HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

リサイクルSが不要品?

2019-05-29 04:51:12 | Weblog
 先日、ネット記事で、こんな見出しが目を引いた。

 「フリマに押され、リサイクルショップ倒産急増!…」https://netallica.yahoo.co.jp/news/20190525-02582807-jct_kw

 記事はリサイクルショップ全体について書いているので、ブランド古着の次元でみると若干意味合いが違ってくるかもしれない。ただ、中古品売買全体がインターネットに食われているのは紛れもない事実。中古のブランドファッションを販売する業態にも、危機が迫っているのは否定できないと思う。

 昭和の時代は路地裏にあったアングラな「古着屋」が、デフレ禍による高額品の購入減退で表通りに出現して20年余り。ブランドファッションの中古品は、リサイクル業態の隆盛とともに、若者を中心にライフスタイルに溶け込んでいった。

 一方で、90年代後半からはインターネットが普及。このチャンネルを生かしたYahoo!オークションが登場し、不要になったブランドは個人でも気軽に売り捌けるようになった。ネットが「売りたい人間」と「買いたい人間」を時空を超えて結びつけたのだ。それまでの中古品売買に対するネガティブさは完全に払拭され、今日ではe-Bayのように世界規模でのオークションも浸透しつつある。

 売買のハードルが下がったことで、売る側には「せっかくなら少しでも高く売りたい」という心理が働く。だから、まずは居住地近くにリサイクルショップがあれば、そちらに持ち込んで買取査定を受ける。ネットオークションに出品する手間や落札後の梱包、発送など手間が面倒なお客は査定額に満足すれば、そのまま買い取ってもらうはずだ。逆に金額に不満なら、オークションという市場に賭けるのである。

 買う側のお客は欲しいブランドがあると、一応リサイクルショップを見て回るだろうが、端から品揃えや在庫点数が限られるから、「掘り出し物なら購入する」くらいの期待しかない。お目当てのブランドやアイテムが見つからなければ、在庫が豊富なネットオークションを探すのだ。

 売る側と買う側を直接つなぐリサイクルショップは、「何でも買い取る」と謳っている。しかし、実際に査定して値を付けるのは、人気ブランドや旬のアイテムに限られる。ビジネスとしてペイさせるため、再販、二次流通を行うからだ。元値がいくら高い商品であっても、買い手がつかなければ在庫の山と化す。家賃や人件費などのコスト負担もあり、それらを吸収できないものは単なるゴミでしかない。処分するにもリサイクル費用がかかるので、赤字になってしまう。

 だから、売る側は中古品売買を経験するほど、「ショップに値踏みされて買い叩かれ、あるいは買取を拒否されるならネットで売った方がましだし、できるなら少しでもお金にしたい」という学習効果が働いていく。そうした心理変化の最中に登場したのが「メルカリ」だ。ネットオークションのようにいろんな条件や細かなルールがなく、スマートフォンにアプリをダウンロードすれば利用できる。後は売りたい物品の写真を撮り(バーコード出品機能も)、サイトに必要事項を記入すれば、出品は完了する。

 買う側にもメルカリはスマホ一つで購入できる気軽さ、掘り出し物を見つけられる楽しさ、即決できる点がウケている。一応、個人間の売買に限定されるので、業者が入って来ることを排除する「業者認定」を設けたり、公序良俗に反する物品は削除するなど、監視の目も厳しい。

 さらに売る側、買う側双方の保護として、ネットオークションで問題となった詐欺やトラブルを回避する「エスクロー決済」(メルカリが商品代金を仲介して預かり、双方の取引評価完了後に売上金を移すもの)も導入されている。

 昨年7月時点での国内ダウンロード数は7100万、利用者数は月間で1000万人を超えている。1分当たりの出品数は3000件で、このうちブランドファッションはどれくらいを占めるのか。仮に1割としても1日当たり4万点以上が出品されていることになる。買う側からすれば、それだけお目当てのブランドに出会う確率は高くなるのだ。

