先日、業界での鋭い考察で有名な某プロフェッサーのコラムに「販売員の心得」が取り上げられていた。(http://www.apalog.com/kojima/archive/1772)業界では販売員不足を解消するために、様々な意見やアイデアが飛び交う中、「おもてなしの精神論」では店舗運営には実効性を欠くとのご意見である。
販売員という職業が少なくとも安定するには、報酬を上げなければならないわけで、そのためには「客数と売上げを確実に向上させることが不可欠になる」。これはある意味、当たり前のことだ。その心得として、4つをあげられている。
1.顧客の購買プロセスを誘導するVMDのセッティング
2.売場のみならず後方ストック、他店やDC(商品配送センター)の在庫の掌握
3.顧客の購買労働負担を最小化し、購買利便を最大化する配慮
4.顧客が快適に購買できるクレンリネスと身だしなみの徹底
とのことである。業界コンサルの重鎮であり、プロフェッサーの称号を裏づける理論家として、明快で説得力のある見解と言えばそうだろう。でも、これを若者の夢を煽るファッション専門学校、販売員を採用するアパレルの小売り部門、大手チェーン店やセレクトショップが、教育の目標や就職の条件、指導育成や戦力化の目的として、切実にとらえているかである。
また、筆者がルポを書いて来た業界誌でも、こうした心得をテーマとする特集は定期的に組まれている。しかし、それは経営者や店長レベルの購読に止まり、小難しい内容をペーペーのスタッフが学習し理解し、売場で実践して来たかと言うと、それほど多くないだろう。だから、販売員の地位が向上しなかったとも言えなくはないが、正論だからと言って全てに納得、理解されるとは限らない。学生から就活生、新人、2〜3年目、中堅&チーフクラスとそれぞれの段階で、最終目標であるこの心得をよく咀嚼して、わかりやすく教育していかなければならないと思う。
では、具体的にどうすればいいのだろうか。まず、専門学校では用語の意味からして、18歳、19歳で学習意欲が高くない学生にはほぼ理解不能だ。現状の授業で行われているものも1ないし4の基礎の基礎くらいで、それも知識学習の域を出ない。おそらく2年間在籍しても、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)とディスプレイの区別もつかないまま卒業しているはずである。プロフェッサーが解説するIP(アイテムプレゼンテーション)やLP(ルックプレゼンテーション)という用語すら、授業では取り上げられていないのではないか。ましてそれらを実践して、お客を誘導し購買意欲(デザイアー)を喚起する陳列方法を教育する授業なんて、知っている限りのファッション専門学校では見たことが無い。
ある学校で学生に手持ちの服を持ってこらせ、数体のボディにトップからボトムまでコーディネートした授業課題を見たことがある。プロフェッサーがこれを見ると「全くLPになっていない」と酷評しそうなものだ。学生は自分の趣味嗜好で服を買っているわけだから、そんな手持ちの服でIPやLPを理解させようという講師、授業の方に問題があると言わざるを得ない。1を教育するには、アパレルや小売りとタイアップするなりして、実際の売場で販売する自分の嗜好と関係ない商品を使って、実践しないと無理である。
4のクレンリネスは、美容系の専門学校が力を入れており、定期的に授業前の早朝に地域の清掃に取り組む姿を見かける。ただ、それが学生にどれほどクレンリネスへの認識をもたらしているかというと、いたって漠然としているだろう。まあ、インターンや見習いで店の掃除をやらされるのは、依然として徒弟制度が残る美容業界では当然だ。また、自分が美容師の仕事をするなら、店が汚くては話にならない。ただ、学生側はまだ「やらされている」という意識だろうし、きれい好き、ものぐさなど個人の性格もあることだからやらないよりも、やった方がいい程度のものかもしれない。
