HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

モノ作りをフォローできるか。

2015-11-16 06:13:23 | Weblog
 The FLAG(http://theflag.jp/)、今回は「EC化率50%の世界はやってくるのか?」について。テーマを単純に解釈すれば、実店舗から自動販売機まで、モノを売ったりサービスを提供したりする拠点の半数が無くなってしまうということか。

 極論すれば拠点まで出かけてのショッピング量が半減すること。楽天やアマゾン、ヤフーといったネット販売の先行企業に加え、大手量販店やコンビニ、家電など、さらに一般小売事業者、個人までが参入すれば、否定できないのかもしれない。

 現実にそうなるかどうかはわからないが、テーマが設定されたので、そうなると仮定したときの課題、またそうなることを前提とした条件に触れてみたい。

 昨年だったか、楽天の三木谷浩社長は、自社のタウンミーティングでこんなことを語っていた。「人間の多様なライフスタイルを考えると、楽天市場のシェアがこれから6割、7割と増えることは無い。全部を抱え込むことは無理」と。

 リーディング企業のトップ自らが語るのだから、ECマーケットの寡占化は終焉を迎えたということだろう。言い換えれば、それは新規参入を狙う企業にとって、ビジネスチャンスが到来したとも言える。

 では、今後どんなモデルが提供されていくのか。楽天はネット上に仮想のショッピングモールを作り、そこに加盟店の参加を促し、販促などを手掛けて購買を進め、手数料をとる手法で成長した。俗にいうBtoC(企業対個人の取引)である。

 今ではすでに古典的とも言えるやり方だから、新規参入組はCtoC(個人間取引)や物販にとらわれないサービス系のECに可能性を見いだそうとしている。

 ECが拡大する条件は、まず取扱う商品やサービスが広がること。楽天は三木谷社長が語った通り、限界が近づいているのかもしれない。でも、アマゾンはそのブランド力、国際的なネットワークを持つだけに、まだまだ伸びシロはあると思う。

 次に個人が個人に商品を販売したり、スポーツやスクール、ベビーシッター、クレリンネスなどのサービス予約ができるCtoCも登場している。まだ始まって間もないから、どこまで伸びるかは想像がつかない。

 メッセンジャーアプリのLINEがサービスを提供する「ラインモール」は、CtoCの新たなスタイルで、価格は出品者が決めたワンプライスだ。

 出品や販売の手数料もかからず、購入者にとっても手数料や配送料は発生しないことが受け、アプリのダウンロード数は200万を超えたと言われている。

 今後はこうした参加者のメリットがEC拡大の条件になるだろう。ただ、ECが成熟していく中で、お客は賢くなっているのも事実である。

 一般にECを利用するお客はまずほしい商品を検索し、別のサイトもチェックして同じ商品をピックアップする。次は価格の安い方を購入の候補にあげ、さらに同価格なら送料などサービスの違い、それも同じなら星印の良い方を選ぶようになっている。

 だから、最初にとっかりで余分な料金が発生しないメリットは大きい。

 次に出品者側にとっても出品や販売の手数料がかからないこと。あるいはモールの歩率家賃が下がることはメリットになり、EC拡大の条件でもある。しかし、参入障壁が低ければ低いほど、出品者も増えるわけで、競争は激しくなる。

 出品や販売の手数料がかからないということは、量でカバーするにしても、どこかでコスト圧縮をしなければならない。ラインモールの場合はシステムをいたってシンプルにすることで、それを吸収していると言える。

 だが、出品者、購入者にとってオークションのように高く売れた、安く買えたという偶然性はなくなり、ヤフーのようなサイトコンサルティングも希薄で、商品がピックアップされないデメリットも露呈している。この辺の課題がある。

 コスト面ではどうだろうか。配送料金があげられる。「購入者にとって配送料が発生しない」のはメリットだが、そのしわ寄せは物流業者に来てしまう。米国のアマゾン・ドットコムは、競争力を増すために国内配送料を無料にしている。

 その流れが日本に押し寄せ、宅配便などに「配送料の値下げ圧力」がかかっているとの話もある。それに対し、「空のトラックを走らせるよりは良い」「物流網を有効に活用すれば可能だ」との意見もある。確かに机上の論理では、そうかもしれない。

 しかし、商品を自宅まで届けるのは、宅配スタッフという人間である。一軒家もあればマンションもあるし、都会もあれば山間部もある。雨も大雪も降るし、猛暑もある。配送条件がすべて異なる中で、一律で低い料金体系が容易く受け入れられるとは思えない。

 国土がフラットな米国ですらそうした課題があるのだから、無人配送のドローンに活路を見出そうとしているのだ。しかし、日本では法整備が追いついていないし、何よりメカが住宅事情を超えるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。

 料金を逆手に取り、「超速配」という切り口で、競争力を持とうという事業者もある。弁当宅配やハイヤーの配車サービスだ。オーダー側と配送・配車側が無駄をなくそうということらしいが。

 でも、個人的にはそこまで忙しいのなら、逆に待つ方がかえってイライラする。ならば、近くのコンビニに買いに行った方が早いし、ハイヤーではない限り流しのタクシーを拾えばいいと思う。

