HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

三文イベントの陰に政争あり?

2016-07-06 07:20:29 | Weblog
 さる6月24日、東京ガールズコレクション(TGC)の実行委員会は、福岡県北九州市のホテルで昨年に続き「TGC KITAKYUSHU2016」を10月9日に、小倉北区の西日本総合展示場で開催すると発表した。会見には、出演を予定するモデルの他に北九州市の北橋健治市長、福岡県の小川洋知事も同席したが、この手のイベントが改めて行政とべったりで、公金頼みでしか収益が安定しないということを示すような会見だった。

 同日には福岡アジアファッション拠点推進会議も、オフィシャルサイトで来年の3月19日に開催する「福岡アジアコレクション(FACo)2017」の出展ブランド、デザイナーの募集を開始。要項には「福岡を拠点とするブランドと、FACoをプロモーションの場にしたいデザイナー」に参加を促す旨が記されているが、これまでのFACoを見る限りでは地場ブランド、デザイナーが増える様子は一向に見られない。

 FACo自体が終日近くダラダラ続くのだから、尺を埋めるためのNB(ナショナルブランド)もフリーパスで多数参加している。イベントプロデュースにあたるRKB毎日放送は、そうした姑息さに触れことはなく、福岡県をはじめ福岡市、福岡商工会議所からも多額の補助金をもらっているため、便宜上「福岡ブランド」を強調しているに過ぎない。実に白々しい限りである。

 ところで、北九州市がTGC KITAKYUSHU2016を支援するのは、別の見方もできる。大袈裟に言えば、北九州市と福岡市の対立、福岡県知事と北九州市長の政争である。俯瞰して見ると、両者の構図は先鋭化する。TGCに代表されるガールズコレクションは、モデル崩れのタレントなどを起用した「客寄せ興行」だ。代表的なものでは他に関西を拠点にする「神戸コレクション」がある。現在、TGCはキャラクター制作のディー・エル・イーが商標権を持ち、神戸コレクションはテレビ局のMBS毎日放送が主催者を成している。つまり、コレクションを謳っていても、アパレル、ファッション業界が主催するクリエーション発信の場ではないのだ。

 主催者側はそうしたビジネスフォーマットを「町おこしイベント」「賑わいの創出」として、全国の自治体に売り込んでいる。福岡でも2009年から福岡アジアコレクション/FACoが開催されているが、これも神戸コレクションを下敷きしたものだ。プロデュースするRKB毎日放送はMBS毎日放送の系列会社であり、広告収入に限りが見えているローカルテレビが、新たな収入確保のためにこの手のイベントを「事業」として指南されたと見れば、実にわかりやすい。

 そこでは自治体から公金を拠出させるために、「地元ファッション産業の振興」「情報発信」「人材育成」という公共事業としての大義が打ち出されている。福岡の場合は、2008年のスタート時は麻生渡知事が県の首長で、事業を推進する福岡アジアファッション拠点推進会議も県知事主導、福岡商工会議所が参画する形になっていた。こうした事業構造も神戸コレクションが前例なっている面を見れば、背景ではいろんなことが画策されていたようだが、コピー事業の詳細は(株)ぜんまいT社長のSNSを見れば、なるほどと思える箇所が随所に出てくる。福岡県と福岡商工会議所は事業開始から3年間はメーンの支援者として年2,000万円程度の資金援助したが、「その後は独自で事業化しろ」と、事業実行者であるRKB毎日放送に伝えていたのは、多くの関係者が語るところだ。

 ただ、ガールズコレクションは客寄せ興行だから、メーンの収入はチケット代になる。あとはスポンサーに頼るしかないが、これにも限界がある。RKB毎日放送として事業利益をひねり出すには自治体からの継続支援が欠かせないわけだ。そこで救いの神となったのがタレントの顔を持って福岡市長となった高島宗一郎である。就任後、福岡市の経済観光文化局の予算のうち、「コンテンツ関連産業の振興」費を使えるように、FACoの他、これもRKB毎日放送が事業実行者になった事業に、年2,000万円弱が振り向けられた。

