HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

とりあえずスポンサーを。

2016-07-27 07:26:16 | Weblog
 日本ファッション・ウィーク推進機構(JFW推進機構)は、今年10月に開催する17年春夏の東京コレクションから アマゾンジャパンと冠スポンサー契約を結んだ、と発表した。アマゾンはすでにニューヨークのメンズファッションウィークのスポンサーも務めており、日本のデザイナーズファッションにおいても、アマゾンの影がひたひたと忍び寄ってきたといっても、過言ではないだろう。

 報道によると、アマゾンジャパンのジェームズ・ピータース副社長兼ファッション事業部長は、ECプラットフォームの活用で「日本のデザイナー認知を、外国でも高めることができる。消費者とブランドが直接つながる場を提供できる」と語った。とすれば、アマゾンのスポンサードは、東コレに出展するデザイナーズアパレルとの直接取引を視野に入れる狙いも伺える。

 アマゾンの前には12年春夏から16〜17年秋冬まで、メルセデスベンツが冠スポンサーについていた。東京ファッションウィーク(TFW)はメルセデスベンツのスポンサードで、高感度なイメージ発信が可能になったと言われる。だが、メルセデス側とすれば、それがベンツ車の販売につながったのか。結果的に見れば、そうではなかったようだ。

 前にこのコラムでも書いたが、 TFW期間中に開催される東京コレクションを見にくるお客はメディア関係者を除けば、国内外のショップバイヤーが大半である。デザイナーズ系ブランドの服が好きで、自店で販売している人たちだ。コレクションは販売する商品の仕入れを検討する場でもある。さらにバイヤーは自らも服に投資する比較的感覚の若い客層だから、ベンツのような高級車にまで投資する人間はごく限られてくる。経過を見れば、マーケティングや販売促進には、それほどつながらなかったというのが実情だろう。

 JFW推進機構側にしても、国(経済産業省)からの補助金がカットされたことで、イベントウィークの開催が八方ふさがりになりかけていた。その時、名乗りを上げたのがスポーツマーケティング会社のIMG(インターナショナルマネジメントグループ)であり、スポンサーとして連れて来たのがメルセデスベンツだったのだのである。今回のアマゾンのケースにIMGが関わったかは目下調査中だが、JFW推進機構にとって継続的にスポンサーを確保できたという点では、安堵したというのが本音ではないか。

 アマゾンは「ECとしてファッションとの親和性も高い。東京のデザイナーブランドは、卸し先の獲得に苦戦しているケースが多いので、その補完が期待できそうだ」と前向きに語っている。デザイナーアパレル側としては、アマゾンが大量に仕入れ売り捌いてくれれば、生産量や売上げの見通しが立って、好都合だろう。またすべてとは言わないまでもショップの中には、アマゾンがデザイナーズアパレルの専用コーナーを設けることで、売上げアップ、市場拡大に期待して出店しようというところが増えてくるかもしれない。

 海外のコレクションでは、バイヤー発注会という形ではなく、商品を消費者が即座に購入できるという試みも始まっている。ショップを通じて半年先に買うのではなく、コレクションがオンシーズンに近づくという地殻変動が起きつつあるのだ。アマゾンがスポンサードはそうしたデジタルビジネスの要素がファッションに加味されるわけで、お客にとってリアルタイムで「今はコレです」とトレンドを見せられると、買うしかないってことになる。アパレルメーカー側の生産態勢にも影響は必至であるのは言うまでもない。

 一方で、デザイナーズアパレルの中にはネット販売する小売店とは取引しないところがあった。小売店の中にもネット販売を嫌うところがあるのも確かだ。アパレルメーカーは小売店が自社のブランドを気に入ってくれ、責任をもって販売してくれるから卸していると自認する。それはショップが対象とするエリア内で、他の取引先の市場は侵さないという暗黙のルールを作り上げてきた。例えば、東京なら渋谷と郊外に数店舗、他は埼玉に1店や千葉に1店と取引するといった感じで、卸先エリアを分けていくというものだ。一方の小売店側もそうした売り方を守る形で、アパレルを口説いたり、取引を可能にしたりして、自店の商売を維持して来たのである。

 アマゾンのデザイナーズアパレルへの参入は、これまでアパレルメーカーと小売店の間で長年に渡って取り組まれてきた「バッティングさせない」という不文律を形骸化させることになる。ECの浸透により販売エリアはグローバル化し、事実上、意味を持たなくなってしてしまったということだ。

