詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

山佐木進『絵馬』(ワニ・プロダクション、2008年04月25日発行)

2008-05-16 00:07:12 | 詩集
 山佐木進『絵馬』(ワニ・プロダクション、2008年04月25日発行)
 山佐木進『絵馬』に1篇、おもしろい詩がある。「同行二人」。

え っと
ひと文字
ひらがなになって流れている
ちぎれ雲

地の上の
どんな秘めごとを見てしまったのか
あるいは
ききそびれた誰のささやきが
横切っていったのか

岬の歯ぐきに
白い言葉の泡を散らかしている波よ
山陰本線単線電車から
海の方向へ
夏の背中が降りて行く

 夏の風景がスケッチされている。ちぎれ雲を「え」の字に見立てた。それだけといえばそれだけのことなのかもしれない。それでも、私はおもしろいと思った。「ひらがなになって流れている」の「ひらがな」のていねいさが、いいなあ、と思う。見えたものを、ただそのまま見えるままにしておくのではなく、定着させるための工夫--そういうていねいさがある。
 そのていねいさは、2連目では少しありきたりである。「秘めごと」「ささやき」というのは、「え」ほどの新鮮さがない。
 3連目の「岬の歯ぐき」はおもしろいと思う。ここに「肉体」が出てきたので、そのあとの「夏の背中」が単なる比喩ではなく、リアルなものになっている。「夏の背中」などというものは現実にはないのだけれど、「歯ぐき」につられて、そのないものが見えてくる。そのないものを見えるようにする、ということばの動きが「え」と通い合って、気持ちがいい。
 山陰(ちょっと広すぎて、どこなのだろう)へ行って、ちぎれ雲が「え」の字になって流れていくのを見てみたい。そういう気持ちになった。





風土記―詩集
山佐木 進
草原舎

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