ファッション専門学校では「クレンリネスの啓蒙」なんて、まず無いに等しい。掃除をさせる行為は、学生にとっては懲罰的な意味合いの方が強い。その程度の次元なのである。身だしなみのチェックにしても、せいぜい就職指導や模擬面接で行われている程度。これもかつては金髪でピアスをした学生が堂々と面接指導を受けていたし、学校側にも「学生の自覚に任せる」「そこまで深く指導しない」なんて妙な相互理解があるように感じた。最近はどうなっているかわからないが、就職指導における身だしなみチェックは、学校ごとでかなりの温度差があるのも事実。専門学校ではプロフェッサーが言うところの販売員の心得なんて、ほぼ習得させていないというのが実情ではないか。
2、3はそもそも専門学校教育では限界だし、学生には理解不能と思う。
では、業界ではどうなのだろうか。筆者は小売りの経験がほとんどないから、あくまで仕事で売場を訪れた時に触れたもの、経営者や店長との会話の中で見聞きしたことから、個人的な印象を述べてみたい。お客さんに商品を買ってもらうためのVMDは、百貨店や大手チェーン店での新人研修のカリキュラムには入っている。専門スタッフや担当部署でもキャリア教育として導入されている。それを社員募集のパンフレットやHPで訴えている企業も少なくない。
しかし、一個人の教育目標としての販売員の心得で、ここまでを目指している企業がどれくらいあるのだろうか。どうしてもセールトーク偏重、売ることの能力や技術の教育に一生懸命で、VMDのセッティングは疎かになっているのではないかと思う。ただ、中堅企業や個店も同様にVMDに関心が無いかと言えばむしろ逆だ。指導に力を入れているところは意外に多いと感じている。3年ほど前にある企業の雑誌広告を制作したとき、そこの社長から聞いた話がある。数店舗を展開するセレクト業態で、クリスマス商戦の時にバイヤーが売上げ拡大を狙い、一気に商品を投入した。
ところが、売場は在庫で溢れかえり、VMDはグチャグチャ。とても顧客を購買プロセスに誘導するような状態にはなっていなかった。たまたま店まわりをしていた社長は、それを見て激怒。「あんなに商品を詰め込んで、売上げや利益を得るのは目的なのか、手段なのか、どっちなんだ。12月はお客様の気持ちが一番華やぐ時だから、ウィンドウから人を楽しませてあげないと」と、店長やスタッフを叱咤したという。この話には続きがある。VMDのセッティングができない店があった一方、きちんとできていた店もあり、この社長はさっそく写真を撮らせて、VMD修正のために全店に送付させたそうだ。
まさにプロフェッサーが言うところの基本原理は、店のお得意さんを買いたくなる過程に誘い、買おうという気持ちを起こさせる陳列なのである。それを自店なりの売場づくりの中で解釈し、商品分類をいかにわかりやすく安定的に配置していくか。店は一販売員にまでも会得させていくことが重要ということである。
2の売場のみならず後方のストック、他店やDCの在庫の掌握は、大手チェーンではかなり浸透してきている。100店舗近くを展開するあるSPAは、商品の機会ロスをなくし、消化率のアップを目指すために売場単位でタブレットを導入した。これが販売スタッフのストックの棚割り整理、在庫把握にも貢献。何より接客中にタブレットを操作できることで、どこに在庫があるかわかり、客注は一番近隣の店舗から移動させている。お客に入荷予定が明確に伝えられ、時短にもつながっている。
逆にお客からすれば、ネット通販を利用することで在庫状況の把握が当たり前になっている。「残りわずか」の情報が発信されると、購買に対するお客の切迫感を刺激する。こうした手法が良いか、悪いかは別にして、検索の時点でお客が在庫状況を確かめるのが当たり前になっていることを考えると、スタッフがストックや他店、DCの在庫までつかんでいるのは、販売におけるメリットだ。一方で、個店レベルでは取引メーカーとの在庫情報の共有がどこまでできるか。まだまだそれができるスタッフが多い状況ではない。機会ロス、販売ロスを低減し、消化率をアップするためにも、今後の課題になるのかもしれない。