 バッティングさせなことは、ある意味、アパレルメーカーと小売店を共存共栄させてきた面はある。しかし、グローバルな自由競争が激化した今、こうした規制、談合のような古典的ルールは、かえってアパレル、小売りを弱体化してしまうとのご意見もあるだろう。しかし、デザイナーズアパレルを地道に自店のエリア内で売って来た中小零細の小売店としては、アマゾンの登場は死活問題になる。おそらく、アマゾンがポイントの導入などを進めていけば、小規模小売店の販売力など駆逐されるのは目に見えている。デザイナーズアパレル側も、取引先1社あたりの売上げはそれほど高くないわけだから、アマゾンの参入は救いの神として好意的に受け取らざるを得ないところか。

 もっとも、ことはそう簡単にはいかない。確かにアマゾンのセールスパワーは偉大だ。しかし、ネットにアップされる画像はサイズ、点数など決まっており、スペックや商品説明なども画一化されてしまう。ショップ独自サイトのようにセールスポイントや着心地などの訴求することはできないのだ。それに出店する店舗数は莫大な数に及ぶから、現状の検索機能程度では小規模なセレクトショップなど埋没してしまわないとも限らない。出店数が多い分だけ、お客がお目当てのデザイナーズブランドにヒットする確立も低くなるということだ。

 また、筆者がECでいつも指摘する「試着ができないこと」である。特にデザイナーアパレルは、服づくりに凝ったものが多く、お客の好き嫌いが激しくなる。着心地、素材感や色合いなど、実際に現物を見て試着してみないとわかりづらい。価格もそこそこ高いので、試着無しに購入するのはお客にとっては相当なリスクのはずである。つまり、アマゾンがデザイナーズアパレルを扱うことによって、どれほど売れる環境が活性化するのかは、まだまだ未知数だということである。

 ECに参入しない中小零細の小売店が唯一活路を見出すとすれば、肌感覚の対面販売ができることではないだろうか。ショップバイヤーは売場で常日頃から顧客とコミュニケーションし、好みやサイズを知り得ている。だから、東京コレクションの観覧、その後の個別展示会では、データに基づく仕入れ勘が働く。仕入れの段階で「この商品なら、あのお客さんが好むだろう」と、売り逃しや在庫過多のロスを抑えていけるのである。思いきって仕入れもできれば、今回は止めとこうともなるのだ。

 アマゾンでもレビューなどデータ分析することはできなくはないが、リアルな売場で得るきめ細かな顧客データではない。小売店はアマゾンに出店すれば、ネットの向こうに莫大な市場、顧客がいると考えがちだ。しかし、それはバーチャルやポテンシャルであって、実際のところはどうなのかわからない。特に小売り店にとっては顧客の顔が見えないのに市場規模ばかりに目がいってしまう。そこではかえって仕入れの感覚が麻痺し、余分な在庫を持ち過ぎ、ロスを生む可能性がなきにしもあらずだ。結果バーゲンすれば、ロスを生むのは言うまでもない。

 筆者周辺のアパレル関係者では、アマゾンのTFWスポンサードについて、「当面、JFW推進機構にとっては資金確保を優先した」との見方が支配的だ。とりあえず、カネを引っ張ってくるためのスポンサーに過ぎないということだろう。デザイナーズアパレルにとっても、アマゾンに直出店するもしくは取引先の小売店を通じて出店してもらうとなれば、EC部署の開設やスタッフ配置など新たな業務が増えてくる。販路が世界中に拡大する、売上げが増えるは、捕らぬ狸の皮算用かもしれない。

 おそらくJFW推進機構は、色めき立つデザイナーズアパレルに対し、「それほど簡単に売上げは伸びない」とクギを刺すとも考えられる。 アマゾンだって売上げ最重視の外資だ。売れない商品を好んで仕入れるとは思えない。その時にデザイナーズアパレルとしてどう対処していくのか。アマゾンのTFWスポンサードは、ビジネス面での新たなハードルになる諸刃の剣でもあるのだ。

 契約期間については明らかにされていない。報道によればジャパン社のジャスパー・チャン社長は「ロングタームの契約だ」と語ったようだが、短期に結果(効果)を求める外資系企業だけにいつ心変わりするかはわからない。デザイナーアパレルには、アマゾンへの出店の有無に関わらず、スポンサード中に売上げを積み上げるのは、ロングタームにする条件だと肝に命じるべきだろう。

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