イギリスで世界大戦と言えば第一次の方であると、その時代が舞台の「パレーズ・エンド」や「戦火の馬」「ダウントン・アビー」を見て知りました。
トレンチ・コートの語源になったトレンチ=「塹壕」の様子もその映像やお芝居で見ましたが、まさか、そのものの映画(DVD)まで見るとは自分でも予測していませんでした。
「ザ・トレンチ<塹壕>」1999年イギリス映画。
監督/脚本:ウィリアム・ボイド
撮影監督:トニー・ピアース(アンダーワールド、眺めのいい部屋、ハワーズ・エンド、ホワイト・ファング)
キャスト:ポール・ニコルス、ダニエル・クレイグ、その他とベン・ウィショー
第一次世界大戦における最大の会戦であり、イギリス軍史上最大の失敗だった「ソンムの戦い」を描く。この映画がイギリスで作られたのは話がわかります。が、日本でもこの映画は全国劇場公開され日本版DVDまで発売されていたとは知りませんでした。しかもアマゾンで\463?!
ベン・ウィショーのデヴュー作がこれで、しかも彼がヘルメットでダニエル・クレイグの鼻をへし折った、と知った時には興味を持ちましたよ。しかし出番もそんなにないみたいだし暗そうな戦争映画を英語オンリーで見るのはハードだからきっと私はこの映画は見ないだろう、と思っていた私がポチってしまうには十分な理由でした!
物語は、攻撃命令が延期された塹壕の中での、兵士たちの会話が中心です。延期決定から突撃まで二日間の物語。
ダニエルは軍曹ウィンター役で、彼の上のハート中尉(ジュリアン・リンド-タッド/THE HOURにも出てました)と小隊の部下に挟まれた中間管理職みたいな役です。一応主人公はビリー(ポール・ニコルズ)という若い兵士のひとり。彼を含め兵は全員10代の少年なのは戦局が思わしくないから。ウィショーくんはその中でもちょっとドジっ子で心優しい少年デニスを演じていて、ビリーの兄が撃たれた時、一生懸命ビリーを慰めようとして逆にウザがられてしまいます。カッコつけたい、男らしく見せたい年頃の少年の中で癒し系の存在感が。髪型もまたおサルさんみたいでね、そんな子がお茶を運んでくれたら癒されますよ・・・
戦争の極限状態の映画と言えば、日本軍を描いた「硫黄島からの手紙」を見ましたが、共通の空気が張り詰めてました。「日本軍はケダモノvsイギリス軍は紳士」みたいなイメージがあったのですけど(それは「戦場のメリークリスマス」のせい)イギリス軍とて下士官は自分の保身に必死だったり、兵卒はただのお兄ちゃん達。塹壕を出て見回りをした時にドイツ軍の兵士をひとり捕獲して来るのだけど、言葉も通じない一人を相手に数人で「ドイツ人は殺してやる!」と囲んで暴力を加える。出撃の直前に怖気付いて「事故です!」と泣いて言い訳しながら自分の脚を銃で打ち抜く兵もいた。
反対に、こういうのはイギリス軍だなーと私が思ったのは、迷路のような塹壕の分かれ道に、ロンドンの通りの名前を表示していたこと。「Patticoat Lane」とか「Heymarket」とか。それから、塹壕の出入りの合言葉を決めるのに、第1案が「シェイクスピア」だったこと。結局は敵が考えつきそうもない「Post Office」に落ち着いたのですが。
ちょっと意外だったのは、ウィンター軍曹が瓶から赤いものをスプーンで食べてると思ったら、それは奥さんのお手製イチゴジャムでした。軍曹ってそんなに偉くないのに持ち込みの食料もあるのですね。
そして食べ物といえば、攻撃命令の出た小隊は、暖かい食事をもらえます。そして恐怖心から少しでも解放されるようにとのウィンター軍曹の計らいでアルコールも飲ませてもらえます。この雰囲気は・・・戻ることのないカミカゼ特攻隊。
そしたら、それもそのはず、攻撃命令とは、先にヤリのついた銃を構えながら塹壕を出て、平原の350m先のドイツ軍の塹壕に向かってただ歩いていくことなんです?!「歩兵」とはよく言ったけれど、「戦火の馬」でサーベルかかげた騎兵が機関銃に撃たれて落馬し馬だけが走って行きましたが、あのような銃弾が嵐のように向かってくる隠れる所もない平原を、歩いて敵陣まで行って攻撃せよ、という命ですから、少なくとも敵艦に突撃すれば攻撃になるカミカゼよりも意味がない。横1列になって進む様子は将棋の歩のコマとまったく同じなんですよ!
