Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

アガサ・クリスティの作品を通して読むイギリスの階級と社会

2016-05-19 22:03:00 | イギリス
日比谷図書文化館の「日比谷カレッジ講座」で「アガサ・クリスティの作品を通して読むイギリスの階級と社会」という講義があったので行ってきました。

日比谷公園にある日比谷公会堂、ちょっと「裏切りのサーカス」っぽい古めかしいビルで好きなのですが、この中に図書館があるのかと思ってたら、



隣の70年代風な近代ビルの方がそうでした。千代田区区民に限らず、この講座シリーズは誰でも受けられますし、申し込みは先着順で当日現金で料金1000yenを払うだけという気軽な企画です。



講師:上智大学文学部教授 新井潤美

プリントは、ジェーン・オースティンとクリスティ作品からの抜粋でした。
私のダメダメ書き込みは無視してね。



では、レポ行きますよ~

まず、クリスティが大変な人気がありドラマ/映画化も多いのはなぜか?という話が導入でした。それはイギリス人にとって普通の人が出てきて、いかにもありそうな話を面白く書いているからだそうです。(*それって、私のクリスティ印象「イギリス上流の暮らしを覗ける」と「ただの人ばっかりで退屈だな」とピッタシ合ってる!)

ではその「普通のイギリス人」像とはイギリス人にとってどんなものか?

オースティンのNorthanger Abbeyにはゴシック小説マニアの主人公が出てきて、そのゴシック小説とは「イタリア、スイス、フランスが舞台で美人のヒロインが怖い目にあった挙句にヒーローと結ばれる話」で19世紀頭に非常に人気があった。イギリス人にとっては文化的で洗練されている国はそれらの国で、雄大なヨーロッパの地形もドラマチックであった。それに比べイギリスは実際的でダサい、という自覚があった。国内の景色を見て感動する時も「スイスみたい」と言って(本当は全然違っても)喜ぶ有様・・・・だったそうです。

ただし、人口比で言えば少ないアッパークラスとアッパーミドルクラスの人達の生活がクリスティーの言う「イギリス的な」ものでした。人口は少ないながらも国の中心を担ってきたことや、彼女自身がその階級の出身であったためです。

それがどんなものかと言うと、クリスティの「白昼の悪魔」で、外国人のポワロが「非常にイギリスらしい子供時代とは?」とイギリス人女性に聞いた答えからわかります。
田舎・大きくてみすぼらしい家・馬と犬・雨の日の散歩・暖炉・果樹園のりんご・お金がないこと・古いツイードの服・何年も着ているイブニングドレス・放ったらかしの庭 ー

これは20世紀になって労働党政権が課した高額の相続税などで、カントリーハウスが維持できなくなり、取り壊されたり、残っても手入れされずにみすぼらしくなったので「大きくてみすぼらしい家」になったとのこと。
   
そしてそのカントリーハウスが、英国ミステリーの舞台に多くなるのは、そこが単なるマイホームではなく社交の場であったからです。ダウントンアビーなどでも見られるように、アッパーな人は使用人も連れてカントリーハウスに行くので人が多く集まり事件が起きる・・・ということなのだそう。余談ですが「house party」という言葉は、誤解されやすいが家でやるパーティーのことではなく、カントリーハウスの泊まり客のことだそうです。ですからホステスが「小さいハウスパーティーでごめんなさい」と言ったら、「お客さんが少なくて大勢の人を紹介できずにごめんなさい」という意味なのだそう。

「ナイルに死す」でアメリカの金持ち女性と結婚したい落ちぶれ貴族男が夢見る暮らしとは、キツネ狩りのホストができるメンバーになること、節約のため使われていない家の半分の改修、スコットランドでの狩猟(鳥)だそうです。Shootingと言えばそれは撃つのは鳥と決まってるそうで、Huntingと言えばキツネなんだそう。だからFoxhuntingなどと言ってしまってはお里が知れてしまうんだそうです。へ~~
、ためになるけどこの知識を役立てる日というのは来るのだろうか・・・

ポワロの友人でヘイスティングスという紳士がいますが、外国人であるポワロは彼の言動を基準に典型的なイギリス紳士の振る舞いというものを分析していて、「ナイルに死す」では、ヘイスティングスと同じイートン校出身の典型的なイギリス人の不自然な振る舞いに気づきそれが事件の解決につながったそうです。

その不自然な振る舞いとは、同じ部屋にいるとは言え「他の人同士の会話に口を挟むこと」だそうです。紳士たるもの、たとえ聞こえていても他人の会話に勝手に口出ししないのだそうです。・・・うん、それはなんかマナー的にわかるな。

それから二つの大戦の間に、アッパークラスの若者が刹那的な「今楽しければいいじゃん」ライフスタイルを送り、マスコミにも取り上げられたそうです。The Manfood of Edward Robinsonでは、危険を味わうことが目的で窃盗をする犯人というのが出てくるそうで、殺人まではしないが泥棒などをしたらしく、イギリスではそれが世間的に受け入れられていたそうな。退屈だからスリルを求めた「トミーとタペンス」みたいなキャラクターもその一種だそうです。(シャーロックかよ!と思いました)彼らはBright Young Peopleと呼ばれた。(スタンフォード・・・)


ミス・マープルは、フィレンツエのフィニッシングスクール(花嫁学校)出身の典型的なイギリス淑女です。彼女の活躍期間は長く、戦前~戦後の社会の変化が労働者階級の人達との関わりでわかるそうです。第一次大戦前にはアッパークラスの人にとって接する労働者階級の人とは住み込みの使用人くらいのものでした。それが戦後は住み込みはなくなり、通いの使用人になる。

その通いの使用人が住んでいたのが、戦後イギリスのあちこちに労働党により建てられた公営住宅です。1962年の「鏡は横にひび割れて」では、ミス・マープルがそういう住宅を見て「嫌な気持ちになる自分に嫌な気持ちになる」という下りが出てきました。

その人達は、完全な労働者階級というより、ロウアーミドルの人達で、おしゃれ(服の素材はポリエステルだけど)で小綺麗にしていて、楽しそうにいつも集まっている。夫たちはまあいい給料をもらってはいるのだけれど、家電製品を新しい制度の「月賦払い」で買いまくってるので奥さんたちは使用人として働かなくてはならないのだとか。

同じく戦後には、大きな邸宅が内部で区切られてフラットとして使われるようになりました。イギリスは、昔からアパルトマンの存在したフランスなどとは違ってアパートの出現は遅かったそうです。階級が混じるのを避けたというのが一説。

フラットは政府に買い上げられた後に、お金がない政府から新興富裕層の手に渡り、そこに映画女優などが住んでいるそうです。しかし、アッパークラスの住人は、そこを所有もしたけれど村の人たちに貢献もしていたのに、新しい住人はそれができないので、そう言った軋轢もまたクリスティの事件の引き金になったそうです。


講師によるおすすめ書籍:
「謎のクイン氏」アガサ・クリスティ
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ(これ、私も大好き)
「エドウィン・ドルードの謎」チャールズ・ディケンズ



今日は仕事の後、PTA活動もしてこれを聞きに行ったので、ちょっとハーハーゼーゼー息切れしてます・・・(汗)けどがんばって行ってよかった。公園の中で講演を聞けるとはねえ・・・

次回、来る6/2は、河合祥一郎の「ハムレットを音読する」ですよ!
まだ定員200名に達していないので申し込み可能です。詳しくはリンク先にて確認してくださいね。