詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(115)

2019-04-13 08:09:26 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
115 イオアニス・カンタクジノスが勝ったので

 カンタクジノス側に負けた語り手が語っている。その声が、連がかわるごとに変わっていく。

彼はまだ自分のものである畑を見やる。
小麦と家畜、実をつけた果樹、
その向こうに先祖代々住んできた屋敷、
たくさんの衣装、高価な家具、銀器。

 この書き出しでは何があったのか、わからない。しかし、そのあと「行って足元にひれ伏したら」「イリニ令夫人の前に身を投げ出して赦しを乞うべきか?」と言うことばをはさみ、

アンナの一味に加わったのが間違いだった!
アンドロニコス卿があの女と結婚などしなかったら!
あの女が善行を施し、人間味を見せたことが一度でもあったか?

 と、怒りに変わっていく。しかも怒りの矛先はアンドロニコス卿夫人に向けられていく。その直前の嘆願の相手も「夫人」である。あらゆる争いは女が原因ということか。
 ほんとうの原因は、

もしもイオアニス卿の側を
選んでいたならば! そうしたら今も幸福だったのに。

 と主人公の判断なのだが、ひとはいつでも不幸を他人のせいにする。
 そのときの口調、「アンドロニコス卿があの女と結婚などしなかったら!」の「あの女」といいう言い方は、怒ったときの「常套句」だろう。カヴァフィスは、こういう常套句をつかうのが得意だ。ギリシャのシェークスピアだ。人が口にすることばをそのまま文学に持ち込み、ことばを活気づかせる。

 池澤は、

ビザンティン帝国末期の宮廷の政争を素材にしている。嘆く語り手は架空の存在だが、他の名前は実在のものである。

 と書いている。歴史に精通している人なら状況を思い浮かべることができるかもしれない。私は無知なので、読んでも何もわからない。「あの女」という口調だけで充分だ。



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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