欧米人が「神風特攻隊」について「日本人はなぜあんなことができる」などと不思議がりますけれども、それ以下の作戦をイギリス軍は決行していたのです。ドイツ軍の武器の性能の向上に、イギリス軍の戦法がまったく追いついていなかったのです。オックスブリッジ卒のインテリは戦場でテニスンの詩を読んでる場合ではなかったのですよ。
それでも最終的には連合軍が勝利したので、栄光の尊い犠牲となった戦没者を讃えるために、こうした映画も作られ続けているのかな。
最後に、この映画について2013年2月の「MailOnline」でウィショーくんが例のヘルメットも含めて発言していました。以下、抄訳。
ウィショーがまだ17歳の高校生で試験勉強をしていた時、学校や青少年劇団での彼のパフォーマンスを見たエージェントが契約したことから、この小さな役がもらえることになった。
「あれがまったく初めての仕事で、それまでプロの俳優に会ったこともなかったからどうしていいのかわからなかったのを覚えてる。」
と彼の東ロンドンの自宅近くのカフェで緑茶を口に運びながら彼は思い出していた。
「僕の最初のシーンは、塹壕の中をダッシュして角を曲がるとダニエルにぶつかるというものだった。」
「僕たちは、あの第一次世界大戦の端の尖った丸いヘルメットをかぶっていて、彼には『すごく尖ってるから気をつけろ』と言われた。」
「それで僕は塹壕を走って角を曲がり、ダニエルに勢いよくぶつかった。彼の鼻筋が切れた。それが本当に初めての仕事での初めての撮影だった。」
トレンチ・コートの語源になったトレンチ=「塹壕」の様子もその映像やお芝居で見ましたが、まさか、そのものの映画(DVD)まで見るとは自分でも予測していませんでした。
「ザ・トレンチ<塹壕>」1999年イギリス映画。
監督/脚本:ウィリアム・ボイド
撮影監督:トニー・ピアース(アンダーワールド、眺めのいい部屋、ハワーズ・エンド、ホワイト・ファング)
キャスト:ポール・ニコルス、ダニエル・クレイグ、その他とベン・ウィショー
第一次世界大戦における最大の会戦であり、イギリス軍史上最大の失敗だった「ソンムの戦い」を描く。この映画がイギリスで作られたのは話がわかります。が、日本でもこの映画は全国劇場公開され日本版DVDまで発売されていたとは知りませんでした。しかもアマゾンで\463?!
ベン・ウィショーのデヴュー作がこれで、しかも彼がヘルメットでダニエル・クレイグの鼻をへし折った、と知った時には興味を持ちましたよ。しかし出番もそんなにないみたいだし暗そうな戦争映画を英語オンリーで見るのはハードだからきっと私はこの映画は見ないだろう、と思っていた私がポチってしまうには十分な理由でした!
