ひとひらの雲

つれづれなるままに書き留めた気まぐれ日記です

多摩川にさらすたづくり…

2015-11-25 18:44:37 | 日記
 調布には友人がいるのでよく出掛けたものですが、最近は年のせいでしょうか。足が遠のきました。調布は深大寺そばで有名なところでしたが、朝ドラ「ゲゲゲの女房」のお蔭でぐんと知名度が上がりましたね。水木しげるさんのお蔭です。また甲州街道沿いにあるこの町は江戸時代に宿場町として栄え、近藤勇の生家があったことでも知られています。近年では昭和の大スター石原裕次郎さん等、多くの著名な俳優さんたちが育ちました。調布には日活撮影所がありましたから。

 近くには多摩川が流れていて、幼い頃に川で泳いだ記憶があります。今の多摩川と違って流れが速く、水が綺麗だったんですよ。渡し舟もありましたね。当時はまだプールがなかったので、ごつごつした石の川原に古タイヤ(貸し出し)を置いて甲羅干しをしたり、タイヤに乗って川を流れていったり、楽しかった思い出があります。最近は水量も増えて、泳げるような川ではなくなりましたけれど、万葉時代にはここで布を晒していたんですね。

 多摩川に さらすたづくり さらさらに 何ぞこの児(こ)の ここだ愛(かな)しき

 万葉集東歌(あずまうた)の中にあるこの歌、「多摩川に晒している布のように、さらにさらに何でこの娘がこんなにも可愛いのだろう」という恋の歌です。どんな時代にも人は恋をし、恋する心はいつの時代も変わらないようです。

 現在の多摩川

 また、この歌は調布の名の由来とも関係しているんですね。律令制で行われた租税法で租庸調(そようちょう)というのがあったのを覚えておられるでしょうか。租は田畑の収穫に対する税、庸は労役を提供する人頭税(労役のかわりに米や布を納めることも)、調は諸国の特産物を納める税で、この土地では調として布を納めていました。それで調布という地名になったのですが、府中(国府が置かれた場所)と同じように同名の都市は他にもあります。

 たづくりの展望レストラン

 「手づくり」は「手織りの布」のことですが、「調布」と書いて「たづくり」とも読んでいたようです。お土産品として「たづくり最中」がありますし、市庁舎の隣にある文化会館も「たづくり」といい、展望レストランから調布の街が一望できます。遠くには多摩川やよみうりランドの観覧車も見えますよ。
 薬子の時代にも、この「たづくりの里」から朝廷へ布が献上されていたのでしょうね。徭役で都へ上った人たちがいたかもしれません。

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紅葉(もみじ)の錦(にしき)

2015-11-11 18:37:33 | 日記
 紅葉のシーズンになりましたね。我が家近郊でも高尾山や大山など、紅葉狩りで賑わっているようです。穴場としては宮ケ瀬湖でしょうか。近くの公園でも色づき始めましたけれど、見頃はもう少し先のようです。川や池に散り敷いたもみじは、美しい模様のように見えます。「紅葉の錦」という言葉があるように、この情景は歌にも詠まれ、着物の絵柄にも用いられてきました。

 あらし吹く 三室(みむろ)の山の もみじ葉は 竜田(たつた)の川の 錦なりけり(能因法師)

 錦というのは国語辞典によると「金銀など数種の色糸で模様を織り出した厚地の高級な絹織物」、「美しくりっぱなもの」とありますけれど、「錦の御旗(みはた)」、「故郷に錦を飾る」、「錦鯉」などとも使われて、素晴らしいものの象徴になっていますよね。紅葉はその錦を織りなすものであるわけです。他にも、

 見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の 錦なりけり(紀貫之)

 などなど和歌には多く詠まれてきましたが、私が小学生だった頃、「紅葉(もみじ)」という唱歌がありました。「秋の夕日に照る山もみじ」で始まるあれです。「松をいろどる楓(かえで)や蔦(つた)は、山のふもとの裾模様(すそもよう)」と歌われ、2コーラス目には「赤や黄色の色さまざまに、水の上にも織る錦」とありましたね。そういった文化は現代にも脈々と受け継がれてきたようです。

   水面に映える紅葉

 上の写真は去年撮影したものですが、ほどよく色づくと一幅の絵になりますね。紅葉(もみじ)はもともと健康のシンボルで、その精気を人間の身に摂取し感染させるのが紅葉狩りという行事の目的だったそうです。

       

 秋の日に輝く健康のシンボルは明るい印象ですよね。でも、中にはこんな歌もあります。
 秋は来ぬ 紅葉は宿に 降り敷きぬ 道踏み分けて 訪(と)ふ人はなし(読み人知らず)
 秋という淋しい情景の中に、訪れる人のいない身を嘆いているこの人は、きっと失意の中にあったのでしょう。感傷的な歌です。

 さて、今年の紅葉狩りはどこへ出掛けましょうか。

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