3の顧客の購買労働負担を最小化し、購買利便を最大化する配慮とは何か。購買労働とは店の中でのコーナー移動とか、フィッティングなどだろうか。セレクトはハイクラスではグルーピングが行き届いているから、それほどの負担には感じない。でも、ファストファッションはじめ海外ブランドの大型店舗、SPA化したセレクト、GMSの衣料品売場は結構商品を探すのに苦労する。特にGMSは在庫が多い割りに単品中心の配置で、スタッフも少なくサイズの適切なアドバイスを欠く店もある。そもそもがセルフサービスの売場づくりと「これください」的な対応だからしかたないと言えばそれまでだが、それならもう少し商品が探しやすい売場にしても良いのではないかと思う。これはグローバルSPAでも感じることだが。
また、中国人旅行客の増加で売場では、置き引きの被害も増えていると聞く。かつて有名専門店では視線の配り方などかなり教育されていたスタッフが見受けられたが、最近は教育が行き届かず、無頓着な人が少なくないと感じる。百貨店では男性スタッフがフォローする光景も見られる。まさかお客の自己責任しているわけではあるまいが、もう少し注視することも必要ではないか。まあ、これもオムニチャンネルが浸透し、売場がショールーム化する一方、店舗の力を見せつけるにはそうした対応が行き届くところが求められるわけだ。やはりこれは指導教育の成せる技ではないかと思う。
顧客の利便性という意味では、店舗のショールーム化、 ECサイトで販売している商品の試着、店舗受け取り、店舗購入の無料宅配などがあるだろう。顧客はすでにできるだけ手間とコストがかからないサービスを半ば当たり前のように感じている。これは販売員の心得というより、企業の方針、店舗の考え方になると思う。だが、服はまだしも、靴は試着をしないと、購入は難しい。こうした対応をしてくれるようなシステムが充実してくれば、オムニチャンネルも一気に浸透していくのではないかと思う。
クレンリネスについては、ダメな店舗はあまり見かけない。たまにパッキンがそのまま放置されている店はときどき見かけるが、これはクレンリネスの問題とは違う。筆者が企画に携わるアパレルの取引先セレクトショップは、社長がクレンリネスを啓蒙している。定期的に抜き打ちチェックをして、気づいた点を自らレポートし、改善を促しているのだ。それを見せていただき、印象的だったのは、「ハンガーラックのパイプやバーまで奇麗に磨こう」という社長の指示。ラックのパイプはフックが接触して擦れ、光沢を失うからだろうか。拭くだけではなく、「磨く」という点がクレンリネスの奥深さなのだろうと、改めて感心した。
身だしなみについても、洋服が好きで業界で働いている人がほとんどだから、不快にさせるようなら、周りのスタッフが先に気づくはずだ。筆者が業界に入った頃は、髭があまり快く思われなかった。それから20年くらい経って、百貨店でも髭のスタッフが増えて来たと、日経MJが特集した。最近の髭はあまり伸ばさないが、好感か不快かは接客を受ける方の価値観、年代でも違う。髪型も七三がトレンドになるなど、正統派が復活している。これらは企業側の指導教育というより個人の意識によるものではないか。そもそも売場が汚く、スタッフの身だしなみも悪い店は、販売員の心得以前の問題で、お客も寄り付かないと思う。
昨今、ほとんどのアパレル企業、小売業で経営者はデジタルシフトを公言している。一方で、「店を鍛える」という観念論は聞こえてくるが、具体的にどうするのかは見えてこない。大手セレクトショップを訪れても、特段に接客、対応は変わっていないからだ。講演会やシンポジウムでは、ECをテーマにするところは枚挙に暇がない。それはぞれで時代なのだろうが、どうも真意は違ったところにあるのではないかとさえ感じる。
売場のマンパワーに頼るビジネスはすでにコスト吸収が限界。だからいっそうのことそうした部分をカットし、デジタルに資源を集中して収益を上げた方が良い。 EC礼賛者の中には、そんな狙いがあるように思えてならない。でれじゃ、その分商品のクオリティが上がればいいのだが、お客は現物を見るわけでも試着するわけでもないのだから、その点はお客にはわからない。商品論が議論されないところをみると、コスト削減以外のどんな目的があるのかと問いただしたくなる。だからデジタルへの不信感は、くすぶり続けているのだ。
これからデジタルシフトがどんどん進めば、当然、中途半端な販売員を抱えている店舗は駆逐、淘汰されていく。逆に店が生き残るとすれば、販売員の力によるところが大きいということだ。システム化、マニュアル化された販売員の心得を、自分の感性、能力で実践に移していけるか。アナログとデジタルを使いこなしていけるのは販売員という生き物にしかできないことだからである。