 コンテンツとはいったい何か。コレクションと言っても客寄せ興行だから、「観光インフラ」の一つと位置づけたようである。ご当地タレントなんかと並んで、「福岡に集客するコンテンツ」とでも言いたいのだろう。まあ、こじ付けでしかないのがよくわかる。その証拠に福岡県では堂々とファッション産業の振興、 情報発信、人材育成を目的とした公共事業と位置づけて公金を拠出し、今も助成を継続している。それに対し、福岡市は全く別の目的で事業予算を出したということ。一つの事業なのに税金の使い途としては全く違うのである。

 言い換えれば、RKB毎日放送からすれば、縦割り行政をうまく活用して事業資金を確保できたのだから、高島市長誕生はまさに渡りに船だったと言える。まあ、FACoのスポンサーには福岡市の税収源である「福岡ボート」がついた年もあった。福岡市の事業だけで予算を確保するには限界があるから、高島市長が市の息がかかる公営ギャンブルの販促費を振り向けさせたと言っても不思議ではない。つまり、RKB毎日放送がやることは、どんな形でも行政から事業費を引き出す。それがFACoを自社事業として継続していくカギとなるわけだ。福岡県が事業の大儀、目的にした地場アパレルの振興、人材育成など全く眼中にないのがよくわかる。

 一方、こうした客寄せ興行が町おこしイベントとして行政のお墨付きを得ると、今度は自治体同士のせめぎ合いという構図も生まれてくる。それが北九州市がTGC KITAKYUSHU2016の開催を始めた理由と言えるだろう。福岡県が福岡市のFACoに対して予算的に一歩引いたとは言え、補助金を拠出し続けている点は変わらない。北九州市の北橋市長、市の関係者からすれば、福岡市ばかりが福岡県の恩恵を受けるのは面白くないはずである。

 それ以上に福岡県知事と北九州市長の間には二代に渡って同じ学閥出身者が就任するという対立軸がある。麻生渡前福岡県知事は京都大学卒、末吉興一前北九州市長は東京大学卒。現在の知事と市長も同じ大学出身なわけで、京大のライバルである東大卒の北橋市長が小川知事に噛み付かないわけがない。ソフトな言い方をすれば、「北九州市の町おこしイベントにも福岡県は支援すべきだ」と、言い出すのは想像に難くない。

 北橋市長は兵庫の甲陽学院高校から東京大学に進学。1986年に北九州市がメーン地盤の旧福岡2区から衆議院議員に出馬し当選した。当時の所属政党が民社党ということを考えれば、新日鉄労組などの支援を受けたわけで、東大エリートの中に一定層はいる社会主義思想の一人であるのは間違いない。一方、 小川県知事は名門の県立修猷館高校から京都大学に進学した。同世代の東大入学組には東京都知事を辞職した舛添要一、急逝した元法務大臣の鳩山邦夫など錚々たるメンバーがいる。時は70年安保闘争が盛んなりし頃で、小川県知事は東大が全共闘にジャックされている最中に受験を迎えた。そのため、政済界では東大を避けたのではと目されているほどだ。

 だから、革新系の北橋市長が保守系の小川県知事と真っ向対峙しているかはわからないが、東大卒の北橋市長からすれば自分が年下でも学歴は上だと、首長の力を誇示したい気持ちは無きにしもあらずだ。結果、「福岡市で開催されるFACoが3月の開催なら、北九州市のTGCは10月に開く。春夏、秋冬とイベントが重ならないから町おこし、集客などで競合せず文句はないはず。北九州市にも県から補助金を拠出してほしい」。両者の間でこうした談合、いや密約が交わされたと言っても不思議ではない。でなければ、わざわざ北橋市長と小川知事がTGC KITAKYUSHUの記者発表に同席する必要はない。両名がカメラの前で並立したという点から、メディアも何らかの手打ちがあったと推察していると思う。

 もっとも、FACoとTGC北九州の分離開催には続きがある。FACoの元になっている神戸コレクションと本家の東京ガールズコレクションの提携話があることだ。神戸コレクションを主催するMBS大阪毎日放送は、「神戸コレクションは、関東では『東京ランウェイ』という同様のイベントを企画してきたが、同様のファッションイベントが同じ地域でいくつもあることに、非効率を感じるようになり、互いの力を結集させれば、ビジネス含め、更に新しい展開ができるのでは考えた」と、企画提携の理由を語っている。