 先日、知り合いがSNSに投稿していた例では、メルカリに出品したブランドの時計は、ものの10分で買い手がついたとか。それだけ物品の滞留時間が短い、つまり回転が速いという証左だろう。



 メルカリ登場以前から、ブランドを売買するリサイクルショップの中には、自社サイトを開設してECによる直販やオークション出品を進めているところがある。だが、全国チェーンでは商品は各店舗の在庫で、詳細は問い合わせなければならない不便さがある。また、在庫のピッキングから梱包、発送までのフルフィルメントは店舗のスタッフが行うため、買取査定や管理など以外の作業も増えてしまう。

 実店舗はもともと家賃や人件費がかかっており、この他にサイト運営の経費もかかるのだから、それに見合うだけの売上げがなければ成り立たない。正直、厳しい部分もあるのではないか。ブランドファッションの衣料や小物、雑貨に限定しているから、メルカリが扱う中古ファッションよりも売買機会は高いとも考えられるが、顧客が限定されると逆に在庫の回転は鈍ってしまう。

 商品が代わり映えしなければ、お客の期待も薄れるわけだ。それが売買機会を減少させ、収益が上がらないとキャッシュフローが進まず、新規買取の原資が枯渇する。つまり、仕入れができなくなるのである。もちろん、これは実店舗と並行するサイト販売にも共通することだ。こうした悪循環に陥ってしまったリサイクルショップが倒産の憂き目にあっているのではないかと思う。

 記事では、ネットで集められた中古品全般を扱うリサイクルショップの生き残り策を取り上げている。お客目線の意見だから参考になる部分はあるが、経営論としてはどれも本質を欠いている。

 「ショップも、オンラインで買取価格がわかるようにするといい…
▶事前に買取価格を公開しても、店頭で値踏みされる可能性は排除できない。

 「一定数だけの需要がある物や大きい物は、すべて自社倉庫販売にする。そして、防犯カメラなどをつけて人件費を削減し、回転率が高い物や小さい物は通常店舗販売にする
▶自社倉庫、カメラ設置などで省力化しても、設備投資に見合う売上げを得る保証はない。これまで中古品の査定、買取などを人間が行ってきた(マニュアル化とアルバイト起用)のは、それがいちばんコストがかからないからだ。

 「機械類等、動作保証、重量があるものなどフリマでは割に合わない物に特化するのが狙いどころ
 ▶重量があり、嵩張るものは場所を取るし、管理が大変だ。商品回転率が鈍いと、家賃や人件費の負担が重くのしかかる。家賃が安い郊外に倉庫を設けると、相当数の在庫、魅力ある品揃えを提供しない限り、集客に影響が出る。

 「田舎にも、リサイクルでもいいから派手な服が着たいという年配者が増えています。そういう人のために品揃えをしてほしい
 ▶筆者の叔母も4年前に中高年向けの高級ブティックを廃業した。元値が数万円もする専門店系アパレルで1年落ち程度の服をリサイクルショップに多数持ち込んだが、ほとんど値はつかなかった。ショップ側が再販したかどうかはわからない。しかし、中高年はネットに二の足を踏むし、ショップで値段がつかないと持ち込むお客はいなくなる。

 ネットによる中古品売買が浸透した今、実店舗をもつリサイクル業態は八方ふさがりのようである。ブランドファッションの中古販売に限っても、生き残るのは質屋系の企業が扱うラグジュアリーブランドのバッグや宝飾品の買取販売店か。後はプレミアがつく人気ブランドに特化したり、インポートのセコハン衣料を扱う古着店くらいではないか。それらにしてもECも並行して行い、市場を拡大しなければならないのは当然だ。

 ただ、欧米のラグジュアリーブランドやコムデ・ギャルソンのような人気ブランドに特化したとしても、サブスクリプションという新たなトレンドが生まれている。「ブランド品もレンタルで十分」「何人かでシェアするのが合理的」と、所有に対する価値感が薄れていく中で、価格が安いからと中古販売ビジネスに先があるのかは全く見通せない。