販売員という職業が少なくとも安定するには、報酬を上げなければならないわけで、そのためには「客数と売上げを確実に向上させることが不可欠になる」。これはある意味、当たり前のことだ。その心得として、4つをあげられている。
1.顧客の購買プロセスを誘導するVMDのセッティング
2.売場のみならず後方ストック、他店やDC(商品配送センター)の在庫の掌握
3.顧客の購買労働負担を最小化し、購買利便を最大化する配慮
4.顧客が快適に購買できるクレンリネスと身だしなみの徹底
とのことである。業界コンサルの重鎮であり、プロフェッサーの称号を裏づける理論家として、明快で説得力のある見解と言えばそうだろう。でも、これを若者の夢を煽るファッション専門学校、販売員を採用するアパレルの小売り部門、大手チェーン店やセレクトショップが、教育の目標や就職の条件、指導育成や戦力化の目的として、切実にとらえているかである。
また、筆者がルポを書いて来た業界誌でも、こうした心得をテーマとする特集は定期的に組まれている。しかし、それは経営者や店長レベルの購読に止まり、小難しい内容をペーペーのスタッフが学習し理解し、売場で実践して来たかと言うと、それほど多くないだろう。だから、販売員の地位が向上しなかったとも言えなくはないが、正論だからと言って全てに納得、理解されるとは限らない。学生から就活生、新人、2〜3年目、中堅&チーフクラスとそれぞれの段階で、最終目標であるこの心得をよく咀嚼して、わかりやすく教育していかなければならないと思う。
では、具体的にどうすればいいのだろうか。まず、専門学校では用語の意味からして、18歳、19歳で学習意欲が高くない学生にはほぼ理解不能だ。現状の授業で行われているものも1ないし4の基礎の基礎くらいで、それも知識学習の域を出ない。おそらく2年間在籍しても、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)とディスプレイの区別もつかないまま卒業しているはずである。プロフェッサーが解説するIP(アイテムプレゼンテーション)やLP(ルックプレゼンテーション)という用語すら、授業では取り上げられていないのではないか。ましてそれらを実践して、お客を誘導し購買意欲(デザイアー)を喚起する陳列方法を教育する授業なんて、知っている限りのファッション専門学校では見たことが無い。
ある学校で学生に手持ちの服を持ってこらせ、数体のボディにトップからボトムまでコーディネートした授業課題を見たことがある。プロフェッサーがこれを見ると「全くLPになっていない」と酷評しそうなものだ。学生は自分の趣味嗜好で服を買っているわけだから、そんな手持ちの服でIPやLPを理解させようという講師、授業の方に問題があると言わざるを得ない。1を教育するには、アパレルや小売りとタイアップするなりして、実際の売場で販売する自分の嗜好と関係ない商品を使って、実践しないと無理である。
4のクレンリネスは、美容系の専門学校が力を入れており、定期的に授業前の早朝に地域の清掃に取り組む姿を見かける。ただ、それが学生にどれほどクレンリネスへの認識をもたらしているかというと、いたって漠然としているだろう。まあ、インターンや見習いで店の掃除をやらされるのは、依然として徒弟制度が残る美容業界では当然だ。また、自分が美容師の仕事をするなら、店が汚くては話にならない。ただ、学生側はまだ「やらされている」という意識だろうし、きれい好き、ものぐさなど個人の性格もあることだからやらないよりも、やった方がいい程度のものかもしれない。
ファッション専門学校では「クレンリネスの啓蒙」なんて、まず無いに等しい。掃除をさせる行為は、学生にとっては懲罰的な意味合いの方が強い。その程度の次元なのである。身だしなみのチェックにしても、せいぜい就職指導や模擬面接で行われている程度。これもかつては金髪でピアスをした学生が堂々と面接指導を受けていたし、学校側にも「学生の自覚に任せる」「そこまで深く指導しない」なんて妙な相互理解があるように感じた。最近はどうなっているかわからないが、就職指導における身だしなみチェックは、学校ごとでかなりの温度差があるのも事実。専門学校ではプロフェッサーが言うところの販売員の心得なんて、ほぼ習得させていないというのが実情ではないか。
