてペイすることができるか。イベントなどの開催を含めて、デベロッパー三菱地所の企画力が問われてくる。



 最後に地元民として解せないことがあるので、付け加えておく。施設名のマークイズ福岡ももち、開発コンセプトの「モモチゴコチ」は、地名の「百道(ももち)」から取ったと思う。だが、この地区の正式住所は「地行浜(じぎょうはま/埋め立て後に制定された新地名)であって、百道は樋井川を挟んだ隣地区の地名である。だから、筆者はマークイズ福岡ももちの開発のニュースを見た時に、「えっ、百道にまたSCができるのか」と勘違いしたほどだ。

 博多の人間にとって百道と言えば、かつての海岸を思い出す。筆者が幼稚園の頃、このシーズンには博多から路面電車で行ける一番近い海水浴場であり、自宅から水着を着て浮き輪を持ち、そのまま西新で降りると歩いて行けた。ただ、博多湾の内海のため、昭和30年〜40年代は生活排水などが流れ込み、海が汚なかった記憶しかない。筆者はしばらく福岡を離れていたので、その後の変貌ぶりには目を見張るものがある。

 百道の海岸は昭和60年代に福岡アジア太平洋博覧会のために埋め立てられ、イベント終了後は人工海浜として整備された。福岡市によって定期的に清掃も行われているので、今は海も海岸もすごくきれいだ。かつての百道海水浴場とは雲泥の差である。ただ、百道はあくまで西新の先の浜であって、地行の海岸を指すものではない。

 まあ、そんなことは三菱地所にとってはどうでもいいことだろう。おそらく施設名のネーミングは憶えてもらいやすい方が良いから、企画会議では開発担当者や企画に携わるコピライターなんかが住所は無視し、ゴロ合わせだけのコンセプトをゴリ押ししたのだと思う。しかし、福岡に住んでいる人間からすれば、違和感が非常にあることだけは確かである。

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