 純然たるリサイクルショップは、メルカリのように在庫が滞留しないネット業態には太刀打ちできず、自然に淘汰されていく運命かもしれない。逆にコストがかかる中古衣料の売買こそネットに任せ、別の道を模索した方が先は見通せるはずだ。

 それは何か。アパレル業界でも少しずつ言われ始めている「オフプライスストア」ではないかと思う。平成不況の直中にあった1990年後半、その名前がちらほらメディアに登場していた。しかし、「アウトレット」や「ディスカウントストア」などと混同され、正しい解釈が伝わることはなかった。

 ファクトリーアウトレットとは、アパレルメーカーなどが製造した商品の中で、キズものや廃番など正規のルートに出せないものを格安で販売し、現金化する業態。小売業が持ち越した商品を同じように販売するのがリテールアウトレットで、ともに自社で運営。もしくはデベロッパーがアウトレットのテナントを集め、モール化する。ここで敢て言えば、筆者は最初から安く作った専用品を売るのは、アウトレットではないと考える。

 ディスカウントストアは、小売り側がメーカーに対してコストを抑え、商品価格を安くした商品を製造してもらい、仕入れて販売する業態。有名ブランドを大幅に割引するのがアウトレットで、端から安い商品を販売するのがディスカウントストアなのである。



 これに対し、オフプライスストアは、百貨店が取り扱うようなブランドの売れ残り品を「仕入れて」割安で販売する業態を指す。80年代からニューヨークに行き始めた筆者が現地のデパート(たぶん、記憶ではMacy’sだったと思う)を見て驚いたのがオフプライスの売場があったことだ。日本で言うデパ地下は有名ブランドを割引価格で消化するフロアで、商品は天井から吊り下げられていた。

 おそらく商品整理をしなくていいように陳列の乱れを避ける狙いだろう。安くなった有名ブランドを購入するまでには至らなかったが、セール期ではないのにブランドが割引で販売されていることには衝撃を受けた。Macy’sは上層階で同じブランドをプロパーで販売しつつ、並行してオフプライスストアも運営していたのである。

 日本ではセールやアウトレットでも売れ残る商品はバッタ屋に持ち込まれたり、焼却処分されたりする。果てはタグを切られて中古衣料として海外に輸出され、ウエスや再生繊維に加工される。アパレルにとってはブランドのロイヤルティを毀損させない狙いだが、そもそも供給過剰で値引き販売が当たり前になった中、ロイヤルティもクソもない。

 端から原価率を下げて安く作っているものもあるとは言え、価格の高低に関係なく焼却すればCO2を排出するし、すぐに着られる名のあるブランドをウエスや再生繊維にすることも全くバカげている。

 バッタ屋のような買取業者に引き取ってもらえば、現金化できるとは言っても、段ボール箱単位でキロいくらだ。原価割れすれば意味はないし、海外に輸出すればさらに買取額は下がってしまう。だからこそ、取引されなかった商品や売上げ予測をミスった商品などは、買取先が見つからない段階で処分するのがベストだと思う。

 人気ブランドは中古品でも、二次流通が盛んなのだから、「新古品」なら引く手があるのは明らかで、値ごろなブランドならマス市場を作ると思う。ネットに押されて勝ち目がなくなったリサイクルショップが活路を見い出すとすれば、全く発想を変えて過剰在庫を仕入れて売り捌くことではないだろうか。売上げ不振に陥っているしまむらは、思いきってオフプライス業態に舵を切った方が得策との意見もあるくらいだ。

 アパレルが製造した商品在庫は、期末に課税されるからこそバーチカル(垂直)な流通構造のもとで確実に消化し、現金化することがビジネスのセオリー。それがキャッシュフローを円滑にしていくのだ。ならば、それらを仕入れて転売する二次流通の事業者も必要になる。日本でそれをアパレルや百貨店が行えば自らの首を絞めるとメンツを気にするのなら、替わってリサイクル業者が担ってもいいのではないか。

 アパレルメーカーや百貨店がエコやサスティナブル、エシカルといったスローガンを声高に叫びながら、それに貢献するであろうオフプライスショップをタブー視するのは、全くもって自己矛盾と言わざるを得ない。


 
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