詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『つい昨日のこと』(107)

2018-10-23 09:07:17 | 高橋睦郎「つい昨日のこと」
107  地中海

ローマに征服されたギリシアが 逆にローマを征服した という
しかし それ以前にギリシアがまず 地中海に征服されたのだ

 ローマ帝国はギリシアを征服した。けれどもギリシア文化はローマを征服した、という意味だろうか。ギリシア文化がローマ文化に大きな影響を与えたことを、そう言いなおしているのだろうか。
 そうであるなら、二行目は、ギリシア文化と思っているものの「起源」は地中海にあり、ギリシアはその影響を受けているという意味になる。
 だが、地中海とは何なのか。

私たちがギリシアの魅力と思っているものは じつは地中海の蠱惑

 「蠱惑」は名詞だが、動詞にすると、どうなるだろうか。「たぶらかす」「まどわす」。だが、どうやって、たぶらかし、まどわすのか。
 その次の行で、高橋は、こう書いている。

その紺青の渦のかがやきから生まれた 神神も 知恵も 詩も

 「かがやき」でたぶらかし、まどわす。「かがやき」で「真実」を見えなくする。「神」も「知恵」も「詩」も、輝きであって、真実ではない。「嘘」だ。逆に言えば、嘘も輝くなら真実になる。
 ただの輝きではなく、絶対的、超越した輝き。
 うーむ。
 そうすると、「絶対的」「超越的」ということ、言い換えると非人間的、あるいは超人的なことが、たぶらかしであり、まどわしなのか。たぶらかすとき、まどわすとき、その主体は「絶対的」「超越的」である。「絶対的」「超越的」であれば、それがどんなものであれ「真実」。
 この関係を「真実」は「絶対的」「超越的」という「評価」によって「征服された」と言いなおすことができるかもしれない。


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