 これはFACoと言おうが、TGC北九州と付こうがイベント内容はほとんど変わらないと、主催者が認めたようなものだ。両者が春夏、秋冬開催に分かれたのは、単に出展、登場する商品のシーズンで分けたと言うこともできる。そこで問題となるの当事者の利害だ。TGC北九州はTGCをそのまま持ってくるだけだから、北九州市の関係者がプロデュースする立場ではない。しかし、FACoは違う。RKB毎日放送の収益事業になっている。冠につく「福岡アジア」は行政から公金拠出を受けるための手段で、本家の神戸コレクションがTGCと企画提携しても、自分たちの利権を守るために是が非でも、名前は残したいはず。だからこそ、福岡アジアファッション拠点推進会議のサイトで「福岡を拠点とするブランドと、FACoをプロモーションの場にしたいデザイナー」に参加を呼びかけているのである。

 地場からアパレルやデザイナーの参加者がなくNBだけで開催すれば、福岡アジアの冠は意味を持たない。行政は補助金を減額することも考えられる。RKB毎日放送としてはそれは何としても避けなければならないわけだ。問題は他にもある。FACoはTGCを始動させたゼイヴェル運営の通販サイトを真似て、楽天市場にオフィシャルショッピングサイト「MODEL STREET」を出店し、外部企業に運営委託している。サイトを運営する企業は地場でTGCなどに出展するNBの通販を一手に手掛ける某社で、 MODEL STREETで販売する地場ブランドは、リンクイットの「ブージュ・ルード」くらいしかない。



 アパレルメーカーは卸売りが基本なので、商品は小売店を通じて販売される。業界の不文律からしてSPA化しない限りは直販できない。しかし、昨年度のFACoに出展した地場ブランドはたった5社6ブランド。そのうちSPA化して小売り機能を持っているのは、レディスハトヤが出かけるラトカーレ、サリアくらいだ。O'sps.Creativeのプリパルプリは、独自のプリーツ技術を生かした商品を販売している。だが、母体のOEMメーカーオザキプリーツはスタッフの給料遅配があるなど厳しい経営環境にあり、他社サイトまでの商品供給には疑問符がつく。ロイヤルチエはファー系のプレタブランドなので、MODEL STREETの客層とターゲットが違いすぎる。小売り機能がなければ単なるPRしかできないのは当然だが、他はすべてNBが顔を揃える中で卸が地場ブランドとして情報発信することに何の意味があるのか。しかも「15万円もの費用を負担しろ」というのだから、唖然とする。

 いったいMODEL STREETがどれほどのアクセス率があり、コンバージョンレートはどれくらいなのか。そうした媒体資料さえ公開していないのだから、サイトの価値はたかが知れているだろう。運営会社にとっては自社サイトが主力だから、MODEL STREETはプラスαくらいにしか思っていないと思う。第一、MODEL STREETのアップされているブランドのほとんどが自社の通販サイトを持っており、イベントの来場者以外がわざわざアクセスして、購入する理由などない。ブランドのファンならなおさらだろう。地元ファッションなどMODEL STREETでは埋没してしまいかねず、ファッション情報の発信力などほとんどないと見る方が妥当だ。

 RKB毎日放送を含めた利害関係者は、FACo事業に福岡県や福岡市、福岡商工会議所から毎年数千万円もの公金を拠出してもらいながら、委託先企業がサイトを運営しているとは言え、FACoは地場のアパレルからは堂々と出店料をせしめようとする。本来は資金力に乏しいアパレル関係企業を支援するために税金が事業に投入されたはずである。オザキプリーツはその典型だろう。

 福岡市が予算拠出する「コンテンツ事業」を見ても、いつのまにか利害関係者によって都合の良いように事業がねじ曲げられているのがよくわかる。まあ、来年のFACoにどれほどの地場アパレルが出展し、フリーのデザイナーが賛同するのか。昨年の参加デザイナー8名のうち2名ほどは北九州市で活動する人間だった。この両名がTGC北九州に参加すれば、秋冬とは言えFACo、TGCの関係が問われることになる。あの企画運営委員長はFACoとTGCの「連携」を口にするかもしれないが、これこそご都合主義でFACoに中身がないことを言っているようなもの。ファッション業界から失笑を買うのはいうまでもない。
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