物語は、攻撃命令が延期された塹壕の中での、兵士たちの会話が中心です。延期決定から突撃まで二日間の物語。
ダニエルは軍曹ウィンター役で、彼の上のハート中尉(ジュリアン・リンド-タッド/THE HOURにも出てました)と小隊の部下に挟まれた中間管理職みたいな役です。一応主人公はビリー(ポール・ニコルズ)という若い兵士のひとり。彼を含め兵は全員10代の少年なのは戦局が思わしくないから。ウィショーくんはその中でもちょっとドジっ子で心優しい少年デニスを演じていて、ビリーの兄が撃たれた時、一生懸命ビリーを慰めようとして逆にウザがられてしまいます。カッコつけたい、男らしく見せたい年頃の少年の中で癒し系の存在感が。髪型もまたおサルさんみたいでね、そんな子がお茶を運んでくれたら癒されますよ・・・
戦争の極限状態の映画と言えば、日本軍を描いた「硫黄島からの手紙」を見ましたが、共通の空気が張り詰めてました。「日本軍はケダモノvsイギリス軍は紳士」みたいなイメージがあったのですけど(それは「戦場のメリークリスマス」のせい)イギリス軍とて下士官は自分の保身に必死だったり、兵卒はただのお兄ちゃん達。塹壕を出て見回りをした時にドイツ軍の兵士をひとり捕獲して来るのだけど、言葉も通じない一人を相手に数人で「ドイツ人は殺してやる!」と囲んで暴力を加える。出撃の直前に怖気付いて「事故です!」と泣いて言い訳しながら自分の脚を銃で打ち抜く兵もいた。
反対に、こういうのはイギリス軍だなーと私が思ったのは、迷路のような塹壕の分かれ道に、ロンドンの通りの名前を表示していたこと。「Patticoat Lane」とか「Heymarket」とか。それから、塹壕の出入りの合言葉を決めるのに、第1案が「シェイクスピア」だったこと。結局は敵が考えつきそうもない「Post Office」に落ち着いたのですが。
ちょっと意外だったのは、ウィンター軍曹が瓶から赤いものをスプーンで食べてると思ったら、それは奥さんのお手製イチゴジャムでした。軍曹ってそんなに偉くないのに持ち込みの食料もあるのですね。
そして食べ物といえば、攻撃命令の出た小隊は、暖かい食事をもらえます。そして恐怖心から少しでも解放されるようにとのウィンター軍曹の計らいでアルコールも飲ませてもらえます。この雰囲気は・・・戻ることのないカミカゼ特攻隊。
そしたら、それもそのはず、攻撃命令とは、先にヤリのついた銃を構えながら塹壕を出て、平原の350m先のドイツ軍の塹壕に向かってただ歩いていくことなんです?!「歩兵」とはよく言ったけれど、「戦火の馬」でサーベルかかげた騎兵が機関銃に撃たれて落馬し馬だけが走って行きましたが、あのような銃弾が嵐のように向かってくる隠れる所もない平原を、歩いて敵陣まで行って攻撃せよ、という命ですから、少なくとも敵艦に突撃すれば攻撃になるカミカゼよりも意味がない。横1列になって進む様子は将棋の歩のコマとまったく同じなんですよ!
欧米人が「神風特攻隊」について「日本人はなぜあんなことができる」などと不思議がりますけれども、それ以下の作戦をイギリス軍は決行していたのです。ドイツ軍の武器の性能の向上に、イギリス軍の戦法がまったく追いついていなかったのです。オックスブリッジ卒のインテリは戦場でテニスンの詩を読んでる場合ではなかったのですよ。
それでも最終的には連合軍が勝利したので、栄光の尊い犠牲となった戦没者を讃えるために、こうした映画も作られ続けているのかな。
最後に、この映画について2013年2月の「MailOnline」でウィショーくんが例のヘルメットも含めて発言していました。以下、抄訳。
ウィショーがまだ17歳の高校生で試験勉強をしていた時、学校や青少年劇団での彼のパフォーマンスを見たエージェントが契約したことから、この小さな役がもらえることになった。
「あれがまったく初めての仕事で、それまでプロの俳優に会ったこともなかったからどうしていいのかわからなかったのを覚えてる。」
と彼の東ロンドンの自宅近くのカフェで緑茶を口に運びながら彼は思い出していた。
「僕の最初のシーンは、塹壕の中をダッシュして角を曲がるとダニエルにぶつかるというものだった。」
「僕たちは、あの第一次世界大戦の端の尖った丸いヘルメットをかぶっていて、彼には『すごく尖ってるから気をつけろ』と言われた。」
「それで僕は塹壕を走って角を曲がり、ダニエルに勢いよくぶつかった。彼の鼻筋が切れた。それが本当に初めての仕事での初めての撮影だった。」