2、3はそもそも専門学校教育では限界だし、学生には理解不能と思う。
では、業界ではどうなのだろうか。筆者は小売りの経験がほとんどないから、あくまで仕事で売場を訪れた時に触れたもの、経営者や店長との会話の中で見聞きしたことから、個人的な印象を述べてみたい。お客さんに商品を買ってもらうためのVMDは、百貨店や大手チェーン店での新人研修のカリキュラムには入っている。専門スタッフや担当部署でもキャリア教育として導入されている。それを社員募集のパンフレットやHPで訴えている企業も少なくない。
しかし、一個人の教育目標としての販売員の心得で、ここまでを目指している企業がどれくらいあるのだろうか。どうしてもセールトーク偏重、売ることの能力や技術の教育に一生懸命で、VMDのセッティングは疎かになっているのではないかと思う。ただ、中堅企業や個店も同様にVMDに関心が無いかと言えばむしろ逆だ。指導に力を入れているところは意外に多いと感じている。3年ほど前にある企業の雑誌広告を制作したとき、そこの社長から聞いた話がある。数店舗を展開するセレクト業態で、クリスマス商戦の時にバイヤーが売上げ拡大を狙い、一気に商品を投入した。
ところが、売場は在庫で溢れかえり、VMDはグチャグチャ。とても顧客を購買プロセスに誘導するような状態にはなっていなかった。たまたま店まわりをしていた社長は、それを見て激怒。「あんなに商品を詰め込んで、売上げや利益を得るのは目的なのか、手段なのか、どっちなんだ。12月はお客様の気持ちが一番華やぐ時だから、ウィンドウから人を楽しませてあげないと」と、店長やスタッフを叱咤したという。この話には続きがある。VMDのセッティングができない店があった一方、きちんとできていた店もあり、この社長はさっそく写真を撮らせて、VMD修正のために全店に送付させたそうだ。
まさにプロフェッサーが言うところの基本原理は、店のお得意さんを買いたくなる過程に誘い、買おうという気持ちを起こさせる陳列なのである。それを自店なりの売場づくりの中で解釈し、商品分類をいかにわかりやすく安定的に配置していくか。店は一販売員にまでも会得させていくことが重要ということである。
2の売場のみならず後方のストック、他店やDCの在庫の掌握は、大手チェーンではかなり浸透してきている。100店舗近くを展開するあるSPAは、商品の機会ロスをなくし、消化率のアップを目指すために売場単位でタブレットを導入した。これが販売スタッフのストックの棚割り整理、在庫把握にも貢献。何より接客中にタブレットを操作できることで、どこに在庫があるかわかり、客注は一番近隣の店舗から移動させている。お客に入荷予定が明確に伝えられ、時短にもつながっている。
逆にお客からすれば、ネット通販を利用することで在庫状況の把握が当たり前になっている。「残りわずか」の情報が発信されると、購買に対するお客の切迫感を刺激する。こうした手法が良いか、悪いかは別にして、検索の時点でお客が在庫状況を確かめるのが当たり前になっていることを考えると、スタッフがストックや他店、DCの在庫までつかんでいるのは、販売におけるメリットだ。一方で、個店レベルでは取引メーカーとの在庫情報の共有がどこまでできるか。まだまだそれができるスタッフが多い状況ではない。機会ロス、販売ロスを低減し、消化率をアップするためにも、今後の課題になるのかもしれない。
3の顧客の購買労働負担を最小化し、購買利便を最大化する配慮とは何か。購買労働とは店の中でのコーナー移動とか、フィッティングなどだろうか。セレクトはハイクラスではグルーピングが行き届いているから、それほどの負担には感じない。でも、ファストファッションはじめ海外ブランドの大型店舗、SPA化したセレクト、GMSの衣料品売場は結構商品を探すのに苦労する。特にGMSは在庫が多い割りに単品中心の配置で、スタッフも少なくサイズの適切なアドバイスを欠く店もある。そもそもがセルフサービスの売場づくりと「これください」的な対応だからしかたないと言えばそれまでだが、それならもう少し商品が探しやすい売場にしても良いのではないかと思う。これはグローバルSPAでも感じることだが。