 一方、リアル店舗とECの融合で、オムニチャンネルに踏み込む動きも進んでいる。ファッションの場合、ネット販売では試着ができない。それを解決するためにバーチャルフィッティングも開発されているが、お客が素材感や着心地まで確かめることは無理だ。

 それは当初からわかっていることなのだが、それでもECが広がったのは購入するお客は試着無しでも、好きなブランドが買えれば満足ということだろう。

 とすれば、これからECを拡大するには「試着しないと買う気になれない」というお客をいかに捕捉するかということだ。昨年からにわかに叫ばれ始めた「ショールーミング」がその有効な手段になる。

 店舗には型、サイズ1型のみの商品サンプルを置き、お客は試着をした後、商品が気に入れば店舗のPCまたはスマートフォンで注文する。後日、配送センターから自宅に商品が届くという仕組みだ。

 筆者もSPAやセレクトショップでの買い物で品切れし、試着ができなかったり、店舗在庫が絞り込まれて揃わないものは、ネットでの購入を勧められた経験をもつ。そうなると、やはり購入には二の足を踏む。このサービスはそんな顧客心理にフィットする。

 SPAは物流コストが自社負担だし、一般の小売店はメーカー負担となる。とすればショールーミングは物流コストの削減になる。

 売れるか売れないかわからない在庫を店舗まで配送し、ムダな物流コストがかかるのであれば、ショールーミングを選択するのは吝かではないだろう。とすれば、ECが拡大する条件にはなる。

 ショッピングセンターやファッションビルでは、デベロッパーはテナントの売上げに応じた歩率家賃で収益を上げている。昨年、ゾゾタウンがショールーミングのソフト「WEAR」をお客に配信すると発表した時、反発するデベロッパーは少なくなかった。

 同時期、雑貨店のロフトは眼鏡通販サイトのオーマイグラスと提携し、同社のメガネについては歩率割合を変えることで、対応しようとしていた。実店舗で売れると歩率は10だが、ネット販売に移行すれば歩率は5とか3とかというものだ。

 デベロッパーもテナントもウィンウィンの関係を目指す懐柔策ということだろうか。店舗だろうが、ネットだろうが、コマースである限り、売れてなんぼの世界には変わりない。この当たりがもっと進めば、販売環境は活性化していくと思う。

 ただ、これまで述べてきたECの課題や条件は、あくまで既存の「商品、サービスありき」、あくまで「商品&サービス頼み」だ。

 だから、個人的には、「これから商品を作る」「商品づくりのためのサービス」でのベクトルでも、EC拡大をとらえたい。

 実店舗とネット店舗の大きな違いは、時間と空間を超えて取引ができるかできないかである。実店舗では商圏や客数は限られるが、ネット店舗ではもしかしたら自店の商品を求めているお客が時空を超えて存在するかもしれない。

 その可能性に賭ける商品やサービスを提供できる店舗が登場すれば、EC拡大のプラスαにはなると思う。

 日本のファッションマーケットは、完全に飽和状態で価格低下は否めない。市場が成熟したからと言ってしまえばそれまでだが、もうバブル期のように高級品がどんどん売れるという環境にはならないだろう。

 つまり、マスプロダクションでは頭うちなのである。多くのアパレル事業者がそれを感じて中国やアジア市場への進出を図っている。その結果、効率主義のツケは日本に廻り、どこを切っても同じ商品ばかりが出回って、お客離れを招いている。

 極論すれば、ここまで成熟すれば、もう既成服では難しいとさえ考える。お客がお金を持っていないわけではない。それでも売れないのは、市場に買いたい商品がないからだ。

 それをECはいろんな仕掛けを駆使して、衝動買いさせるように仕向けてきた。でも、さらに市場が拡大するには、完全オリジナルのもの作りなんかも手掛けないと、わがままなお客の財布の紐は緩まないと思う。

 一例をあげると、こうだ。「自分でデザインはできるが、型紙製作までの技術はない」「生地の製造や卸機能はあるが、デザイナーや消費者へのアプローチする術がない」「気に入った生地やデザインでオリジナルの服を作りたい」。

 こうしたファッションのコマース環境に存在する三者三様のニーズをネット環境でフォローしていく。こうすることで、新たなビジネスが生まれるのではないかということである。

 これは、すでにサービスを開始している「ファクトリエ」や「シタテル」といったBtoBではなく、新たなBtoC(企業対個人)として想起したい。

 既存のマーケットを否定したところに生まれる新しいマーケット。効率主義やマスプロダクトではできないお客ウォンツの掘り起こしである。

 「イタリア旅行でいい生地を見つけたんだけど、デザインやパターンメイキング、縫製をしてくれる人はいないかな」。洋服好きの素朴な願望にECがどこまで応えきれるか。

 こうしたウォンツは現状では「点」かもしれない。しかし、点を線にし、面にしていくのがビジネスである。EC化率が50%になるには、こうした点のマーケットにまで踏み込んで、捕捉していくことが必要ではないか。

 ファッションビジネスの原点とは、一枚の布が生命をもつこと。だからこそ、なおさらそう思うのである。
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