また、中国人旅行客の増加で売場では、置き引きの被害も増えていると聞く。かつて有名専門店では視線の配り方などかなり教育されていたスタッフが見受けられたが、最近は教育が行き届かず、無頓着な人が少なくないと感じる。百貨店では男性スタッフがフォローする光景も見られる。まさかお客の自己責任しているわけではあるまいが、もう少し注視することも必要ではないか。まあ、これもオムニチャンネルが浸透し、売場がショールーム化する一方、店舗の力を見せつけるにはそうした対応が行き届くところが求められるわけだ。やはりこれは指導教育の成せる技ではないかと思う。
顧客の利便性という意味では、店舗のショールーム化、 ECサイトで販売している商品の試着、店舗受け取り、店舗購入の無料宅配などがあるだろう。顧客はすでにできるだけ手間とコストがかからないサービスを半ば当たり前のように感じている。これは販売員の心得というより、企業の方針、店舗の考え方になると思う。だが、服はまだしも、靴は試着をしないと、購入は難しい。こうした対応をしてくれるようなシステムが充実してくれば、オムニチャンネルも一気に浸透していくのではないかと思う。
クレンリネスについては、ダメな店舗はあまり見かけない。たまにパッキンがそのまま放置されている店はときどき見かけるが、これはクレンリネスの問題とは違う。筆者が企画に携わるアパレルの取引先セレクトショップは、社長がクレンリネスを啓蒙している。定期的に抜き打ちチェックをして、気づいた点を自らレポートし、改善を促しているのだ。それを見せていただき、印象的だったのは、「ハンガーラックのパイプやバーまで奇麗に磨こう」という社長の指示。ラックのパイプはフックが接触して擦れ、光沢を失うからだろうか。拭くだけではなく、「磨く」という点がクレンリネスの奥深さなのだろうと、改めて感心した。
身だしなみについても、洋服が好きで業界で働いている人がほとんどだから、不快にさせるようなら、周りのスタッフが先に気づくはずだ。筆者が業界に入った頃は、髭があまり快く思われなかった。それから20年くらい経って、百貨店でも髭のスタッフが増えて来たと、日経MJが特集した。最近の髭はあまり伸ばさないが、好感か不快かは接客を受ける方の価値観、年代でも違う。髪型も七三がトレンドになるなど、正統派が復活している。これらは企業側の指導教育というより個人の意識によるものではないか。そもそも売場が汚く、スタッフの身だしなみも悪い店は、販売員の心得以前の問題で、お客も寄り付かないと思う。
昨今、ほとんどのアパレル企業、小売業で経営者はデジタルシフトを公言している。一方で、「店を鍛える」という観念論は聞こえてくるが、具体的にどうするのかは見えてこない。大手セレクトショップを訪れても、特段に接客、対応は変わっていないからだ。講演会やシンポジウムでは、ECをテーマにするところは枚挙に暇がない。それはぞれで時代なのだろうが、どうも真意は違ったところにあるのではないかとさえ感じる。
売場のマンパワーに頼るビジネスはすでにコスト吸収が限界。だからいっそうのことそうした部分をカットし、デジタルに資源を集中して収益を上げた方が良い。 EC礼賛者の中には、そんな狙いがあるように思えてならない。でれじゃ、その分商品のクオリティが上がればいいのだが、お客は現物を見るわけでも試着するわけでもないのだから、その点はお客にはわからない。商品論が議論されないところをみると、コスト削減以外のどんな目的があるのかと問いただしたくなる。だからデジタルへの不信感は、くすぶり続けているのだ。
これからデジタルシフトがどんどん進めば、当然、中途半端な販売員を抱えている店舗は駆逐、淘汰されていく。逆に店が生き残るとすれば、販売員の力によるところが大きいということだ。システム化、マニュアル化された販売員の心得を、自分の感性、能力で実践に移していけるか。アナログとデジタルを使いこなしていけるのは販売員という生き物にしかできないことだからである。